NEW NPC②




「暗い! 誰か明かりをつけてくれ!」

「お、見つけたぞ!」

「もしかして姫か?」


気付けば眠ってしまっていて、周りの騒々しさに意識を取り戻した。 だがどこかおかしいような気がして、ゆっくりと目を開ける。


―――何だ・・・?


薄暗いのは自室と同様のはずだが、天井からの明かりが一切ない。  寝起きのためか肌寒く、柔らかなベッドの感触など微塵もない。 正面から懐中電灯のような灯りで照らされ目が眩んだ。 

灯りは少しずつ近付いてきて、そこには知らない男と女の五人組がいた。


―――・・・どちら様?


呆けているうちに新久の顔をまじまじと見られ大きく頷いた。


「・・・うん、名前も合っているな。 よし、俺たちはアイツを倒す! 女子は姫を守っていてくれ!」


二人の女性が自分を背にして周囲を窺っている。 正直意味が分からないが、とりあえず自分がいるのは自室ではない。


―――一体何事・・・。


横たわっている上体を起こそうとしたが、身体が重くて起き上がれなかった。


―――あれ?


まるで自分の身体ではない感覚に戸惑ってしまう。 金縛りにあったように身体は動かず、ただ意識だけが明瞭だ。


「姫様、今助けるからね!」


―――姫様って僕のこと?


自分はどう見ても男、ただ子供かつひ弱な外見に女っぽいと思われる可能性はある。 だが間違いなく姫ではない。 

不思議に首を傾げているうちに女性が何かしらをし、新久が光に包まれると突然身体が軽くなった。 まるでゲームに出てくる魔法のようだ。


―――君たちは誰?

―――ここはどこ・・・?


周囲を見渡してみるが、薄暗くてあまり見えなかった。


「男子ー! 姫様を回復したよ!」

「了解! あとは倒すだけだな!」


男子という言葉に違和感を覚えた。 先程前にした男はどうみても子供には見えない。 特に深い意味はないかもしれないが、まるで学校の女子がクラスメイトを呼ぶような感じだ。 

だがそんなことよりも他に気になることがあり、彼らの会話に割って入る。


『僕は姫じゃない』


―――・・・ッ!


だが新久は息を呑むことになる。 『僕は姫じゃない』とそう答えたはずだったが、何故か声が出ないのだ。 そもそも言葉を発したくても口がまず自由に動かせない。 


―――一体どうなっているんだ・・・?


そこで前に立つ女性の煌びやかな鎧に映る自分の姿を見てギョッとした。 もちろん、きちんとした鏡ではないが磨き抜かれた鉄板には間違いなくドレス姿が映っている。 

薄汚れていて姫と呼ばれるには似つかわしくないが、それ以前の問題として新久は男だ。 ドレスを着る趣味はない。 残念ながら顔までは見えないが、自分の手指が自分のものではないということは分かる。

明らかな異常事態だった。


「おっしゃ!」

「ナイスアシスト!」


女性たちの向こうで男の歓声が聞こえ、どうやら何かを終えたようだ。 歩み寄ってくる姿から全員で五人組なのだと分かった。


「お疲れー。 じゃああとはここから出るだけだな」

「姫は俺が負ぶっていくぜ!」


そう言いながらガタイのいい男が近付いてきて、ヒョイと肩に担がれた。 新久のことを姫と呼びながらのそれはあまりに雑な扱いだと感じる。 

だが実際は何が何だかよく分からず、グループの移動が始まった。


「ここも攻略し終えたし、次はどこへ行けばいいのかな?」

「しばらくは狩りをしていた方がいいんじゃないか? レベルもギリギリだし」


戦闘二人を歩く男女の会話にひっかかる単語があった。 “レベル” それはゲームにおいて成長の度合いを示す年齢のようなもので、日常生活においてはあまり使われない言葉だ。 

だが新久としては何となくの予感はあった。 先程の魔法のような現象、彼ら五人の全身を包んでいる現代人では到底切るはずのない装備。 

コスプレと言われれば納得してしまいそうだが、あまりに堂に入り過ぎている。


「おっと。 姫様、この態勢は痛くないですか?」


自分に話しかけられているため頷きたかったが、それすらも許されない。 


―――凄く不便な身体なんだけど・・・。


意思を主張するのは苦手だが、全く喋れないというのももどかしい。 聞きたいことが山ほどあるというのにされるがままの状態。 

夢なのか現実なのかも危うくなりそうだが、担がれている感触や揺れの具合がとても夢とは思えなかった。 

薄暗い中を光を照らしながら進みしばらく、どうやらここは洞窟のようで前方から眩い光が照らした。


―――あ、ここ・・・!


洞窟から出た先、広がった光景で新久は自分に起きている現象を理解した。 下ろしてほしいが言葉も出ない。 動きたくても身体が微動だにしない。 彼らに身を任せるしか手段がなかった。 

そのまま一行は転移の魔法を使い街へと移動する。 新久が先程までプレイしていたゲーム“ダンジョンズストーリア”で拠点としている見慣れた街並みが広がっている。 

もちろんゲームのため客観的にしか見たことがなく、主観で見るのは初めてだ。 感動と興奮、そしてただ自分で歩くことのできないもどかしさ。 担がれたまま見慣れた建物まで運ばれそこで降ろされる。


「お邪魔しまーす!」


着いたのは役所といわれる場所で、所定の受付に行き姫になった新久の姿を確認させた。


「はい、クエスト完了です。 お疲れ様でした」

「やったぁー!」

「大量の報酬ゲットだぜー!」


―――・・・やっぱり。 


目の前で喜んでいるのは一般プレイヤーなのだろう。 だがここへ来ても新久は自由に移動することができないことから、彼らとは別種の存在ということになる。


―――もしかして僕、ゲームの中のNPCになってる!?



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