第3話 根拠なき自信
「ならば俺がためしてやる」
次の日、枕カバーの話を山田にしたら迷うことなくそう答えた。
ハッピーペンの時もそうだったが、なぜこうもチャンジャーなのかと正直驚くばかりだ。
夢の実現というリスクも鼻で笑われ、お前は心配症だと逆に言われた。
「俺はハッピーペンで彼女ができた。だから大丈夫だって」
「なんですか、その根拠のない理由は……」
「人生なるようになるし、前向きに生きれば悪いようにはならないさ」
僕は首を降って「そこに信号があるならばそれはみんな赤である」と持論を唱えた。それを聞いていた山田は目を白黒させながら言った。
「そんな考え方だとモテないぞ」
「うるせぇ!」
僕は枕カバーの入った紙袋を山田に突き出し、指をさして忠告した。
「どうなってもしらないからな」
山田は頷き、ニヤニヤと笑みを浮かべながら紙袋の中をのぞき込んでいた。
その夜、山田から「いまから枕を使うぜ」とラインが届いた。
どうやら実況する気のようだ。
「その枕で山田は何を願うのか」と問うと「彼女との関係を深めたい」と回答がきた。
山田いわく段取りはこうだ。
彼女の写真を枕の下にはさみ、録音していた彼女の声を無限リピート、さらに眠りにつくまで彼女との妄想をはぐくませ、全身全霊をもってして彼女漬けにするとのこと、なんとキモイ……いや、力の入れようか、惚れたのならここまでしろと、遠回しにいわれているような気がしたほどだった。
「いま俺は彼女を抱きしめている」
さっそく妄想が送られてきた。
「いまキスをしている」
あれ? 山田ってこんなキャラだったけ?
「ピンク色に光った。これは……」
ついにきたか!
彼のメッセージはここで終わった。
安否を確認しようとするがこちらの問いに既読はつかなかった。
あちゃー、もしかして死んだのか? いや、死ぬのは早すぎる。夢の実現は目覚めてからの話だ。
漠然とした不安のなかで僕はベットの中で天井を見つめていた。
あれだけのことをしたのだから、きっと彼女の夢を見ているのだろう、どこかそう思いたい何かがあった。
さらに山田の妄想を思い出し、これが自分だったらと振り返る。
雪風ちゃんを抱きしめる。
雪風ちゃんとキスをする。
ため息が後に続く……。
夢が実現するとして、そんなことができるのだろうか? どんな奇跡が起きようが、実行するのは自分なのだろう? ならば結局自分次第なのではないのだろうか。
次の日の朝、僕のメッセージに既読が付かず。山田から返事もなかった。
不安な気持ちのなか登校し教室入ると、ぼんやりと天井を眺める山田を見かけた。
これだけでは状況が読めない、僕はそれとなく近づき山田の顔を覗き込んだ。
「うわぁぁぁ!!」
告白しよう! 賢者モードという言葉は知ってはいたが『生』で見たのは初めてだった。
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