第49話 300万のティアラ
私は、通信小隊と一緒に川口に行って以来、時々通信機のチェックも行っていた。バッテリーが切れていないかとか、各操作スイッチが外れていないかとか。
たまたま電源を入れていた時、ブーっと呼び出し音がなり、人の声がした。佐野さんだった。
「どうしたんですか?」
佐野さんは事情を説明した。ケツ持ちのヤクザに拉致されて、代わりに借金の支払いを求められ、産廃処理場にいるという。借金の額は300万円。私は一戸さんを呼んで、どうしようか考えた。
一戸さんは、隊としては何もできない。でも、警察に通報しても、市内の治安維持で手一杯で無理だろう。だいたい、借金があるのに、踏み倒そうとするのは分が悪い。だから、解決策は、300万払うしか無い。そういうことだった。
私は助けてあげたかった、正確に言うと、困っている人がいるなら助けるべきだという義務感を感じていた。一時的に建て替えるという方法もあるが、建て替えるべき300万が、私にも一戸さんにもない。
私の母は、宝石細工の技師の仕事をしていた。よく自宅で装飾品のちょっとした加工をしていた。完成品は都内の店に持っていくけど、途中の品や、加工の際の参考に、店頭に並ぶ商品を家に持ってくることがあった。
もしかしたら、店頭販売用の正規の商品があるかもしれない。それなら数百万の価値はあるだろう。
一戸さんに車で家まで送ってもらって、商品を探した。ティアラがあった。
いくつか宝石が付いていて、かなり手の混んだ銀の装飾が施されていた。
それを取ると、佐野さんに指定された産廃処理場へ向かった。
産廃場には、数人の男と、ソフィアと佐野さんがいた。佐野さんは縛られて穴の中で、半分埋まっていた。
一戸さんが、借金を返したら二人を解放するかと確認すると、すると店長は答えた。
私はティアラを渡した。店長はしばらく見とれていて、納得したように頷いた。
「帰るぞ」と言い、仲間と去っていった。ソフィアはその場に留まっていた。
私と一戸さんで、佐野さんを掘り起こした。4人で一戸さんの車に乗り、駐屯地へ帰った。
佐野さんは車中で何度も謝った。ソフィアは泣いていた。
私はソフィアは悪い人ではなさそうに見えた。
後部座席で、佐野さんは泣きながら言った。
「俺みたいなブ男が、ソフィアみたいな子と付き合えるのは、一生に一度あるかないかなんだよ。だから、このチャンスを逃したくなかったんだよ」
ソフィアは泣きながら、佐野さんに抱きついて、何度もありがとうと言っていた。
「この御恩は決して忘れません。300万円のティアラ分の借りは、一生かかって絶対お返しします」
佐野さんは何度もそう言った。
駐屯地に着いた。
とりあえず今晩は、空きの宿舎にソフィアは泊まってもらうことになった。佐野さんは自分の宿舎に戻っていった。
私はなんだか気分が良かった。ハッピーエンドになったからだ。
まず、ソフィアが金目当てでなかったこと。
次に店の嬢と客という関係でなくて、ソフィアと佐野さんが1対1の人間関係になれたこと。その際に、私の母のティアラを失う事になったけど、母はずっと帰ってこないし、その価値はあったと思えた。
人のためになることをすると、爽快だなと感じて、その晩は久しぶりに熟睡できた。
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