2.Dead Person

あれから数ヶ月が過ぎた。

あの工場跡地では、まだシンバがあの時のまま、倒れている。

その工場跡地に近寄る影があった。

数ヶ月、誰も来なかった場所に、今、足を踏み入れる者――。

「・・・・・・ゴルビ? 来とるんやろ?」

どこかの方言が入った口調。

身長は180。

髪は金髪で逆立ったツンツンヘア。

左手の甲にD.Pの極印。

勿論、瞳の色はブラウン。

男性型アンドロイドである。

「ゴルビ? まだ来とらんのか? うわ、なんや、誰か死んどる!」

倒れているシンバに気がつき、近付いてみる。そしてシンバの左手の甲の極印を目にする。

「D.P! Dead Personや!」

「・・・・・・パインさん?」

「ゴルビ。今来たんか。見てみぃ。Dead Personや。壊れとるんかなぁ? どないする?」

「・・・・・・問い掛けられても困る」

「せやけど、ほっとけんやろ」

「・・・・・・どうするんですか?」

「それを相談しとんのやないか」

「・・・・・・相談・・・・・・されても・・・・・・」

「お前なぁ! でかい図体しときながら、内気そうにボソボソ喋んなや! 俺のが不安なるやろ」

「・・・・・・すまない」

ゴルビと言う男の身体は身長は勿論、横幅にも大きいが、筋肉で覆われていて、整えられた奇麗なラインのボディをしている。左手にはやはりD.Pの極印。

Dead Personは人間と同じ個性豊かではあるが、人間のように崩れてはいない。

無駄な肉が何もないボディ。

当たり前である、筋肉と言っても、中は鋼の鎧のようなもの。

余ったゴム(贅肉)を必要以上につける必要はない。

つけるとしたら、女性型アンドロイドの胸くらいだろう。

「うーん、俺等の方針は善を助け、悪を倒す。コイツ、善やろか? それとも悪でやられて倒されたんやろか? どう思う?」

「わからない」

「俺かてわからんから聞いとるのに、そういう時ばっか即答すなや! ちょびっとくらい考えろや! いっくら命令しか聞けんようにインプットされとっても、考える事くらいできるやろ! ええか、考えて、頭ん中で自分で自分に命令すんねん。ほな考えてみ?」

「・・・・・・わからない」

「ほんまに考えたか、お前」

その時、シンバは微かな声をあげた。

「壊れきってはないみたいやなぁ。とりあえず持って帰ってショートしとるんやったら直せたら直したろか。お前、依頼された仕事は終わったんか?」

「・・・・・・終わりました」

「ほな帰ろか。待ち合わせ、他にしといたら良かったなぁ。誰もおらんから、仕事終わった後の一服ができるって、できんかったがな。変なもん拾おうてしもうて。あーあ、こんなんやったら、仕事終わった後は、普通に帰れば良かったんちゃうか。サボる事考えたらあかんなぁ。大体D.Pがなんでサボろうとするかなぁ」

「・・・・・・サボった違う、今回の仕事内容、パインさん嫌だった。だからワタシだけに仕事させた、そうでしょう?」

「・・・・・・お前、結構ベラベラ喋れるんやな。まぁええわ、ほな帰るで」

パインはシンバを担いで、工場跡地を出た。

そして、それからまた何日か過ぎ、シンバは目を覚ました。

そこは汚い小部屋だった。

シンバはシングルベッドに寝かされていた。

起き上がって、すぐに、小さなテーブルの上に足を乗せ、腕を組み、寝ている男が目に入った。男は目を覚まし、伸びをして、欠伸をしながら、ふとシンバと目が合った。

「ああ、目ぇ、覚めたんか。おはようさん」

「・・・・・・誰?」

「俺か? 俺はポーキュパイン言うねん。パインでええで。それにしてもお前、大して壊れてもなかったのに、めちゃくちゃ眠ったままやったな。名前は?」

「シンバ」

「シンバか。覚えとるか? お前、工場跡地で倒れとったんや。そん時に俺の相棒やったゴルビとな、お前の事、拾おて来たんやけどな、ゴルビはお前が目覚める前に昇進して、お偉いさんになってもうたから、もうここにはおらん」

「・・・・・・ふぅん・・・・・・おにいちゃんはどこ・・・・・・?」

「おにいちゃん? 工場跡地にはお前だけしかおらんかったけど」

「・・・・・・おにいちゃん探さなきゃ!」

シンバはベッドから飛び出る。

「おにいちゃんって人間か?」

「うん、そうだよ、パインだって人間だろ?」

「ちゃうよ、俺はお前と同じDead Personや。お前の左手にある極印と同じやろ」

パインはシンバに左手の甲を見せた。

「D.P・・・・・・? デッド・・・・・・パーソン・・・・・・?」

シンバは自分の左手の甲を見て、途惑う。

「人間探してどないすんねん。人間なんて嫌な奴ばっかやろ」

「そうなの? おにいちゃんは優しかったよ」

「人間は俺等とは違う。俺等の事を人間は自分より下やと思っとる。俺等のが出来がええのにやで? 人間なんかと比べもんにならんくらい、俺等のが完全完璧やないか。あいつ等はそんなんもわからん下等な生き物や。アホやアホ!」

「パインと人間とどう違うの?」

「え?」

「だって、パインだって今、人間を自分より下に見てるじゃない。だったら同じじゃない?」

「・・・・・・」

「それにね、おにいちゃんは僕を下になんか見てないよ。一杯怒られるけど、一杯誉められるよ。僕はおにいちゃん大好きだから。だから探すの」

「・・・・・・お前、すれてないなぁ。純粋や。お前見とったら、昔思い出したわ」

「昔?」

「昔。昔むかーし! 俺の御主人様はええ御主人様やった。俺の頭、ツンツンしとって、やまあらしみたいやろ、せやから、ポーキュパイン(やまあらし)って名付けられたんや。でもなぁ、やっぱり人間と俺等は違うねん。人間はLiving、俺等はDead。生きとる者はいつか死んで行くが、俺等は始めっから死んどんねん。わかるやろ?」

「全然わかんないんだけど」

「せやからな、人間と俺等はちゃうっちゅうとんねん!」

「それって僕がおにいちゃん探すのと何か関係してる事なの?」

きょとんとした表情で、そう尋ねるシンバに、パインは頭を抱える。

「・・・・・・お前、世界一のアホか大物かって感じやなぁ。まぁええわ。ここはなぁ、SurviveっちゅうD.Pだけの組織や。早い話が何でも屋さんってな感じやなぁ。お前はこの組織の場所、知ってしもうたし、お前が選べるんは2つに1つ。Surviveで働くか、このまま壊されるか。でも働くんやったら調度ええやないか。お前、おにいちゃん探すんやろ? Surviveで働けば、いつか探しとる奴に逢えるかもしれん」

