NEW NPC③




そう思った瞬間新久の身体は光に包まれていた。 先程部屋で起きた現象に似ていたため、今度は自室で目覚めることになるのかと思った。


―――また!?


しかしその予想は外れ、目を開けるとそこは先程もいた薄暗い洞窟の中だった。 相変わらず薄汚れたドレスを着込んでいて、身体は自分のものではない。 

姫のまま元居た場所まで戻ってしまっているのだ。


―――ループしているのか・・・?

―――また新しい挑戦者が来るっていうことだよな。


魔法で回復したばかりだというのに、最初と同様身体が石のように重かった。 痛みはないが学校のロッカーにでも閉じ込められて時間が経ったような窮屈さを感じる。 

先程のようなパーティーが来てくれて回復してくれるまでこのままということだ。


―――というか、このクエストってあれだよね。

―――昨日僕がクリアしたクエストと同じ?

―――同じダンジョンだよね?


それは“ダンジョンの中に攫われた姫を救出せよ”というクエストで、新久は自室で一人でそのクエストをクリアしていた。 

難度としてはそれ程でもないが、クエスト報酬の転移石が有用なため初心者から上級者問わず人気なクエストだ。 

ただし一グループにつき一日一回しかクリアできないため、先程のパーティーがまたやってくることはないだろう。


―――僕が好きなゲームのNPCになれたのか・・・。

―――自分の意思で動けないのはアレだけど、それなら万々歳だ。


NPCなら自分の意思を主張する必要はない。 決められた言葉を喋り決められた行動を取ればいい。 何も考えずそれだけをやればいいと思えば楽だ。 

だが洞窟で誰も来ないのは少々寂しく思え、退屈だった。 好きなゲームをすることもできない。


―――どうせならプレイヤー側を望めばよかった・・・。


ゲームの中で一人で生きていくなら意思を主張する必要もなければ、誰かに命令されることもない。 だが今更どうしようもないため、姫としての立場を楽しむしかなかった。 

しばらく待っていると新たな挑戦者がやってきた。 このダンジョンは一つのグループしか入ることができないため、現れた四人組のグループのみが挑戦中ということになる。


「お! 姫様、みーっけ」


先頭の盗賊職の男に指を差される。 当然いい気分ではなかった。


「じゃあ俺、姫を連れて先にダンジョンから出ているわー」


格闘家の男にガツリと担がれる。 新久がゲームをやっている時は助け出した姫は普通に歩いてきたように見えたが、ゲームの中でだと変わってくるのかもしれない。 

体勢的には痛くはないが、肩に担がれながら仮にも姫をこのように運んでいいのだろうかと思う。


「あー、待て待て! 勝手に行くな! このボスを倒さなきゃ出口が開かねぇから!」

「えー、マジで?」

「マジマジ。 早くお前も手伝え」

「はいはーい」


そう返事をすると男は新久をその場にドサリと下ろした。 新久は思い切り尻餅をつく。


―――痛ッ・・・くない?

―――痛みは感じないけど、乱暴に扱わないでほしいな。


軽く男を睨み付ける。 するとその視線に気付いたのか男は新久の方へ振り返った。


「つか、姫さんよー」


どうやら睨んでいたのは気付いていないらしい。


「勝手に攫われないでくれる? 姫は攫われる役目、って何? 誰得? 俺たちの面倒が増えるだけなんだけど」

「・・・」


ゲームが大好きな新久にとっては気に入らない言葉だった。 姫が攫われるからこそ物語が始まるのだ。 もっともこのクエストに限って言えば、物語の本筋に関わってくるクエストではないのだが。


「おい姫様。 何か言ったらどうだ?」

「何NPCに喧嘩を売ってんだよ。 返事するわけがないだろ」


そう言って仲間が笑う。 おそらくは彼らもNPCが何も言い返してこないことを知って言っているのだろう。 

新久は無縁だが、ダンジョンズストーリアでは非戦闘地域以外の場所にいるNPCと交戦できるシステムを実装している。 それを利用しNPCを虐殺する者もいると聞く。 

NPCはリポップするよう設定されているが気持ちのいい話ではない。 


「よーし、倒せたー。 ・・・って、コイツ全然アイテムを落とさねぇしッ!」

「ここまで上ってくるのにどれだけ時間がかかったと思ってんだよ」


ブツブツ言いながらも少量の報酬を手に取ると再び近付いてきた。


「さっさと姫を運んじまうかー」

「思うんだけど、NPCでも喋れる奴はいるよな? つかほとんどが喋れるだろ?」

「全て定型文だけどな」


―――・・・喋れる?

―――確かに喋らないNPCはほとんどいない。

―――僕も言葉を声に出すことができるのかな。


だが何か声を出そうとしても、やはり口は開かないままだった。 先程と同様担がれたまま街へと運ばれ、役所までやってくる。


「はい、クエスト完了です。 お疲れ様でした」


思えば受付の人もNPCだ。 同じことしか言わない。


―――・・・居心地悪かったな、今回のメンバー。


新久は再び光に包まれダンジョンへと戻されることになった。



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