第57話 武器庫爆破



藤原さんとシフトが重なる日は、炊事場で何度か顔を合わせ、時々話した。


ある日、私はいつもどおり厨房へ行き、藤原さんがいなかったので、シフトが別かなと思い、料理の手伝いをしていた。


突然、外で大きな爆発音がし、窓ガラスがバリバリッと振動し、建物全体が横に揺れた。何人かは床にしゃがんでいた。


音が鳴り止んで、私は厨房の窓から、音がした外を覗いてみると、いくつかの建物の向こうから、真っ黒の煙がもうもうと立ち上っていた。


だれかが、あれ武器庫の方じゃない?とつぶやくのが聞こえた。


駐屯地の消防隊が消防車で向かっていくのが見えた。


皆、火事場を見に、仕事をほっぽりだして、厨房を出ていったので、私も付いて行った。


いくつか建物の横を過ぎて、火元が見える場所まで来た。火元は平屋の建物で、ほぼ建物全体から真っ赤な炎が出て、そのすぐ上に煙が出ていた。時々、散発的に爆発音が聞こえ、中の何か爆発物に引火しているらしかった。爆発の衝撃で、武器庫内の小銃やらが付近に散乱していた。


消防隊は水をかけていたが、ほとんど効果なしという感じで、燃え尽きるのを待つしかなかった。その少し後ろ側に、野次馬が、消防隊と武器庫をぐるりと取り囲んでいた。


私は、ふと、藤原さんが私のかなり前に立っているのに気付いた。藤原さんは消防隊よりも前に、武器庫のすぐ近くに、放心したように、ぼーっと炎を見つめていた。消防隊が危ないから下がってと声をかけても、藤原さんは反応しなかった。消防隊の人が藤原さんの手を引っ張ると、藤原さんはバランスを崩して、その場に倒れた。


しばらく倒れたままだったけど、ゆっくりと上半身を起き上がると、周囲を見渡して、近くに落ちていた機関銃を手にとった。弾倉を充填し、グリップを持って立ち上がると、消防隊の方へ向かって、構えた。


消防隊も、野次馬も、一瞬、あれ?という感じだったが、次の瞬間、タタタタターンという軽い射撃音で、消防隊員が倒れた。


皆一斉に同心円上に走り出した。藤原さんは、消防隊や野次馬に向かって見境なく乱射した。近くの人はほぼ全員逃げ遅れて、次々に撃たれて倒れた。


周囲から蜘蛛の子を散らす様に、人が走り去ると、藤原さんは機関銃を持ったまま、歩き出した。藤原さんが向かう方向にいる人は、また更に遠くに逃げるために走り出して、周囲はパニックになった。


私は、藤原さんが向かう方角にいた。私も、周りの人と一緒に走って逃げた。


少し走って建物の影などに入り、一時的に死角に入ったので、皆安心してちょっと休んだ。誰かが角から藤原さんの様子をうかがい、こっちに来たというから、また全員が走り出した。


藤原さんは近くの建物に入ると、しばらくして、機関銃の連射音が聞こえた。そこで乱射をしたようだった。駐屯地の警備隊が数人やって来て、建物の出入り口を固めた。そこへ藤原さんが出てきた。


「武器を捨て、投降しなさい」


警備隊が拡声器で警告したが、警告している最中に、藤原さんは警備隊に向かって乱射し、全員その場にバタバタと倒れてしまった。


私は別の建物の事務室に、何人かと逃げ込んだ。


藤原さんは、さっきの隣の建物に入ると、そこでも乱射して、しばらくすると、出てきた。


服に、血の飛沫が付いていた。


そして、今度は私達のいる建物に向かって歩いてきた。入り口から入り、先に隣の部屋に行き、そこで連射音が聞こえた。


次に、私達が隠れいてる部屋に来た。私は机の下に隠れた。藤原さんは乱射した。


隠れている中のひとりが、恐怖に耐えられなくて、反対側の扉から逃げようとした。藤原さんはその人に向かって連射し、その人は扉に赤い血の跡を付けて、床に倒れ込んだ。藤原さんは私が隠れている机の方へ歩いてきた。


私から藤原さんの顔は見えないけど、足の先は見えた。


もう逃げられもしないし、頭は真っ白で、とにかく動いたらだめということしか分からなかった。もしかしたら、気付かずに通り過ぎてくれるかもしれない。


その時、誰かが藤原さんの後ろから走ってきて、思いっきりぶつかって、藤原さんを押し倒した。機関銃は簡単に藤原さんの手から放り出された。


藤原さんは抵抗するでもなく、抑えられるままだった。


私は、目の前で倒れて、抑えられている藤原さんの顔を見て、少し驚いた。全く無表情で、目が死んでいた。意志のない顔をしていた。


しばらくして、警備隊が到着し、手錠をかけられて、どこかへ連れて行かれたが、藤原さんは素直に指示に従った。



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