「ホント? おにいちゃんに逢える?」

「ああ、どんな出逢い方かはわからんがな」

パインがそう言った時、ドアが開いて、

「パイン、ちょっといいか?」

と、左手の甲にD.Pの極印のある男性型アンドロイドが入って来た。

「ああ、起きたのかい?」

シンバにそう問い掛け、微笑みかける。

「今さっき目ぇ覚めたんですわ。えっと、名前、なんやった?」

パインはそう言って、シンバを見る。

「シンバ」

「そう、シンバ君か。私はハーンと言って、このSurviveの取り締まり役をしている。言わば、この組織のトップにいる存在だ」

「・・・・・・ふぅん」

シンバは、どうでも良さそうに、上の空丸出しの返事を返す。

「ああ、いや、なんや、寝ぼけとるみたいで! あは、あははははは、大丈夫です、なんや、ちゃんとここで働く言うてましたし」

何故か一生懸命シンバのフォローをするパイン。

「そうか、働くか。その方が利口だ。D.Pは組織以外、生きる場所がない世だからな。しっかり働いて、自分の生きて行く場所を手にするといい。パイン、お前が色々と教えてやれ。それから依頼が来ている。その事で話がある。一緒に来てくれ」

ハーンはそう言うと、パインを連れ、部屋を出て行ってしまった。

シンバは部屋をぐるりと見回す。

狭くて、埃だらけで、窓一つない汚い部屋。

ベッドとテーブルと椅子とスタンド。

床に散らかる瓶と缶とゴミ。

シンバの赤い帽子が床に落ちている。

シンバは帽子を拾うと、帽子についた埃を叩き、そして被った。

「工場跡地の方が広いや・・・・・・」

パインが戻って来た。

そして行き成りベッドに横になる。

「やっとベッドで寝れる。シンバ、仕事は夜や。夜迄その辺で遊んどれ。俺は寝る。おやすみ!」

パインは目を閉じた。

シンと静まる。またシンバは辺りを見回し、そして、眠るパインを見る。

「・・・・・・パイン?」

「なんや?」

「あ、起きてた? 只、呼んだだけ」

またシンバは辺りを見回し、そして、また横たわるパインを見る。

「パイン?」

「・・・・・・なんや?」

「まだ起きてるの? 呼んだだけだよ」

そして、また――

「パイン?」

返事がない。

「パイン?」

返事がないので、パインの顔を覗き込んで見る。パインは目を閉じている。

パインの頬を引っ張ってみる。

反応がない。

パインの鼻をつまんでみる。

反応がない。

もう一度、名を呼んでみる。

「パイン?」

反応がない。

パインの目を無理矢理こじ開けてみて、名を呼んでみる。

「パイン?」

「やかましわ、このガキャーー!!!! 静かにしとれ、このあほんだらがっ!!!!」

「だってパインが、その辺で遊べって言ったから。だったら最初から静かにしてろって言えばいいのに」

「あのなぁ、俺で遊ぶ事ないやろ。俺なぁ、お前にずっとベッド貸したってたんや。久し振りやねん、ベッド。頼むから寝かしてくれ」

パインはそう言うと、布団を頭まで被って、もぐり込んだ。

シンバは退屈そうに辺りを見回すが、すぐに笑顔で、部屋の外へ出る事を考えた。

「パイン、パイン、冒険してくるね! いいよね、いいよね、外出てもいいよね!」

パインからは何の返事もない。

シンバは、ドアを開けて、部屋を出た。

狭いローカ。

幾つもの似た扉が続く。

少し行くと階段があり、登ると、とてもいい匂いが漂っていた。

匂いに誘われ、行くと、カウンターがある薄暗い場所に着いて、辺りを見回しながら進んでいると、目の前の樽に気付かずに、足をぶつけた。

「大丈夫?」

そう声をかけて来てくれた人。

左手の甲にD.Pの極印はない。

「・・・・・・人間?」

シンバは、小さな声で呟くように尋ねる。

「あらやだ、まだ可愛らしい男の子じゃないの。ここは子供の来る場所じゃないのよ。ここはお酒を飲む所なの。私はここのママをしてるのよ」

「ママ?」

「そう、ママ。あ、名前がママじゃないわよ、みんな、そう呼ぶだけ」

そう言った後、シンバの左手の甲を見て、

「嘘! あなたD.Pなの? こんな少年型のD.Pも創られてたのね。微妙なお年頃の型を創らなくてもいいのに。あ、大丈夫、私もあなたと同じD.Pよ」

そう言って、左手に貼ってあったシールをはがし、極印を見せてくれた。

「私はあなたから見たら、女性型アンドロイドの中でも、おばさんかな?」

「女性?」

「女性の意味わからないの? あなたは男の子でしょう、男性型アンドロイドとして創られてるの。私みたいに、胸があって、柔らかい体の作りをしてるのは女性。顔も男性と違って奇麗とか可愛いとか、そういう感じしない? あはは、しないかな?」

「・・・・・・ふぅん」

「人間にも女性、男性ってあるように、アンドロイドにもあるのよ。女性には優しくしてね。だって女性は弱いんですもの」

「・・・・・・ふぅん」

「あなた、名前は?」

「シンバ」

「シンバ君ね。シンバ君は、もしかして、ここの組織で働くの?」

「うん、そうみたい」

「そう・・・・・・。まだ幼く見えてもD.PはD.Pですものね」

「いい匂いする」

「え? あ、ああ、食べる?」

「うん!」

「うふふ、じゃあ、カウンターに座って? 今、仕度しますね、可愛いお客様」

シンバは頷いて、カウンターの席に腰を下ろす。

「ねぇ、どうして手にシール貼ってるの?」

「え? ここにはお客として人間も来るからよ」

「・・・・・・ふぅん」

――どうして人間が来たら、シールを貼るの?

なんとなく、疑問を素直に聞けないシンバ。

「・・・・・・なんだ、このガキ、マジでD.Pかよ」

シンバと同じ階段を登って来て、奥の通路から来たD.P。

同じ組織の仲間のようだ。

男性型だと、シンバは確認する。

「おい、お前! バトルできるのか? ああ?」

「バトル? できないよ」

「なんだコイツ。D.Pじゃねぇよ、こんなガキ。バトルもマトモにできねぇなんて、人間より始末悪りぃじゃん。こんなガキと仕事するなんて落ちぶれたもんだねぇ、うちも」

「バトルできなきゃ駄目なの? 誰と戦うの? どうして戦うの?」

「おいおい、お前、アホだろ。もういいから、ガキはおねんねしてな」

男は、言いながら、外へと出て行ってしまった。

シンバは唇と尖らし、馬鹿にするな、と口の中で呟く――。

そして自分の左手を見る。

D.P。

Dead Person――。

それは擦っても消えない傷跡。



そして夜――。

「さぁて、シンバ、そろそろ準備せぇよ」

「パイン、僕、工場跡地に戻りたい」

「は?」

「だってここに見当たらないんだもん、あそこに忘れて来ちゃったんだよ」

「何をや?」

「仕事終わってからでもいいから、工場跡地に連れて行ってくれる?」

「あ、ああ、ええよ、今からでも。まだ時間あるし」

パインは、シンバとかなり早めに組織を出て、工場跡地へと向かった。

そんなに遠くはない。

工場跡地――。

シンバは駆け足になる。

中は誰もいない。

レバーを上げ、電灯を点け、シンバはキョロキョロと何かを探す。

「あった!」

「・・・・・・剣?」

「うん! おにいちゃんが教えてくれてたんだ。自分の身は自分で守れって」

「お前、D.Pやのに、なんで武器持つねん」

「え?」

「D.Pやろ。D.Pは肉体そのものが武器や。バトルの心得も持ってるやろ」

「・・・・・・僕には何もないよ。僕は何もない状態で生まれたんだ」

「なんやそれ」

「僕は僕が生まれた理由を探す為に、僕は生まれたの! 僕がなりたいものになるの!」

「・・・・・・お前」

「おにいちゃんがそう言ったんだもん! 僕は生きる為に生まれたの! 今日ね、馬鹿にされたんだ、バトルもできないガキだって! だからあの人に見せてやるんだ、僕の剣!」

「・・・・・・あははははははは、お前、おもろい奴やなぁ!」

パインは大笑いし、シンバの頭をバンバン叩いた。

「なんだよ、パインだってそうだろ! 生きる為に生まれたんだろ! 馬鹿にされる為じゃないもん! 生きてるんだって見せてやるんだ! 馬鹿にされたままじゃ悔しいもん」

「・・・・・・そうやな。ほな、初仕事と行こか」

「僕の初仕事?」

「俺にとっても初仕事や。行くで」

――パインにとっても初仕事?

