第6話 隠し通路

私達の数人が、御神体を祀ってあるひな壇の後ろに回り込んだ。浜田さんが叫んだ。

「こんなところに、扉がある」

見ると、ひな壇の後ろに、高さ1m弱の小さな木製の扉があった。彼はその扉を横にずらした。すっと扉は開いた。彼は中を覗き込むと、階段がずっと下の方へ続いていた。

「ここから逃げよう」

彼は全員に手招きし、全員を中に入れると、扉を閉めた。

階段は地下へ続いていて、真っ暗だった。先頭の水崎さんが懐中電灯を出し、照らした。しばらく階段に従って地下へ降りていくと、やがて水平になった。地下1,2階くらいの深さだろうか。地下はひんやりとして、湿っぽかった。水崎さん、佐田倉さん、張本さん、私、浜田さんの順に進んだ。時々、懐中電灯の光で、私の目の前の張本さんの横顔が目に入った。とても落ち着いていて、意外だった。きっと今まで何度もこういう修羅場を経験してきているのだろう。それに比べて、佐田倉さんはかなり動揺していた。男性の中では一番若そうだし、同じ駐屯地出身の岡本さんがさっきの戦闘で亡くなっているからだろう。

なんとなく、地下道が登りになっている気がした。

しばらく進むと、暗闇の先に明かりが見えてきた。近づくと、それが外への出口だと分かった。やがて、目の前に、木製の柵が現れ、その隙間からは眩しい日光と、木々が見えた。水崎さんが柵の隙間から外を覗いたが、人の気配はなさそうだった。柵は何かロープのようなもので開かないように固定されていたので、水崎さんがナイフを出し、ロープを切って柵を開けた。

そっと音を立てないように、ゆっくり外に出た。鳥のさえずりしか聞こえず、さっきの銃撃戦が嘘のようだった。周囲を見渡してみると、神社のいくつかの建物の屋根が眼下に見えた。神社の裏山らしい。

多分、中国兵もやがてこの抜け道に気づき、追ってくるだろう。急いでここは離れた方が良い。

浜田さんが行こうと声をかけ、皆が歩き出した。みな、車は境内前に置いてきたので、車を取りに行くことはできない。どこかで別の車を調達しなければならない。そのためにも、車通りのあるところへ行く必要があった。

私は皆のあとを、背中に通信機を背負って付いて行った。

神社を離れるように、裏山を峰に沿って進み、山を下った。ちょっとした通りに出た。

地図を確認すると、少し西に進んだところに、ドライブウェイがある。そこまで行って乗せてくれる車を探すことになった。ただ、そのためには、川を渡らなければならない。地図では少し北上したところに、橋がある。そこを目指した。通り沿いに進んでいると、後ろの方から、数台の車列が、通りを北上してきた。もともとこの辺りは見かける車の台数が少ないから、数とその勢いで中国兵が乗っている車列だと思えた。他の隊員も同じ事を思ったようで、みなどこか隠れられるような所がないか探したが、通りの両側は平らな原っぱで、所々にしか民家は立っておらず、隠れられるようなところはどこにもなかった。橋まで走れば、車列は横に広がれないので、迎撃に有利だ。

橋までもう少しのところなので、みな一斉に走り出した。

私はあまり運動は得意な方ではないので、遅れ気味にぜいぜい言いながら、皆の後に付いて行った。

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