第二章 あなたの夢を実現します。
第1話 ふたりの関係は
ハッピーペンを使い一か月が経った。
あの日から雪風ちゃんとは友達関係が続いている。
僕はそれ以上の関係と思いたいが、たぶん微妙なところなのだろう。
現状に満足しているわけではないが、だからといって改善の努力もなく、ただ、雪風ちゃんがどう思っているのかとか、漠然とした、はたから見れば自堕落ともいえる毎日をただ過ごす状況だった。
友達といっても雪風ちゃんと校内で話すことはない、他人の目や、お互いの交友関係もあり目立つことはあえて控えていた。
そして、あえてなどという言葉はただの言い訳なのもわかっていた。
僕はため息をつく……。
まとまらない考えを整理していた時、ふと雪風ちゃんと目が合った。
僕が見つめ雪風ちゃんがあわせる。そんな言葉にはできないやりとりがずっと続いている。
もっと、積極的に行動しなくてはならないのだろうか?
雪風ちゃんの視線からそう感じることもあった。
理想は友達以上たまに恋人だが、人から見れば僕たちは友達以下なのだろうな……。
でも大丈夫。それは他人の感想の域であり僕にはそう思っていられる根拠があった。これがあるからこそ、僕はどこかで雪風ちゃんとの関係は友達以上と考えることができていた。
それは、山田と暗井にも内緒にしていたが、僕は通学途中にある公園で雪風ちゃんと密会していたのだ。まあ、密会と言えばそれらしく聞こえるが、実際に会ってもたわいもない雑談をするだけで、それ以上のなにかがあるわけでもなく、ただ何となく集まるといった感じではあった。二人で会う前にラインで打ち合わせることもあるが、そこから飛躍して話題が色事にそれることもない、きっと他人が聞けばモブの戯言だと聞き流すのかもしれない。まったく関係を肯定したいのか否定したいのか、自分が何を言いたいのかすら、わからなくなるのもいつものことだった。
そんな公園で僕はぼんやりとスマホを眺めていた。
雪風ちゃんとのやりとりを読み返しては、用もないのに送れるトークはないか考えていた。
「あっ、君もここに来てたんだね」
ハッとして振り向くと、そこに雪風ちゃんが立っていた。
雪風ちゃんが友達と帰るのはこの先の交差点までだというのは知っている。実際に僕もそうだし、交差点からこっちに顔見知りはいない、そう、お互いが会うにはうってつけの場所なのだ。
「ハッピーペンのときからだね」
「うん」
「あの時はありがとう、結局自分の名前を書いてないんでしょ……」
「うん、でも気にしてないよ、こうやって雪風ちゃんと友達になれたしね」
「そうだね」と雪風ちゃんは笑って答えた。
僕はあの日のことは一生忘れない、好きだった子に声をかけられ、それから関係はつづいているのだから、ただ、あえて言うならば、あの日をもう一度やり直したいとは思う。あのときは緊張のあまりどもってしまい、冴えない男、そうモブのような立ち振る舞いをしてしまったからだ……。
かっこよく決められない自分が情けない。悶絶するほどではないが、思い出すと赤面してしまっていた。
「またハッピーペンが送られてきたら、今度は絶対に自分の名前を書いてね」
「うっうん……三回とも自分の名前を書くよ!」
「それでよし!」
また送られてきたらか……。
宛名のない神器、なぜ僕の下に届いたのかもわからないけど、はっきり言えることはもうこんな奇跡は起こらないということだ。
二度も続けばそれは確信犯的だろう。神はうろたえる僕を娯楽として楽しんでいるのかもしれない。だが、もし手に入れば僕はどうするのだろう。そんな有り得ない過程を妄想したとき思わず笑いが込み上げてきた。
――きっと雪風ちゃんの名を三回書くのだろうな。
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