工場跡地から真っ直ぐに来た。

そこは、あの大聖堂Peaceのある街。

「ここはミラク言う街でな、殆んど金持ちが住んどる。俺らの組織がある街はナッカル言うてな、こことは、そう離れてないが治安もかなり違う」

「ふぅん。ねぇ、なんでSurviveはバーの地下にあるの? 隠れてるみたいだよ?」

「隠れとるんや」

「なんで?」

「それは・・・・・・仕事すればわかる」

「ふぅん」

奇麗な飾りのついた高い鉄格子の門をパインは簡単に飛び越える。

「なにポケっと見とんねん! 早よ来い」

「ちょ、ちょっと待ってて」

シンバは両手で抱えていた剣をどうしようかと考え、そして片手で持ち、鉄格子を登ろうとして、ストンと尻から地に落ちる。それでも諦めずに、また登ろうとするシンバに、

「お前、ほんまにD.Pか?」

と、パインは苦笑いで、門を開ける。

「なぁんだ、門、開けれるなら、そう言ってくれればいいじゃないかぁ、意地悪だなぁ」

「あほ、門開けてもうたから、警備員が来よったんや。面倒やのぅ」

門が開いた事が察知され、4、5人の警備員が現れたが、あっという間にパインに気絶させられる。シンバはポケっとパインの戦闘術に魅入るばかり。

いや、パインの速さは、目で追いつける速さでもなく、何もできないのが事実。

「パインって、パインって、凄いんだね!」

「アホか、お前は! D.Pやねんから、こんなん当たり前やろ。お前がおかしいんじゃ」

「それでここってどこなの?」

「ここは美術館」

「美術館?」

正門を抜け、森のような木々を抜けると、白い建物が姿を現した。

「ついこの間、ここに絵が運ばれたんや。でもその絵はまだ公開されてないんや。まだ人の目に触れてない部屋に飾られとる」

「ふぅん」

「ちゅうか、なんでお前、護身術が身についてないんや! しかも剣抱きかかえて何してんねん! 剣持つなら、剣の柄を握って構えろや!」

ここまで来るのに、数人の警備員を倒している。だけどシンバはパインの言う通り、剣を抱きかかえ、パインの後ろに隠れるばかり。

「大体なんで剣やねん、人間みたいな奴やな」

「僕だって強く創ってもらいたかったよ! 腕からミサイル出るような奴に!」

「はぁ? なんやねん、ミサイルて。ミサイル使いたいならミサイル砲持ったらええがな」

「腕から出た方が強そうじゃん」

「意味わからん。夢見がちなガキんちょやな」

「ガキじゃないよ! 僕だって強いもん! ちゃんと仕事するもん! それで仕事って何すればいいの?」

「・・・・・・まぁ、ついて来ればわかる」

美術館は広く、絵画の他に銅像なども飾られている。

幾人もの、警備員達を、パイン一人で倒していく。シンバはパインの背について行く。

そして、大きな扉の前で、パインは立ち止まった。

「パイン?」

「初仕事や・・・・・・」

「仕事?」

「ああ、この扉を開けたら、俺とお前の初仕事が待っとる」

「うん! 頑張るよ!」

ニッコリ微笑んで、そう答えるシンバに、パインは、微笑み返す。

そして扉を開けると――。

部屋は薄暗く、カーテン越しの月明かりで微かに見える人の影。

「・・・・・・誰だね?」

その声は中年の男性だった。

「この美術館の支配人、マーチュエさん、やな? あんたの後ろにある『勇者ペテルギウス』の絵画と、あんたの命、もらいに来たんや」

「――なんだと?」

「その絵画はあんたの絵ちゃうやろ。悪い事したらアカンて、子供の頃、親から教わらんかったんか?」

「警備員達はどうした!? おーい! 誰か! 誰かぁ!」

「呼んでも誰も来んて。安心せぇ、殺しとらんよ。全員眠っとる。俺等がほしいんは絵とあんたの命だけや」

「・・・・・・お前達、アンドロイドか!」

「その呼び方はもう古いな。俺等はDead Person、黄泉への案内人や」

パインはそう言って、左手の甲を見せる。

「くくくくく。ふ、ふはははははは! 私の護衛を頼んだのもDead Personだったな」

マーチュエは馬鹿笑いしながら、そう言った。

「なんやと?」

驚くパインに、

「ねぇ、パイン、あのおじさん殺すの? なんでなんでなんで?」

と、間抜けたシンバの質問。

「なんや! 今の状況を把握せぇ! これが仕事や!」

「これが仕事? ふぅん。じゃあ、僕はこんな仕事しない」

パインはさっきよりも驚いた顔でシンバを見た。

「何言うてんねん! これは命令や! 上からの命令や! わかるな? 御主人様からの命令なんや! ええな?」

「僕は命令なんてきかない」

「・・・・・・シンバ、お前、なんやねん・・・・・・」

パインは、もう驚く感情を通り越して、呆然としている。

「珍しいのが来たと思ったら、珍しいモノをつれてるなぁ、パイン?」

そう言って、暗闇から現れた影。月明かりに浮かぶ鋭い目とスレンダーな体なのに、D.Pと極印された手に強さを感じさせる程の肉筋。パインと同じくらいの背丈が、シンバには大きく感じて、圧迫感で恐くなる。

