8。花の宴、開幕 ②
王族が庭園に登場し席に着いたところで、『花の宴』が始まった。前世の世界でいうところの音楽家達が、賑やかな演奏を奏で始めると、舞いを披露する踊り子達も一斉に踊り始めることとなる。宴が始まった当初は、誰もがその踊り子の舞う姿に目を奪われ、演奏家達の曲には耳を奪われていたのだが、1時間も経過した頃からは、最早誰も見ても聴いてもいないようだった。
何故、的確な時間経過が分かったのかと言えば、それはこの国に時計が存在するからだ。古代中国には、簡易的な大まかな時間を計る時計ならば、存在していたかもしれない。この世界は、『なんちゃって中華風』のゲーム要素ありの世界で、前世に似た精密な時計が、この国に存在していた。
これを知った時の
深く考えるだけ、バカバカしいですもの。きっと、なんちゃって中華風の世界なのだから、何でもアリなのよ。もしかしたら明日の朝には、全てが夢だったと目が覚めるかもしれないし、これは…考えるだけ損よね。
前世では楽天家だった怜銘は、前世の記憶が戻った今は、過去の彼女同様に楽天家になっている。元々同じ人物なので、性格が同じだというのは仕方がないけれど、記憶を思い出す前の彼女とは、若干異なってしまったようだ。にも拘らず家族達や使用人達は、彼女が成長したように感じており、気付いていないのだ。
この1時間の間には、特には何もなかった。元々晩餐を兼ねた宴である為、歌や踊りを背景に単に全員で食事を取り、男性陣はほぼ全員がお酒を飲む傍ら、女性陣は豪華な食事に舌鼓を打っていた。
豪華な食事に慣れている怜銘も、後宮で食べる料理には舌鼓を打つほど美味しい、そう感じている。今日の料理は一段と、普段の後宮で出される料理より豪華で贅沢で、見た目も食感も大満足するものだ。それは怜銘だけではなく、他の人物達この場のほぼ全員が同様に感じていた。
殆どの人物が食事を終わらせ、下女達が料理を片付け始めた頃、貴族の令嬢達は王族と挨拶を交わそうと一斉に動き出す。逆に怜銘は動きたくはなかったが、
静々と気弱そうなフリで、最低限の挨拶だけを交わして終了し、他の貴族の令嬢達に場を譲った怜銘。その彼女とは逆で黄家のご令嬢が、皇帝の姪と争うほどの積極的なアピールをしている。姪っ子は皇子1人を狙っていたが、黄家の娘は
皇子を狙うつもりのない怜銘は、黄家の令嬢達に睨まれたくないので、早々にこの場を後にする。自分の席に一旦は戻ったものの、ふと気になることを思い出した彼女は、それを確かめたいという衝動に、庭園をフラフラと散策することにして。
侍女として清蘭だけを付けて行こうとした怜銘は、とある2人の侍女から「自分達も付いて行きます。」と申し出られ、「貴方達も見合いに参加して。」とお願いしてみるものの、この2人は頑として譲らない為に断り切れず、彼女に付いて来ていた。別に疚しいことではないと自らに言い聞かせ、怜銘と侍女3人で散策することになる。
彼女について来たのは、侍女の中でも上位とされる家柄の娘達だ。そのうちの1人は、商家の中では一番裕福な家柄の娘で、名を『
もう1人の侍女は、茶家の次に名家として有名な商家の娘で、名を『
最近では、不正取引で利益を得ている商家もあり、王家では幾つかの商家を問題視しているが、確実な証拠がなかったりする所為で、今のところは見逃している状態でもある。現皇帝も厳しい目を持つ人物ではあるが、次代皇帝となる予定の皇子も見た目と違い、相手に優し気な外見で惑わされ、敵の懐に入るという中々のヤリ手であったりする。特に腹黒い人間ではなかったが、目的の為ならば何でもするという、そういう抜け目がない人物でもあった。
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「うわあ~。王宮の庭園は、ただっ
こう話すのは、昨日から怜銘の侍女に配属された涼風だ。当初は怜銘に話し掛けたような口調で、途中から…完全に自分の呟きになっていて、ハッとした顔で慌てて手を振り、否定する。それもその筈で、麓では女性が剣術をすること自体、あまり良い風に思われていないのだ。如何やら彼女は、剣士にでもなりたかったようで。
「ふふふっ…。大丈夫ですわよ、
「…まあ、お嬢様。このような場所でそういう内容は、涼風よりもお嬢様が困ることになりますわ。此処が後宮であることを、今は王宮の庭園におりますことを、十分にお気をつけくださいませ。」
