NEW NPC④
ダンジョンの中、新久は姫の姿、所定の位置で助けられる時を待つ。
―――この繰り返し、か・・・。
―――でも、これでいいのかもしれない。
―――僕は現実では生きていても意味のない存在なんだから。
新久はゆっくりと目を閉じた。 そうすると現実世界での嫌なことが頭に浮かんでくる。
―――誰も僕の意見に耳を傾けない。
―――どうせ周りの人の意見を押し付けられる。
―――そんな中身のない人生はこのNPCと同じだ。
―――嫌な思いをするくらいなら、何の感情も表に出さない口にも出さないNPCでいる方が、断然にマシ。
その時ふと初弥のことが脳裏を過っていた。 自分よりも辛い目に遭っていたであろう彼。 本当は助け出したかったが何もできなかった自分。 姫の身になり助けられるのは自分。
―――大丈夫、かな・・・。
―――でももう僕には関係のないことなんだ。
今自分に起きていることが何なのかよく分からないが、現実世界に戻る保証はない。 ならずっとこのままでいることを考えた方がいい。 そう思っていると足音が聞こえてきた。
―――・・・新しい挑戦者かな?
ゆっくり目を開けるとそこには一人の女性が立っていた。
―――え、一人?
―――このダンジョンを一人で攻略は流石に厳しいぞ。
―――一人グループで来たということは、相当強いんだろうな。
新久も一人で攻略したため一人では不可能ということはない。 だが雰囲気からして歴戦の強者には到底見えなかった。 とりあえずお手並み拝見ということで彼女のことをジッと見つめた。
ここまでの道中、ある程度雑魚モンスターを避けながら進むことはできる。 しかし、ボスだけはそうはいかない。
「よしッ!」
彼女は意気込むとボスに攻撃を始める。 剣と盾を構えていることから前衛職なのは間違いないが、流石にボスに挑むにはお粗末に思えた。
―――・・・おいおい、何だよその戦い方!
大量の回復薬を持ってきたのか一回のダメージを受けるごとに高価な薬を使っている。
ギリギリを見極めているとやられてしまう可能性があるため、作戦としてなくはないが、避けることを一切せずボスの目の前で攻撃を繰り返しているのには驚いた。
―――確かに死なないかもしれないけど、薬の使い方が雑過ぎるって。
―――このボスはかなり強いから、すぐに薬が切れるぞ。
それに彼女はボスの特徴を理解していないらしい。 ごり押し戦法と言えば聞こえはいいが、どう考えてもこの先負けてしまうのは目に見えていた。
―――何度も攻撃されたら分かるだろうに・・・。
―――シャドウミストがある相手に無策で挑むのは無理だ。
ここのボスは辺りを完全に闇に包むスキルを使う。 僅かな時間ではあるが、状態異常ではないそれを防ぐ手段はなく、音を頼りに動くか効果範囲外から仲間に指示をもらうかのどちらかしか攻略できない。 もっとも彼女は張り付きからのポーションがぶ飲み戦法をとっているため、相性的に悪くはない。
だが新久が見ている分にシャドウミスト中彼女の攻撃は一切当たっておらず、ただ薬を消費させられるだけになっている。
―――あぁ、もう!
―――今のところは絶対に防御しないと、って・・・。
色々と分析している自分に溜め息をついた。
―――こんなことを思っていても意味がないのか。
―――僕には彼女に伝える術がないんだから。
彼女は今でも一生懸命に戦っていた。 相変わらず薬の使い方は雑でダメージ効率も悪い。
―――・・・流石にこのままだとやられそうだ。
―――協力はできなくても、アドバイスはしてやりたい。
だけど身体は思うように動いてはくれないし口も動かない。 助けたい気持ちはあった。 だがそれができない。 現実世界で初弥を前にした時と似ている。
ただ違うのは今は自分の意思ではどうにもできないことだ。
―――・・・まぁ、いいや。
―――どうせ彼女も赤の他人なんだ。
―――もしここでアドバイスとか自分の意見を言ってみ?
―――また僕は非難され、無視されるに決まっている。
―――ここはNPCらしく何もしないのが賢明か・・・。
そう思いぼんやりと見ていることにした。 たくさんの回復薬を持っているのか、まだ彼女のライフが尽きることはない。 まるでこのバトルに彼女の全てを賭けているかのような戦い方だ。
―――・・・自分の意見を言えないのって、いざとなるともどかしいんだな。
―――自分の意見なんてもう必要ないと思っていたのに。
―――どうして今はこんなにも助けてあげたいって思ってしまうんだろう。
ボスのシャドウミストが彼女の視界を封じ、強烈な一撃を叩き込んだ。 地に倒れ伏し、それでも薬を飲み立ち上がる。
自分とはまるで違う戦い方でもどかしくも思うが、一人でここに来るだけでも大したものなのだ。
―――薬が尽きるのが先か、ボスのライフが尽きるのが先か。
―――目の前で死なれるのは流石に嫌だ。
応援するような気持ちで彼女を見守っていた。 恐らくはNPCである姫もこんな風に見ているのではないかと思って。
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