第4話 秘めた思い
僕には片思いの女の子がいる。
名は雪風翼。
恥ずかしくて、妄想ですら翼ではなく雪風ちゃんと呼んでいた。
話したことは無く、後ろの席から見守るだけのモブであったが、それだけで不思議と幸せな気分になれた。
しかし、今はペンのおかげで理性が外れかけている。
妄想はとめどなく飛躍する。
雪風ちゃんはカワイイ!
きっとやさしい子なんだ!
きっと僕を受け入れてくれるぅ!
イイ関係になったらどうしよう!
お話して、手を握り、それから、それから……。
危険なラインを超えている実感はあったが、この気持ちをあえて抑えはしなかった。
当然だ。僕には秘密兵器があるからだ。
マイ! ハッピーペン!!! 僕はこの神器で雪風ちゃんと幸せになるのだ!
しかし、今日の雪風ちゃんは沈んでいた。
その理由がいやおうなしに僕をの心をかき乱す。
思いを寄せている男に手作りクッキーを渡そうとして拒絶されたのだと聞いた。
拒絶されたクッキーはクラスの男子に配られ、その一つが僕の手の中に有った。
味わう様に口に含むが、気分は最悪である。
相手の男を妬み、落ち込む雪風ちゃんを見ては辛くなった。
なぜ拒絶するのか理解に苦しんだ。
その日を境に雪風ちゃんの笑顔は消えた。
悪い噂もささやかれ僕はそれが悲しかった。
何とかしたいという気持ちが僕をざわつかせる。当然だ。僕にはその手段があるからだ。
だが、のこるインクは一人分しかない、それは自分の名前を書くはずだったものである。
ペンを取り出しドクロのキャップを見つめた。
ため息をつきながらうなだれ天井を見上げる。
――雪風ちゃん。
会話すらしたことのない子。
目すら合わせたことも無い、そう、雪風ちゃんの眼中に僕はいないのだ。
僕は馬鹿なことを考えている。馬鹿だ、馬鹿だ、大馬鹿者だ。
分かっている。
だが、放置すればきっと後悔すると僕は思った。
僕は決心し、最後のインクで雪風翼の名を書いた。
『禍々しく蠢くインクは、名という形を与えられると赤色に輝き、黒く濁り、すうっと消えて見えなくなった』
僕はそれを見届けペンをポケットに入れた。
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