失態したとションボリする涼風を、怜銘が庇った形に過ぎないのだが、場所が場所だけに会話に気を付けるように…と、清蘭が苦言を呈して来る。確かに、彼女の侍女ともあろう者が、剣術をやりたいなどと心無い者に聞かれれば、他の令嬢達から何と難癖をつけられるか…分かったものではない。
「いえ、私が口を滑らせたのが、悪いのです。もし、他のご令嬢から怜銘様が何か申されることになりましたら、全て私の責任です…。」
清蘭の言い分はキツイものの、それは…怜銘が煽った口調に対してのものだった。それは涼風にも伝わっており、自分を気遣ってくれる主人と先輩侍女には、心から有難いと思っていた。
因みに、怜銘が涼風のことを『涼涼』と呼ぶのは、日本式の『ちゃん』付けと同意のものであり、日本風に言えば『涼ちゃん』と呼んでいることとなる。前世が日本人の彼女には、呼び捨てするのは勇気のいることだったのだ。それに幼い頃には、女性は名の一文字を繰り返すことで、女児を愛称呼びにする習慣もあって、別にこう呼ぶのはおかしいことではない。これに関しては、なんちゃって中華風というより、中国式を採用しているようだ。
「確かに、これは涼風の責任ですわね。ですが、涼風の剣術の実力は、お遊びの域を超えております。ですから後宮内や王宮内では、是非とも彼女だけはお供させてくださいませ。特に後宮内では、王族以外の男性の出入りが、禁止されておりますので。」
真面目な口調で伝えて来るのは、涼風と同じく昨日から怜銘の侍女に配属された、蓬花だ。侍女には20歳前後の者もいる為、蓬花が最年長ではないが、この4人の中では一番年上の清蘭の次に年長で、今年18歳となる。怜銘はあと少しで17歳に、清蘭は19歳になったばかり、涼風は前月に16歳となっていた。
「まあ、そうなのね…。それでは、わたくしが出歩く時には、このメンバーでお供をお願い致しますわね?」
「…めんば~とは、何ですか?」
「あっ、え~と、集団というか、何人か集まった人物達のことですわ。」
「ああ、なるほど…。この場合では、怜銘様、清蘭さん、涼風、私…という4名のことですね。」
そうなんだ…。メンバーという言葉は、この世界には存在しないのね…。
怜銘はうっかり、前世の言葉を使用したらしい。今のところ、前世の転生者は他に見当たらないので、油断していた怜銘だったが、今は後宮入りしているのだから、気を付けなければ…と清蘭の苦言した内容よりも、此方の方を気にする彼女で…。清蘭がこの事実を知れば、嘆くことよりも溜息を吐くだろう。清蘭は怜銘の事情を聞かされているので、実は…知っていたりする。
幼い時から怜銘付きの清蘭は、怜銘にとっては侍女というより年上の友達で、もう1人の姉のようなものだ。幼い頃より不思議な言動のあった怜銘は、清蘭にはバレバレだったのだ。転生というものが理解出来ない清蘭は、怜銘が不思議な存在であり、怜銘が記憶を取り戻したことで、転生の意味を知って漸く理解出来た。完全に理解した訳ではないが、神が意味を持ってされたこと…と思っている。
清蘭は慣れていたが、涼風は首を傾げ不思議そうにした。蓬花も説明する怜銘を凝視し、いち早く理解を示してくれる。涼風は中身もまだ子供っぽい感じであるが、蓬花は冷静に素早く判断している。清蘭は、この2人が怜銘の侍女になってくれたことでは、皇帝に感謝した。何故ならば、この2人は現皇帝が怜銘に付けた、侍女兼護衛なのである。まだ年若い2人だが、実力はかなりの腕前のようだった。
要するに、涼風だけでなく蓬花も剣術が出来る強者で、初の護衛の職務が…怜銘の侍女となることであった。これは、皇帝から直々に命があったらしく、後宮で怜銘の侍女頭となる予定だった清蘭は、予め赤家の当主から聞かされていたのだ。
…そうなのだ。この事実を知らぬは、この中では…怜銘当人だけである。
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『花の宴』での出来事です。
今回は漸く、名前のついた侍女が登場します。侍女2人に名前がつきました。皇帝の命令で、侍女兼護衛として怜銘付きになったようですが、これで…皇帝がまた、怜銘を別格として扱っていると分かりましたが………
『花の宴』は、まだ続く予定です。
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