第7話「六歌との打ち合わせ」

 学祭の準備が着々と進んでいる。


 放課後になると生徒たちが一斉に準備に取りかかり始める。安っぽい看板やバルーンを膨らましている生徒を見かけるようになった。中には気合を入れて屋台を作っている教室もある。手書きのイラストが入ったりするのもご愛敬というべきか。


 さて、我らが和太鼓部はといえば――夏の時と比べて、徐々に成果が表れてきた。


 顧問に言われた通り、俺は抑え目に叩いていた。つまり腕の振りや体全体の動きを小さくしている。他の部員たちがバチを振り上げた時の高さに合わせている。そうしていると奇妙なことに、他の部員も俺に合わせて動くようになった。俺の方も部員の動きを見て合わせているので、相乗効果というべきか――とにかく、テンポやタイミングがズレることが少なくなってきた。


 もしかしたら自分が飛ばしすぎていたのかもしれない、と反省するようになったのはこの頃からだった。


 そして六歌りっかはといえば――あまり変わらない。元々上手い方だから、俺がこれといったアドバイスをする必要はない。それでも彼女は懸命に叩いている。それを続けていく内に、女子からの目もいくらか柔らかくなっているような気がした。


 さて、全体を通しての練習だ。


 俺は六歌と並び――その時、六歌がこちらを向いた。俺も首を向けると、彼女は口を大きく動かして「よろしくね」と言った。


 そういえばあの夏の時から、彼女とまともに話せていない。


「ああ、よろしく」


 なんだか変に緊張してしまう。


 下打の人がバチを振り、均等なリズムを刻む。その音に、動きに合わせて俺と六歌はすっとバチを持ち上げた。


 ドォーン……


 一打目の感触はまずまず。タイミングも音の大きさもズレていない。


 俺は六歌と下打の動きを見、腕の振りの角度と腰の高さを微調整した。できるだけ叩く力も六歌に合わせる。そうしないと腕力的に勝る俺の音が、六歌の音をかき消してしまうからだ。


 ドンドンドンドン、ドコドコドコドコ……

 ドンドンドンドン、ドコドコドコドコ……


 俺と六歌の太鼓は、音が整っていた。


 でも、これは全体を通しての練習。いちいちひとつの演目に気を取られている場合じゃない。すぐに他の人に順番を譲り、俺と六歌はいったん下がった。


 六歌が目配せしてきた。小さな満足感が滲んでいる。


 俺もちょっとだけうなずきかける。その時の俺がどういう顔をしていたかはわからないけど、気分は悪くなかった。

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