「――ヴォルフ。マーチュエの護衛か。Riviveの方へ依頼したっちゅう訳か。面倒臭いのが来たな」

パインはそう言って、暗闇から現れた男を見ている。

「パイン、お前の今度のパートナーは随分とガキじゃないか。しかし類は友を呼ぶとは、よく言ったものだ。念の為に聞くが、暗殺命令で来たのか?」

「そうや」

「ふっ、お前もやっと人を殺すようになったか。でも運が悪かったな。俺達が相手じゃあ、そう簡単には行かない」

ヴォルフの後ろに3つの影。

「お前も連れとる奴は変わらんなぁ。・・・・・・逃げるで、シンバ!」

「え? え? 待ってよ!」

シンバはパインを追いかけ、その部屋を出る。

「ウォルク、ラン、追え」

ヴォルフがそう言うと、3つの影の内、2つが動いた。ヴォルフは腕時計を見る。

「わたしの命を狙ったんだ、あのDead Personは壊してくれるんだろうね!」

マーチュエが偉そうにそう聞いた。

「ウォルクとランだけでは、あのガキは兎も角、パインをやるのは無理ですね」

「なんだと!? 多額の金を払ってるんだ! ちゃんと仕事しろ!」

「依頼はあなたの命を狙う者から、あなたを守る事。仕事はちゃんとこなしています」

「な、なら、新しい依頼だ! あのDead Personを壊して、残骸を持って来い!」

ヴォルフは腕時計を見ながら、マーチュエの前を通り過ぎ、『勇者ペテルギウス』の絵の前で立ち止まった。

「新しい依頼は、組織を通してもらわないと。それに、あなたとの契約時間が終わりました」

絵を見ながら、ヴォルフはそう言った。

「なら! 組織に今から電話する!」

「すいませんねぇ、次の依頼が入ってるんですよ、マーチュエさん」

「次の依頼!?」

「・・・・・・ロボ、殺れ」

ヴォルフが、そう言うと、3つの影だった内の1つの大きな影が、

「・・・・・・Yes」

そう言って、マーチュエを襲う。

「な、何をするんだ!」

マーチュエは驚きの声を出す。

「あなたを殺すよう依頼が来てるんですよ。それから絵はもらって行きますよ」

ヴォルフは絵を見つめたまま、そう言って、更に、

「ティアマトからアンドロメダ姫を救い出した勇士ペテルギウス、か。くだらない神話だ」

そう呟く。その呟きと共に、マーチュエの血が飛び散った。



パインとシンバの目の前には、ウォルクとランが立ちはだかっていた。

「久し振りね、パインちゃん」

ブラウンの長い髪は、ゆるふわで、毛先がくるりんとしていてキュート。身長は165で、華奢な体付きをしたラン。女性型アンドロイド。

これまたキュートな唇でニッコリ微笑み、パインとシンバを見ている。

「いい加減、壊れちまえよ。Surviveの連中相手にすんのも疲れんだよ」

170の身長と、細めの体格と、余裕の口振り。ウォルクの見るからに、やる気のなさが、余裕に感じられるのだろう。男性型アンドロイド。

パインを目に映し、舌打ちをしている。

「壊せるもんなら壊してみぃや。反対に壊されんように気ぃつけや、ウォルク」

「なんだとぉ!」

「ウォルク、うるさい。大声出すのはやめて。可愛い坊やがビックリしてるじゃない」

ランがくすくす笑いながら、シンバを見て、言った。

「みんなD.Pって書いてあるね。みんな同じなんだよね。なのに仲良くないの?」

「こいつ等はな、Riviveっちゅう組織の連中でな、いっつも俺等の依頼の邪魔しよんねん。依頼の為なら、どんな手段も選ばん連中や。こいつ等に壊されたSurviveのD.Pは山程おる。みんな直らんかった・・・・・・」

「あら、パインちゃん、依頼の邪魔してるのはそっちじゃなくて? それに弱肉強食ってだけの事でしょ。さ、バトルといきましょうか」

ランがそう言って、シンバ以外、皆、構える。

パインは、オロオロするシンバに舌打ちをし、シンバを庇いながら、2人相手に戦い出した。

剣を抱きかかえたシンバ。

どうしようと慌てながら、剣の柄を握ってみるが、やはりバトルに参加する事はできず、

「なんで同じ仲間なのに戦うのぉ!? わかんないよぉーーーー!!!!」

と、大声で吠え始めた。

「アホ! 戦え! 剣握ったんなら戦え! 生き残る為に戦うんや!」

「やだよ! やだよぉーーーー!!!! なんで傷付けあわなきゃいけないんだよぉ!」

チッと舌打ちをしながら、パインはランとウォルクの攻撃を受け止める。

しかし、2人がかりとは言え、ランとウォルクはパインに押され気味になる。

力の差は歴然としている。

パインが本気を出せば、ランとウォルクなど、あっという間に壊されるだろうが、パインは壊そうとはしない。

そんな事、シンバはわかる筈もなく、パインがやられるのではとハラハラしながら、何度も剣を握り直し、辺りをウロウロしながら、

「もうやめようよぉーーーー!!!!」

と、吠えている。

ピー、ピー、ピーとランの腕時計がなった。すると、ランはその場からバッと離れる。

ウォルクも、後ろに下がり、パインは、それを追う事はしない。

「もうこんな時間になっちゃったわ。それじゃあ、ごきげんよう、パインちゃん」

「そのパインちゃん言うのやめぇ!」

ニッコリ微笑み、手を振るランに、パインが吠えた。そんなパインを睨み、

「やってらんないね」

ウォルクは、口の中で呟くように、そう捨てセリフを吐いて、ランと共に行ってしまった。

二人が去った後、シンバはパインに駆け寄り、

「大丈夫だった? パイン、どこも悪くなってない?」

そう尋ねるが、パインはシンバを見る事もなく、歩いて行く。

「パイン?」

返事はない。

シンバはパインの背について行く。

――僕に怒ってるんだ。

何故、怒っているのか、シンバにはわからなかったが、何も喋ってくれない事が、シンバ自身、黙り込ませる事となった。

沈黙の中、組織に戻ると、やっと喋ってくれた言葉が、

「ベッド使こうてええで」

だった。シンバはコクンと頷いて、ベッドに潜り込む。

パインは溜め息をついて、椅子に座り、机の上に足を乗せ、俯いた。

「・・・・・・おやすみなさい」

ベッドにもぐり込んだ、シンバの声は、少しか細くて、泣いているようだった。



次の日――。

「いつまで寝とるんや! 早よ起きぃ!」

「うう・・・・・・。おはよ」

「おそいっちゅうねん!」

シンバは目を擦りながら、起き上がる。

「仕事行くで」

「え、仕事? 仕事って、また誰かを殺したりするの?」

「・・・・・・あのなぁ、シンバ。それが俺等の仕事なんや。上から命令された事をこなす。それがどんな事でも俺等は従う。それがD.Pの定めっちゅう奴や。ええか、シンバ、世の中、金がなかったら生きていけん。俺等は金をもらう為に働く。でもそれだけやない。それだけやったら、一人で生きていける。でもな、俺等はD.Pやろ。命令なしには生きていけん。御主人様からの命令がなかったら何もできん。それがD.Pや。そうやろ?」

「どうして? わかんないよ。だって、僕はそんな為に生まれた訳じゃないよ」

「シンバ、俺等はDead Personなんや。お前かて、なんでおにいちゃんって奴を探そうとしとる? お前一人やと生きていけんからやろ。あれしろ、これしろ言うてもらえる御主人様がおらな何もできんからやろ。俺等は生きとる。でもDead Personなんや」

「違う! 僕は生きてる! Dead Personなんかじゃない! 死んでない! これからも生きたい! だから誰も殺さない! だって生きたいってみんな思ってるから生きるんだもん! だから殺さないよ!」

「お前、アホさ加減もええ加減にせぇ!!!!」

パインは大声で吠え、シンバはその声にビクっとする。

パインはシンバの左手を持ち、更に大声で吠え始めた。

「なんやねん、これ! お前、Dead Personやないっちゅうなら、なんで極印があんねん! なんで死者ってなっとんねん! 答えてみぃ!!!!」

シンバは何も答えられない。

――でも僕はこうして生きてるよ・・・・・・。

その想いも、D.Pと極印された左手の甲に押し潰される。

パインは、何も言えないシンバの手を離し、背を向けた。

「すまんな。シンバの考えが、普通のD.Pとちゃうから、俺、途惑っとるんや・・・・・・」

言いながら、振り向いたパインの表情は笑顔だった。

「あんな、仕事っちゅうんは、ペット探しや」

シンバに犬の写真を見せながら、パインはそう言った。

「こういう仕事ならできるやろ?」

そう言って、微笑むパインが、シンバの中でおにいちゃんを思い出させる。シンバはコクンと頷くと、パインは、いい子だという風にシンバの頭を撫でた。

その後、出掛ける準備にシンバは服を着替えた。

赤い帽子を被って、パインの傍に行くと、パインはシンバの肩から剣を下げれる鞘を入れたベルトをつけてくれた。

「俺からのプレゼントや。ええか、シンバ、昨日、会うた連中がおるやろ、Riviveっちゅう組織の奴等や。あいつ等とは戦う事になる。お前が剣で戦うなら、それがお前の武器や。自分の身は自分で守れ」

自分の身は自分で守る。おにいちゃんから言われたセリフでもあった。

シンバはコクンと頷き、にっこり笑って、

「ありがとう」

そう言った。パインも笑顔で帽子の上から、頭を撫でる。



そして、ミラクの街に来た――。

D.Pと極印されている手の甲を隠す為、肌と同じ色のシールを貼る。

そして、街をうろつき始める。

パインの目線は下ではない、犬を探していると言うより、誰かを探しているようだ。

そして、建物の路地裏で、小汚い中年の男に、パインは声をかけた。

「久し振りやな、ラオシューさん」

「パインじゃねぇか。ちょっと見ない間に、また相棒が変わったのか?」

「ああ、シンバや。よろしゅうな」

シンバはペコリと頭を下げる。

「いいのか? 昨夜、美術館のオーナーが殺されたとかで、PPP(Protective Police People)の連中が、うじゃうじゃいやがる所に来てもよ」

「殺された? ほんまか?」

「ああ。どうかしたのか?」

「いや、別に。用が済んだら、すぐ消える。この犬探してんねんけどなぁ。幾らや?」

パインはそう言って、犬の写真を見せる。ラオシューは二ヤリと笑い、

「今日は金はいらねぇ。酒だ」

そう言った。パインは懐に写真を仕舞い、溜め息をつきながら、

「シンバ、お前、戻って、ママに酒もろうて来い。金は俺のつけでええから」

そう言った。シンバはコクンと頷いて、走って行く。

「パイン、あのガキは本当にD.Pなのか?」

「なんでや?」

「D.Pにしては、身長が微妙だなぁ。D.Pは160、165、170、175、180、185、190とキリのいい身長だろ? でもあのガキ、170より少し低いが、165より少し高い。帽子なんかで隠してるつもりなのか、でも俺の目は誤魔化せないぜ。それにな、瞳の色が、ブラウンより、かなり薄い色だ。あいつは人間だろ」

「・・・・・・D.Pの極印があんねん」

「何言ってやがる。そんなもん、シール貼れるだろうが! お前等が人間のフリしてシール貼るようによぉ!」

「・・・・・・そうやろか。あいつ、そんな事するような奴ちゃうて思うねん」

「なんだと?」

「それにな、あいつ、多分、D.Pやわ。俺、あいつ、壊れてるの直したってんもん」

「直したって言うがな、お前も知ってるように、今、D.Pを直す技術はないんだ。だから壊れたD.Pは直らず、動かなくなって、処分されていく。お前は只、あいつにD.Pの生命電流体を流しただけだろう? それは人間に流しても死ぬような事はない。人間だって心臓が止まれば、電気ショックを与えるんだ、それと同じようなもんなんだぞ。それとも何か?ちゃんと体内をスキャンでもしたのか?あぁ、それか覆われてるゴム製の皮膚が破れて中身の機類でも見たか?」

「いや・・・・・・でもあいつは嘘はつかん」

「ほぉ。そこまで信用するなんてなぁ。まぁお前がそこまで言うなら、そういう事にしてやってもいいがな。それにしてもパイン、お前もコロコロとパートナーを変える奴だなぁ。前の体のでかい奴はどうした?」

「ゴルビやな」

「その前は背の高いスリムな美人やった」

「よぉ覚えとるなぁ。みんな昇進したんや。組織にはもぉおらん」

「お前の腕なら、とっくに昇進して、上に行ってるだろうに。今の相棒のガキにも追いてかれる気か?」

「あいつとは長い事組む事になるやろうなぁ。シンバもな、俺と同じやねん。人間、殺せんねや。ええ御主人様に恵まれたんやろうなぁ」

「人間殺せねぇなんて、ますます怪しいじゃねぇか」

ラオシューがそう言うが、パインは笑っている。

「それにしても勿体無いねぇ。お前のような強いD.Pがペット探しとはな」

「ペット探しも芝刈りもゴミ集めも、なんでもしまっせ」

ふざけた口調でそう言ったパインに、ラオシューは呆れ顔。



その頃、シンバは、組織の上にあるバーに着いていた。

「お金はパインのつけでって言ってたよ」

「またぁ!? そう言って払った試しがないんだけど。体で払えって言っといてね!」

ママは唇を尖らせて、ムッとした表情でシンバに酒の入った瓶を渡した。

シンバはそれを大事そうに抱きかかえる。

カウンターで煙草を吸っている男。

「あ!」

――僕を馬鹿にした、あのD.Pだ!

