第58話 記憶喪失
私は全く理解できなかった。ここ数日うちに、何か藤原さんにあったのだろうか?でも、昨日一緒に厨房で調理していた時は、そんな感じは全く無かった。
昨晩のうちに、何かショックな事でもあったのだろうか?
でも、だからといって、こんなひどいことを普通にできるものだろうか?
藤原さんの顔は、完全に生気がなく、夢遊病者みたいだった。何かの病気なのだろうか?
それとも、私の想像以上に、人はとても脆く、簡単に壊れてしまうものなのだろうか?
藤原さんは、最初警備隊の取調室に連れて行かれたが、その後、医務室に連れて行かれたと聞いた。なんでも過去の記憶がないらしく、自分が誰だかも分からないらしい。
私は、もう一度藤原さんに会ってみたかった。別に自分が会えば、過去の記憶が蘇るとかは思っていなかったが、本当に記憶を失ったのか、どうしても気になったからだ。
炊事仕事の合間に、医務室へ行った。
部屋の前に、男の人が立っていた。入ろうとしたら、止められたので、事情を話した。以前、藤原さんと同じ職場で、仕事外でも一緒に遊びに行ったことがあると。
男の人は部屋に入り、誰かと話して、入れてくれた。
「部屋の中のものには何も触らないでください」
部屋の中に、もうひとり男の人が居て、その人がそう言った。見張り役のようだ。はいと言って、次の部屋に通してもらった。
部屋の真ん中にベッドが一つあり、藤原さんはベッドで寝ていた。いや、正確には縛られていた。両手、両足を固定されて、胴体も紐でベッドに縛られていた。
「私、分かる?」
声をかけると、目を開けて、こっちを見た。
「誰?」
藤原さんはそう答えた。
「厨房で一緒の千里。ほら、カフェ行ったり、松島行ったりしたじゃない」
「カフェ?松島?」
藤原さんは表情を変えずに、そう言った。
あー、藤原さんは本当に覚えていないんだ。もう以前の藤原さんではないんだ。
他にも色々、共通の話題を出したが、全く覚えがなかった。
私はその部屋から出て、外の見張り役の男の人に原因を聞いた。
「それが全く不明です」
芝居をしているようには思えないから、何か催眠術のようなものにかかっているのではないかという話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます