7。花の宴、開幕 ①
あっという間に日が暮れて行き、漸く『花の宴』が始まった。花の宴が始まる頃には、外が薄暗くなっている。宴が開催される場所は、後宮の中でも王宮の中でもなく、王宮と後宮の両方に近い庭園の一角であり、その付近一帯だけが明るく照らされていた。
庭園は物凄くただっ
この世界はギャルゲーなのだと、改めて思い出した
どうやって、明かりを
怜銘がそう思うのも、当然だ。貴族の令嬢である彼女には、詳しい説明はされていないだけで。今まではそういうことは、深く考えても来なかったし、実家ではロウソクを使用している為、こういう不思議な環境は初めてだったのだ。実はこの国の人間は、この事態にはあまり詳しくない。態と説明されていないと言っても、良いだろう。
実は…これは、魔石を利用していた。この世界では魔石が沢山取れる状況で、それぞれの国である程度管理されている。今はこの魔石も沢山あるが、魔石を研究している人物達からは、
これは、当たり前のことだった。魔石を作り出す技術や、再生する方法を知らなくては、消費続けるばかりで生産が出来ないのだから、何れは在庫が底をついてしまうだろう。寧ろ研究者が早めに言い出してくれて、今から真剣に考えたり他の手段を模索したり出来て、本当に良かったと…。
希少な物なので、王族や貴族でも一部の者しか知らない事柄だ。これは麓水国に限らず、他の国にも言えることなのだ。だから余計に、麓だけが公表する訳にはいかない…という事情はあったりする。
それはさて置き、宴が行われる庭園に怜銘が現れた途端、ざわっと空気が動いた感じとなった。見たこともないご令嬢が、宴に現れたからである。
「あれは、誰なの?」
「あの侍女達は、確か…
「……嘘っ!…あの平凡令嬢が………!?」
騒がれている原因が自分でも、本人は全く気にせずにいた。寧ろ赤家のご令嬢として正々堂々、用意されていた自分の席に座り、
この行動に他の令嬢も侍女達も、そして…その場に集まっていた文官や武官達も、驚いたように目を見開き、怜銘達一行を見つめている。主人と同列に侍女を並ばせるとは、今迄誰もしないことだった。然もそれを許すのは、麓では王族に次ぐ最高権力者の娘の怜銘なのだから、皆が驚くのも無理からぬことなのだ。
当初はパフォーマンス的なものか…と、彼女の行動に疑問を持つ者もいたが、その考えは変えざるを得なくなった。怜銘は頻りに自分の侍女達に話し掛けては、楽しそうに笑っていたのだから…。笑っていたのは怜銘だけではなく、彼女に仕える侍女達も…で。離れている者達に笑い声は聞こえなくとも、それでも…聞こえてくるような錯覚がするぐらいに、彼女達は楽しそうであったのだ。
そうしてその様子は、王族が現れるまで続く。直ぐ近くにいた者達は、あまりにも彼女達が楽しそうな様子に、呆気に取られたり羨ましがったりと、庭園には色々な感情が溢れていて。
しかし、それとは逆の感情を向ける人物も、庭園には存在した。怜銘に向ける目は忌々し気であり、まるで憎んでいるかの如く、強い視線で見つめる。怜銘の性格は恨まれるようなものではないが、何故にこれ程良くない感情を、持たれてしまったのか……。
****************************
あれからどのくらいの時間が、経ったのであろう。漸く王族達が現れ、庭園に顔を出したのだ。現皇帝に、その息子で皇太子である第一
「現皇帝、並びに第一皇子様、姫様、他に王族のご子息様の御成りです。」
王族付きの宦官が声を張り上げ、皇帝一家が姿を現すことを知らせて来る。それを機にして、今まで怜銘を見つめていた面々は、王族達が目の前に現れるのを、熱心に見つめる。ご令嬢達も侍女達もキラキラと目を輝かせ、期待に満ちた視線を送る中で、怜銘だけが冷めた目で彼らを見つめていた。
記憶にある人物かどうかを確認しようとして、皇子とバッチリ目が合った怜銘は、彼が一瞬自分を見て驚いたように目を見開くのを、目撃してしまった。怜銘もハッとして目を逸らそうと思ったら、皇子の方が先に目を逸らし。彼女は目をパチパチ瞬き、首を傾げる。
皇子が私を見た時、一瞬驚いたような素振りに見えたけど…。気の所為じゃないよね…。それとも、目の錯覚だったのかなあ…。今日見るまで私のことを、案外と忘れていたりして…。
あの皇子が、怜銘の身分や年齢を知らない筈がないし、もし知らないとしても、その気になれば調べられる筈の立場なのだ。皇子が自分の存在そのものを、忘れていてくれていたら良いのになあ…と、呑気に構えている怜銘で。
あの皇子が自分を見て動揺するとは、怜銘には…思えないだけだった。昔から皇子は、自分のことを
現皇帝も皇子も皇女も、この世界で十分に通ずるイケメンと美女で、ギャルゲーに登場するだけはある…と思われた。そして、現皇帝の甥っ子と姪っ子も、彼らに負けず劣らずの美形だ。但し、甥っ子男性はやや
現皇帝の姪っ子はゲームのキャラ通り、気の強そうな人物に見えた。彼女が着ている衣装は、皇帝の娘である姫よりも派手で目立つ衣装で、お化粧もバッチリ施しており、これでもかというぐらいに絢爛豪華な髪飾りばかり、沢山挿していた。その上、どう見ても彼女が皇子を狙っているのは、丸分かりだ。皇子が距離を保とうとしていても、彼女の方からグイグイと迫っている。
その光景に、周りの貴族令嬢達も侍女達も、良い顔はしないようであり。怜銘の侍女達からも、「うわあ~。何あれ?…皇子にくっついて、何様なの?」と、悪態を
侍女達が自分の婚姻相手として狙えるのは、皇子を除いた王族の男性までとされ、皇子だけが対象外という扱いだ。皇子のお相手となることは、将来的に皇帝の正妃という意味ともなり、正妃となれるのは貴族の女性とする…と決まっていたのだ。故に、現皇帝の崩御された皇妃も、元は貴族のご令嬢だった。将来が皇帝となると決まっている皇太子には、お見合いで自分が選ぶ相手としながらも、表向きは恋愛結婚として扱う政略結婚である…とも、言えることだろう。
それでも一応、皇子が自分の意思で正妃を選べるとしているが、代わりに…貴族の令嬢には拒否権がない。しかし、一夫多妻制の後宮だった時よりも、正妃側もずっとマシな扱いとなる筈で…。皇子にとっても令嬢にとっても、最低限は妥協された案でもあった。
侍女は皇子の妃にはなれないので、直接的には関係ないけれど、侍女達には自分の婚姻相手を見つけるという野望もあれど、その前に現在自分が使える主人が、皇子に選ばれるように仕向ける、そういう大きな役目も担っている。
侍女として後宮入りしたその日に、その説明を受けた侍女達は、自分の主人が尊敬する人物であろうとなかろうと、その役目を果たさなければならない。もし手を抜いていたとバレれば、婚姻相手を見つけた際に皇帝の判断次第で無効とされ、後宮から即追い出されてしまう事例もあり。その後一生涯、後宮で働けないという枷も付与されてしまう。
特に皇子との縁談は、優先させるという決まりだ。例え主人がそれを望んでいなくとも、皇子には一度紹介することとなる。それで皇子が興味を見せなければ、その後の皇子へのアピールは必要ない。
怜銘の侍女達はそういう意味で、張り切っている。皇子がどのような人物かは良く存じ上げないが、怜銘様が皇妃様に成られるならば、教養も礼儀作法も上として立つ立場も、全て理に叶っているのだと、人間的にも問題の無いお人だと、胸を張って言い切れる…と思っていたのだ。この貴族の令嬢達の中では、一番素晴らしいお人だと勧めたい…と。
侍女達は、怜銘が全くそれを望んでいないとは、知らなくて。それに怜銘が望んでいなくとも、彼らがお妃にと勧めたいのは、怜銘しかいないのだから。
怜銘は、まだ気付いていなかった。侍女達と仲良くすればするほど、自分が妃候補となることに。そしてその肝心の皇子が、彼女を人知れず…見つめている事実に。
=====================================
後宮の宴が、愈々始まりました。後半からは王家の人間も登場し、本格的に宴が始まることになります。
今回も、名前ありの新キャラは、特に登場していません。
怜銘が美人(?)に変身し、王宮・後宮の宴参加者から注目を集めているというのに、肝心の怜銘は全く気付いていないのか…。
次回からは少しづつですが、重要な登場人物の名前が出て来るかと思います。
※本文中によく、「前世の「中国が…」という内容が、今後もそういう表現が出て来るかと思いますが、実際の中国の情報を元に作製した部分と、完全に創作の部分が混ざっておりますことを、後書きにて記載して置きます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます