第50話 失踪
翌朝、いつもどおり炊事仕事の手伝いをして、朝食後は、食器洗いをした。昼近くなっても、佐野さんとソフィアを見かけなかった。午後、佐野さんの宿舎を見に行くと、空だった。ソフィアのところかなと思って、ソフィアの宿舎に行っても空だった。
しばらく状況が理解できなかった。
もしかして、私は騙された?
佐野さんがそんなことをする人には思えなかった。でもそうとしか考えられなかった。
頭をガーンと叩かれた気分だった。自分がとてもバカで、舐められていた気がした。一人前に人助けした気になって、調子に乗っていた自分が惨めだった。
急に疲れて、その場にしゃがみこんだ。
ふと、佐野さんはここに居づらくなったんじゃないかなという思いが浮かんだ。騙すつもりはなく、自分のみっともなさに、私や一戸さんに顔を合わせられなくなった。
それならしっくり来るし、その気持ちはよく分かる。
私も高校に居づらくなって、辞めたから。
そうだ、きっとそうだ。
そして、それなら、騙すつもりでなかったことが、悪意ではないから、私の心の救いになった。
一戸さんが私を探しに来たので、佐野さんの失踪を話した。一戸さんはため息を付いて
「全く」
と呆れた。
佐野さんの所属する小隊へ行き、一戸さんが報告した。
佐野さんの扱いがどうなったかはわからないが、私の印象では、全く何も行動は取られなかった。つまり、放ったらかし。
忙しくて、人手が足りなくて、いつ武装グループが襲ってくるか分からない状態だからかもしれない。でも、皆の対応は私には想定外だった。
もっと避難の大合唱が起こるものかと思っていた。でも、そんなものはなかった。
私は高校を中退して、人並みの生活から脱落し、社会的落伍者になり、人間失格、人生が終わった気がしていた。
佐野さんもそういう扱いになると思っていたけれど、皆何事もないように日常が進んでいった。むしろ「あー、やっちゃった~」って感じで少し愛着を持たれている感すらあった。
もしかして、私の中退も、あまり世間的には大したことではなかったのかもしれない。
佐野さんに対する怒りは全く感じなかった。ティアラへの執着も全くない。
佐野さんはこのままソフィアとここに居たら、居づらい状態がずっと続くことになる。ソフィアを幸せにするために、誰も彼らの過去を知らない他の土地に移動し、そこで最初から始めたいと思ったのかもしれないし、それが正解だろう。そのためには、多少の犠牲は必要で、私はその犠牲に含まれた。
私は、むしろ、佐野さんみたいな、自由な生き方があるということを知った。そして、今までの自分のすべてを犠牲にしてまで、これからの人生をかけることができる人に出会えた佐野さんが、少し羨ましかった。
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