思わず声を上げたシンバを、その男は見る。

「ああ、パインのおもちゃか」

「おもちゃ!?」

「おもちゃの方がマシか? 良かったよ、俺がお前の子守りじゃなくてな」

「なんだよ、なんでそんな意地悪ばかり言うんだよ!」

「昨夜、マトモに仕事もできなかったそうじゃねぇか」

「え」

「組織の連中、皆、お前を使えないD.Pだって言ってるぜ」

「・・・・・・」

「パインも辛ぇよなぁ。お前みたいなのを拾っちゃってさ。ゴミ同然の拾い物だよ」

「まぁまぁまぁ、同じ組織の仲間同士、もめないでよ。それに煙草ばっかり吸ってると煙が脳コンピューターにまわって、壊れるって聞いた事あるわよ、煙草やめたら?」

ママが二人の間に入って、話題を変えようとした。

「煙草吸い始めるとやめられないんだよ」

「変な話よね、人間もどうしてこんなもの吸いたがるのかしらね。麻薬みたいなものかしら」

ママの言葉に、シンバが、

「人間になりたいんだろ」

そう言った。

「お前、人間になりたいんだろ! だからそうやって人間の真似するんだ!」

「なに言ってやがる! 煙草うめぇだけなんだよ! 飯がうめぇのと同じだ!」

「お前が人間になったって、優しい人間になんかなれない!」

「はぁ!?」

「僕はお前みたいにならない! 僕は優しい人間になるもん! それが強さだもん!」

言うだけ言って走って行くシンバの背に、

「なんだ、アイツ・・・・・・」

と、咥えた煙草をポロっと落とし、ママと二人、店から出て行くシンバを見送った。



急いで、ミラクの街に戻って来た。

道を間違え、酒を抱えたまま、ウロウロしていると、知らぬ間に、昨夜、侵入した美術館の近くに来ていた。シンバの直ぐ近くで、

「殺害されたのは美術館のオーナーであるマーチュエ。恐らくD.Pの仕業と――」

そう言った男の胸元を、

「恐らくだと!?」

と、乱暴に掴む男。

「す、すいません、ホークさん! 恐らくじゃなく、絶対です!」

「だからお前等は俺達PPPのなり損ないの予備軍なんだよ。あんな殺し方、D.P以外、誰ができるって言うんだ? ああ? そんな報告いらないんだよ!」

「は、はい、すいません! それから勇士ペテルギウスの絵画もないとかで」

ホークと呼ばれていた男は、突き飛ばすように、胸倉を離して、

「そんな事はどうでもいいんだよ」

そう言った。

ホークはシンバと目が合うが、大して気にも止めず、

「おい! 通行止めにしとけって言っただろ! 関係者以外、この付近に入れるな!」

そう吠えた。すると、辺りにいた部下だろうか、シンバを追い出すように、背を押し、立ち入り禁止のテープを張り出した。

「偉そうな人だなぁ。すっごく怖いし、あんな人とは一緒にいたくないなぁ。パインがあんな人みたいじゃなくて良かったぁ」

シンバは、そう呟きながら、もう一度、来た道を戻る。

そして、パインとラオシューを見つけ、シンバは駆け出す。

「遅いやないか。ガキの使いもできんのかと思ったやろ」

そう言ったパインに、シンバは酒を渡す。

一升瓶を目の前に、ラオシューは舌舐めずりをし、

「さっきの写真の犬なぁ、ミラクの南側の住宅街に向かうバスの最終停留所でな、運転手が餌やってると思うぜ。迷い犬が停留所に住みついたらしい。80パーセント、写真の犬だ」

そう言った。

「住みついたっていつ頃からや?」

「この情報は数日前に手に入れたんだが、まだそんなに日にちは経ってねぇ筈だ」

「首輪はついとるんかなぁ?」

「いや、ついてねぇから、飼い犬と思わず、只の子犬と思って餌やってるらしい」

「毛並みはええんやろか?」

「良かったら飼われてたのかと思い、それなりの手段とるだろう。停留所で餌やってるって事は野良だと思ってんだよ。その犬が迷ってる間に雨も降る日があったんじゃねぇか? そう考えたら毛並みは良くねぇだろう」

「ええ情報、おおきに。約束の酒や。ほな、また」

パインは一升瓶をラオシューに渡し、シンバに、

「行こか」

そう言った。

「あのおじさんは誰なの?」

「あの人はラオシューさん言うて、情報屋や。あの人のほしいもん、まぁ、殆んど金やけど、それを渡せば、知ってる情報を変わりにくれるっちゅうわけ」

「ふぅん。どうして左腕がないの?」

「こういう仕事しとるから危険は付き物なんやろ。俺が知り合った頃から腕はなかったからなぁ」

「D.Pなの?」

「どうやろ。D.Pの極印のある左手が、腕ごとないからなぁ。なんとも言えんなぁ。D.Pやったら、どっかにご主人様がおるんかもなぁ。もしくはインプットされとるモノがショートでもしとるか。ま、敵ではないし、誰にとっても壊さなあかん程に危害が及ぶ存在でもない。寧ろ情報屋として役に立ち寄るし、D.Pでも人間でも、どうでもええやろ」

歩きながら、そう話すパインに、シンバはふぅんと頷いて、

「そういうもん?気にならないの?」

と、聞く。

「ならへん。疑問とか思わんし」

「なんで?」

「なんでて、疑問に思うか?」

「そっか!仲良くなるのに、D.Pでも人間でも、別に気にしないもんね」

「そういう訳ちゃうやろ!なんつうか、俺等D.Pがそんな誰からも問われたりしてへんのに、なんで疑問に思うねん?そりゃ誰かに依頼されて、謎解きせなあかんとかな?その謎解きの1つにある疑問とかなら・・・・・・あーもー何言っとるか自分でわからんようなってきた!」

「僕もパインが何言ってるかわかんない」

「兎に角あのバスに乗るで!走れ」

シンバとパインは今にも出そうなバスに駆け込んだ。

バスは混んでる訳でもなく、座れるのだが、パインは座らず、立っている。

座ってしまったシンバは、焦りながら、立とうとするが、

「座っとれ」

と、パインが言うので、シンバは座る。

「ねぇ、僕ねぇ、犬って奴、知ってるよ」

「うん?」

「あのねぇ、抱くと痛がるんだよ。僕、抱いた事あるよ」

「なんの話しとんねん。今から探しに行く犬の事か?」

「ううん、違う犬。抱いた事があるんだ」

「へぇ」

パインはどうでも良さそうに、窓に流れる景色を見ながら頷いた。

やがてバスは最終停留所に来て、停まる。

パインとシンバがバスから降りると、運転手も降りて、煙草を吸い始めた。

次の出発まで、時間があるのだろう。

すると、どこからともなく、キュウキュウと犬の鳴き声が聞こえ始めた。

見ると、運転手の足元に子犬が絡み付いている。

「待ってろ、今、パンをやるからな」

懐から食べかけのパンを取り出す運転手。

パインは写真の犬を確認する。

「似てるね」

シンバがそう言う。

「んー、そうやなぁ、毛並み汚れたんやなぁ。間違いない、同じ犬やろ。一応、あの犬について聞いてみよか」

パインは確信し、写真を懐に仕舞うと、運転手に声をかけようと、歩き出した。

その時、運転手を取り囲む男達。

手の甲にD.Pの極印。

「Rivive!」

パインがそう言った。

「な、なんだ、キミ達は!」

運転手が慌てふためく中、男達は、子犬を高く高く蹴り上げた。

「ギャウン!」

宙に飛ぶ子犬。運転手の首を締め上げる男達。

「あいつ等! そこ迄する必要あらへんやろが!」

パインは走り出し、Riviveの連中に向かって行く。

シンバも走りながら、帽子を脱いだ。

犬が落ちて来るのを、滑り込みで、帽子で受け止める。

気付けば、パインの強さに、Riviveの連中は逃げて行く所。

子犬はシンバの帽子の中で無事ながらも脅えている。

「大丈夫か?」

「うっ、ごほっ! 一体、なんだったんだ」

運転手は首を締められたせいで、咳き込みながら、パインの差し出された手を握り締めた。

「あの犬、飼い主が探しとんねん。あの犬と一緒におったら、また殺されかけるで。そういう御時世やからなぁ。ペット探しにスイーパーでも雇う勢いや。危ないから、俺等から飼い主に返して来たろか?」

「し、しかし、そうすれば君達が狙われるのでは?」

「大丈夫や。見たろ? 俺なら返り討ちや」

運転手は少し考えて、シンバの傍に来て、シンバの腕に置かれた帽子の中にいる子犬の頭を撫でた。

「お前、行っちゃうのか。残念だなぁ。仲良くなれたのになぁ。また会えたらいいなぁ」

運転手は別れたくなさそうだ。それでも別れなければならない。

シンバは、人間の複雑な気持ちを知る為か、ジッと運転手の表情を見つめている。

「ほな、ちゃんと返して来ますんで」

パインはそう言うと、シンバの肩を持ち、くるっと180度回転させ、運転手に背を向けさせ、歩かせた。思う存分、別れを惜しませる事もさせず、運転手から離れて行く。

「Riviveの奴等もこの犬を狙っとったんや。間違いない、この犬や。運転手に話を聞く迄もあらへん。手間がはぶけて良かったなぁ」

シンバの帽子の中、鳴き続ける子犬。

「・・・・・・痛いって言ってるの?」

しかし、シンバが触れているのは帽子であって、子犬自体には触れていない。

「ねぇ、パイン、痛いんじゃないかなぁ」

「は?」

「この犬、痛いって鳴いてるんじゃないかなぁ」

「痛い? どこが?」

「・・・・・・わからないけど」

「蹴られた時に怪我でもしたかな」

「わからないけど、あの運転手さんと別れるのが痛いんじゃないかな」

「また訳わからん事ぬかしとるな、お前は」

「あの運転手さんも心配なんじゃないかな、この犬がどこへ行くのか。ねぇ、あの運転手さんの手から、この犬を飼い主に返せないかな? 飼い主さんとあの運転手さんが仲良くなれば、運転手さんだって、いつでもこの犬に会いに行けるよ?」

