第4話 偵察衛星

ある日、通信小隊の小隊長が呼んでいると言われて、会いに行った。

「ちょっと、お願いしたいことがあるのですが」

そう言って、隣の打ち合わせ室に案内された。

机に向き合って座ると、彼は説明し始めた。

駐屯地の主な隊員は、東京方面からの攻撃に備えて、荒川沿いに展開しているので、動けない。

そこで、ある仕事を頼みたいと。

「本来なら、正規の自衛官がするべきことなのですが」

彼は続けた。

種子島の宇宙センターに、自治体連合に協力するグループがいて、偵察衛星の制御装置を桶川のホンダエアポートまで空輸することになった。途中、四国、関西、東海と中国傀儡政府側の空域を通過するので、レーダーに映らないように低空飛行をした。それが、エンジントラブルで岐阜に不時着した。

偵察衛星の制御装置の回収と、その操作手順を知る同乗していた博士の救出のために、救出班が編成され、その通信役を、再度引き受けてもらいたいと。

仕事は単に通信機を背負って一緒に行動するだけで良いとのことだった。

通信機はランドセルほどの大きさで、30cmくらいのアンテナが片側に付いていて、反対側にはグルグル巻のケーブルでマイクがぶら下がっている。

歩兵小隊が作戦行動に移る際の、連絡要員だ。

仕事内容自体はそんなに大変ではない。それに前にも一度通信係はやったことがある。

私は、その仕事を引き受けた。


他の師団や旅団の隊員との共同任務ということで、大宮の32連隊からは私ともう一人、2曹の浜田さんという30前後の男の隊員の計二人が参加する。他に第12旅団と第6師団から、それぞれ二人ずつの、計6人であたる。

他の部隊の隊員との集合場所は岐阜の白川郷だ。

その近くで、輸送機が不時着したからだ。

私は、大型トラックの荷台に載せられて、埼玉から自治体連合側の長野まで行った。岐阜は、中国傀儡政府側のため、自衛隊のトラックではバレてしまうので、白のバンを借りて、二人で岐阜の白川郷へ向かった。浜田さんが運転し、私は助手席に座り、後ろに荷台に通信機を置いた。クッションの効いた座席は心地よかった。

集合場所の、古手神社についた。境内に入り、ぐるっと見渡したが、誰もいなかった。拝殿横の本殿に向かうと、本殿の扉が少し開いていた。浜田さんは階段を登り、本殿を覗いた。

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