「それはできん」

「どうして?」

「そんな依頼内容やない。それにな、そんな事したら、この犬にかかってる金は、あの運転手がもらう事になる。そうやろう? 見つけたんは俺等や。金はSurviveに入る。それでええねん」

「でも」

「ええか、シンバ、俺等は依頼以上の内容を考える必要はない! お前、脳内回路ショート起こすで!」

「でも、なら、なんでパインは運転手さんから一秒でも早く犬を離すような事したんだよ! 運転手さんの哀しい顔見たくなかったからの癖に! 別れが長引く分、運転手さんが辛くなると思ったからの癖に!」

「・・・・・・アホちゃうか。そんなんちゃうよ」

「違くないもん!」

「うるさいなぁ、だったらなんやねん」

「依頼なんか受けなきゃいい!」

「は?」

突飛な事を言うシンバに、パインは驚いて、歩いている足を止めた。

「だって意味わからないもん」

「なにが?」

「SurviveとRiviveは違う組織でしょ、なのに、どうして同じ依頼が来てるの?」

「・・・・・・さぁ? そんなん考えた事もなかったなぁ。お前、妙な事、疑問に思うねんなぁ」

「Riviveに壊されたD.Pもいるって言ってたよね? どうして壊されるのに依頼を受ける必要があるの? どうして仲良くできないの?」

「壊されるんが嫌やったら、もっと強くなるんやなぁ。ええか、シンバ、お前も曲りなりにもD.Pや。バトルする度に、レベルアップして行く筈や」

「違うよ、壊されるのが嫌なんじゃないよ! 組織のやり方が納得できないんだよ!」

「組織が嫌やったら組織を出るしかあらへん。もっと強うなって、昇進するんやな」

「そうじゃないよ! どうして痛い事を繰り返し繰り返しするのかって事なんだよ!」

「もうええがな、訳わからん事ばっかり言いよってからに! 早う帰るで!」

「訳わかんなくないよ!」

シンバは吠えるが、パインは聞く耳持たずといった風に歩き出す。

しぶしぶシンバも歩き出す。

途中でバスが来たので、乗り込んだ。

子犬は鳴くのを止め、シンバの帽子の中、とても大人しい。

とても小さな生き物を、シンバはまだどうやって扱っていいのか、わからずにいる。

力の加減とは、とても難しく、生き物に対しては計算外の反応が多い。

人への力加減ならわかるのに、人以外への生き物に難しいのは、D.Pが人型だからだろう。

つまり、人は、D.Pを人の写し身として創った。

D.Pが人以外の生物の扱いが下手なのは、人が人以外の生物への思いやりがないという事。

それでも人と同じ感情があるから、人のように何かに優しくしたくなる時もあるのだ。

それが同じ人でなくても――。

Surviveに着いて、依頼終了の報告の為、ハーンがいるルームに行くと、Surviveで雇われている全てのD.Pが集っていた。

ドアを開けた途端に、その全てのD.Pがパインとシンバを見た。

その中にいた女性と、シンバは目が合ったが、女性は驚いた顔をして、目を逸らした。

「どないしたんスか」

「ああ、調度、集合かけたとこだ。お前達、仕事は片付いたのか?」

ハーンがそう言うと、シンバは、ハーンの傍に行き、

「犬」

と、帽子の中に入れたまま、子犬をハーンに差し出した。

「よし、じゃあ、その犬は、そこのテーブルの上のカゴの中に入れておいてくれ」

ハーンにそう言われるまま、シンバはカゴの中に、帽子ごと入れる。すると子犬は帽子から出て、カゴの中の匂いを嗅ぎ始めた。

シンバは帽子の中より、居心地がいいだろうとニッコリ微笑む。

そして、帽子を被り、振り向くと、

「これで皆、集った訳だな」

と、ハーンが話し始めた。

「実は、ある情報が入ってね。この中にPPP(スリーピー)のスパイが紛れ込んだと」

皆、ザワザワと騒ぎ出す。

「面倒だが、極印がシールや書かれたモノじゃないか、一人一人、調べようと思う。当然、昔からここにいる連中も調べる。万が一、いや、絶対に有り得ないだろうが、昔からスパイとしてここにいたと言う事も考えられなくはない」

その時、

「私! 私、知ってます! スパイが誰なのか!」

シンバがこの部屋に入って、最初に目が合った女性が、大声でそう言った。

「スパイが誰か知っている? キミは・・・・・・今日入ったばかりの新人じゃないか」

「はい! でも知ってます。スパイは彼です!」

女性は、シンバを指差した。

皆、ざわめきながら、シンバを見る。

「彼は、昔、極印がなかったんです」

女性がそう言うと、

「ああ、そういえば、さっきバーで、人間になるだの、なんだの言ってたなぁ」

ざわめきの中から、そう聞こえて来た。

「パイン、お前は、シンバとずっと一緒だったのだろう。それにシンバを連れて来たのはパイン、お前だ」

ハーンがパインにそう言うが、パインは黙っている。

「パイン、お前が連れて来たと言うだけで、安心していたが、ちゃんとD.Pか人間か、極印以外で確認して、ここに連れて来たのだろうな?」

黙り込んでいるパインに、皆、

「なぁ、アイツ、目の色が違うじゃん? D.Pならブラウンの筈だろ?」

「っていうか、身長も170より低いように見えるけど、165より高いよなぁ?」

口々に怪しいと思っている疑いが出る。

「よし、わかった、皆、静まれ。パイン以外の誰か、シンバを調べろ。人間とわかった時には殺してしまえ。ここの場所を知られて、生きて返す訳にはいかない」

ハーンがそう言うと、

「私が調べます、私の初仕事にさせて下さい」

と、さっきのシンバをスパイだと言った女性が名乗りをあげた。

そして、シンバの傍に歩み寄り、

「来て。あっちの個室で調べるから。せめて皆の前で恥じをかかないように殺してあげる」

そう言った。

シンバは何も言わず、女性について行き、誰もいない個室に入った。

女性は、シンバに背を向けたまま。

「あの、僕はアンドロイドだよ。初めて出会った時も、僕はそう言ったよ? スパイじゃないよ? ねぇ、ディア?」

「私の名前、覚えてたのね、私も覚えてたわ、あなたのその赤い帽子を。シンバの帽子を」

ディアは振り向いて、そう言った。

昔、大聖堂の前で出会ったディア・ケイト。

「シンバがスパイじゃない事くらい、わかってるわ。だってスパイは私ですもの。私、こう見えてもPPPなの」

ディアはポケットからPPPのバッヂを取り出して、シンバに見せた。

「普段はちゃんと胸のところにつけてるのよ」

そう言って、ディアはシンバに微笑む。

「じゃあ、どうして僕がスパイなんて嘘を?」

「嘘? あなたこそ、スパイなんじゃないの? 事実、あなたに極印はなかった筈だわ。闇企業迄、PPPの手にまわらないと思ったら大間違いよ。噂では優秀なD.Pを引き抜いて、経済を牛耳ってる組織もあるそうじゃない? そういうD.Pを使ってる人間だってPPPとしては見逃せないわ」

「なんの話?」

「とぼけないでよ! まぁ、あなたがどっかの組織の回し者でも人間ならいいのよ。私はD.Pを全て排除する為にPPPにいるようなもんだから。あなたの処分は後で考えるとして、ねぇ、組まない?」

「・・・・・・ディア。僕はとぼけてないし、本当にアンドロイドなんだよ。僕に極印がなかったのは・・・・・・ううん、僕にどうして極印があるのか不思議だよ。だって僕はディアの言う通り、極印なんてなかったんだから。でも、でもね、僕はアンドロイドなんだ。僕は人間じゃないよ」

「・・・・・・そう、なら、あなたと始めて会った時に壊しておくんだったわ」

ディアはそういうと、懐から銃を出し、シンバに銃口を向けた。

「これだけの至近距離だと、幾らアンドロイドでも壊れるわね。避ける事もできないわよ、至近弾は」

「・・・・・・僕を壊すの?」

「そうよ」

「どうして?」

「あなたがアンドロイドだからよ」

「僕がアンドロイドなら、どうして壊されなきゃいけないの?」

「アンドロイドがいると人が死ぬからよ」

そう言われ、シンバは、人を殺す仕事がある事を思い出す。

「・・・・・・でも、人が死ぬから僕を殺したら、そんなのディアも僕達アンドロイドと同じ事をしてるって事だよ?」

「何を言っているの? 人はアンドロイドと同じ事をしてる訳じゃないわ。私達はまだ自分で悪い事を判断し、犯した罪を償ったり、改善する事ができる。でもアンドロイドは命令しか聞けない。人間はそんなアンドロイドを悪用する。だからアンドロイドなんてなくていいの。それにアンドロイドは殺すんじゃないの、壊すの。あなた達、元々死人じゃない。心臓の音もない、痛さもない、只の死人」

「違う! 僕は生きてる! だって僕は痛い!」

「痛い? あなた、やっぱり人間なの?」

「違うよ、人間じゃないよ、でも痛いよ! ここらへんが!」

シンバは自分の胸辺りに手を広げて、押さえた。

その時、ディアの中で、初めて出会った時の、痛さのわかる人間になりたいと言ったシンバが思い出された。

「ここらへんが痛い! ディアは人間なんだろう? どうして痛さがわかるのに優しくなれないのかな? どうしてみんな傷付け合うのかな? どうして自分を傷付けてまで、誰かを傷付けるのかな?」

「何が言いたいのよ!」

「・・・・・・ディアにそんな武器、似合わないよ」

「何言ってるの! 似合う似合わないで仕事してるんじゃないのよ! 私はPPPなの!」

ディアが大声でそう怒鳴った時、ドアが開いて、

「そんな事やないか、思うたよ」

パインが入って来た。

「その女がシンバがスパイや言うた時から、怪しいと思うとった。それにな、シンバみたいなアホにスパイは務まらへん。例えな、シンバが人間やったとしても、誰かを陥れたり、騙したりはできん奴やからな。そうやろう? PPPのおねえちゃん」

ディアはシンバに銃口を向けたまま、パインを睨んでいる。

「この状況からして、銃は下ろした方がええ」

ディアは黙ったまま、下唇を噛み締め、俯く。

――このまま、ディアを外へ逃がそう。

シンバがそう言おうとした時、

「おい、シンバは人間だったのか?」

と、ハーン迄、やって来た。

「いや、スパイはシンバやなくて」

パインがハーンに話してしまう。

「参ったな! なんでスパイってバレちゃうかな!」

シンバは咄嗟に声を大きくしてそう言った。

驚いたのはパインだけではない、ディアも顔を上げ、驚いた表情をしている。

「いや、ちょお待てや、お前、何言うてんねん!」

「キサマ!!!! やはりスパイだったか!!!!」

ハーンは怒りの表情でシンバに向かって来るが、シンバもダッシュで、ハーンの横を通り抜け、その部屋を出る。

出た所で、集っていたSurviveのD.P達が、皆、シンバを見て、きょとんとしている。

人間だったのか? D.Pだったのか? どっちだったんだろう? そんな表情で。

シンバは一気に走り抜ける。

幸い、皆、一所に集っていた為、出口には障害になる者はいない。

「待てや! おい! シンバ!」

「待てパイン! まさか、お前、シンバをスパイと知っていて連れ込んだのか?」

「そんなアホな! アイツは! いや、だからホンマのスパイは!」

パインはそこにいるディアを指差そうとして、やめた――。

「・・・・・・すんません。俺、ようわからんのです」

パインはそう言うと、シンバを追いかけた。

「くそっ! シンバとパインを追え!! 何してる! さっさと追え! 追うんだ!!」

ハーンが大声を出した。

ディアは持っている銃を見て、似合わないかと、懐に仕舞い、ふぅっと溜息を吐いた。

「・・・・・・変なDead Person」

ディアは、その自分の呟きに、なんだか可笑しくなって、フッと笑う。

Dead Personの癖に、人間よりも生きてる奴に出会ったなと思わずにはいられないからだ。

皆、シンバとパインを追い、誰もいなくなる。

ディアのタイトスカートのポケットの中にある携帯電話がブルブルと動き出す。

「もしもし?」

『あ、ディアさぁん? 今どこですかぁ?』

「なぁに、ホーク。事件なの?」

『いえ、そうじゃなくて、一人でいると不安なんで、ディアさぁん、早く戻って来てほしいなぁって思ったんです』

「まったく、ホークったら、一人じゃ何もできないんだから!」

『すいませぇん。ところでDead Personの組織の場所のタレコミがあったって聞きましたけど、どうでした?』

「え? あ、ああ、ただのバーだったわ」

『そうなんですかぁ。美術館のオーナーが殺されて、また次の被害が出る前に、組織ごと爆弾でも仕掛けてドッカ―ンって爆破しちゃえばいいんですけどねぇ』

「・・・・・・そうね」

『ディアさぁん?』

「はいはい、今戻るわ。じゃあね」

ディアは電話を切った後、どうして組織の場所を教えなかったんだろうと考える。

組織に誰もいなくなった今なら、応援を頼めば、一気にここを潰せる。

いや、ホークの言う通り、今なら、爆弾を仕掛けられる。

だが、ディアはその考えに首を振る。

Dead Personを壊す事に躊躇いはないのだが。

あの妙なDead Personに会う迄は、こんな気持ちではなかった。

そう、あのシンバに会う迄は――。

シンバに会い、狂わされたのはディアだけではない。パインも同様である。

どうしてディアが人間であると言わずに、シンバを追いかけたのだろうか?

Dead Personが出来て、もうかなりの月日、そろそろ脳内コンピューターに異常が現れてもおかしくはない。

もう死者ではない者が現れるのかもしれない。

ディアは、そう思うと、今更だと鼻で笑い、所詮、D.PはD.Pなのだと非情な思いに気持ちを戻していた――。

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