9-10

――とある学者の手記



 ●7月9日 晴天、酷暑


 ゴルグさんが帰ってきた。

 例の兵士崩れの男たちと三日三晩話し合っていた彼の手首には、包帯が巻かれていた。


 彼は、唐突にサハルに贈り物がしたいと言った。

 11月29日、私が彼女に名前を贈ったその日を、私たちはサハルの誕生日にしていた。


 私は驚いたが、ひとまず暗い話でないことを歓迎した。

 ゴルグさんが言うには、例の連中とは少し話しただけで、村を出る気もサハルを置いていく気もないという。私はその言葉にホッとした。


 それから、贈り物を何にするかという議論を始めた。(もちろんサハルを寝かしつけた後に!)


 なかなか決まらなかったが、実に楽しいひと時だった。


 贈り物は決まった。本来は母親が作って贈るもののようだが、彼女には母親がいないので、ゴルグさん自身が作ることになった。


 だが、ゴルグさんは最後まで悩んでいた。

 自分が作ることではなく、それが彼女を縛るものになるのではないかという危惧からだった。御母上が言っていたことを気にしているようだった。


 私はあえて、何も言わなかった。結果は贈ってみないと分からない。

 けれど、彼女がゴルグさんとおそろいを願ったのも事実なのだ。


 彼がいつも首に巻いている、こちらではパトゥという外套を細長く切って巻いた襟巻。

 砂埃や日差しから守り、戦闘時の包帯にもなる、狙撃で隠れる際のカモフラージュにもなる、彼のトレードマークだった。


 帽子も被らぬ彼をここの村人は西洋かぶれと嘲るが、けれど、サハルが憧れたのはそんな彼なのだ。

 ならば、彼女の願いを叶えてやるべきだろう。


 さてどうなるだろうか。

 相手は年頃の少女だ。華やかなものがいいだろう。だが彼女には色が分からない。かといって、彼女でも分かる白や黒ではあまりに味気ない。実用一辺倒でも面白みがない。


 良い糸が必要だ。布も、針も。

 針仕事など初めてだとゴルグさんはぼやいた。私は笑った。こんなゴルグさん、数年前の私は想像しただろうか。


 あのゴルグさんが、血の繋がらぬ娘のために針仕事とは! 前まで誕生日など、気にも留めなかったのに。


 私は早速道具と材料の仕入れに、知り合いを尋ね始めた。


 不穏な客人のことなど忘れてしまうぐらい、楽しい日だった。




 ***




 意外と頑丈だな。


 だいぶ細くなった男を見て、『ヌアザ』はそう思った。

 イギリスの工作員と聞いていたが、彼の国はなかなかいい教育をしているらしい。


 合衆国安全保障局USSAの暗部戦闘組織かつ『双頭の雄鹿』実働部隊の長として、尋問・拷問の類は、敵からも味方からもそれなりに経験している。


 人間というのは、精神的にも肉体的にも“終わりが見えない”のと、“落差”に弱い。

 ゆえにこの手法は短時間で対象を追い詰めるという点で優れている。


 古代中国で行われたという陵遅刑は、対象の肉を少しずつそぎ落とす。


 男の右足はすでに、片側と比べて半分しか残っていなかった。

 それを男が絶望に濁った眼差しで見下ろしている。それでも唇は噛み締めたまま、血を滴らせても開くことはない。


「駄目です。いったん治療を挟まないと、これ以上は……」


 担当の部下が、革剥ぎ包丁を片手に振り返る。ヌアザは右手を振って言葉を遮ると、応急処置の指示を出した。


「殺すな。これ以上の面倒はごめんこうむる。国との交渉だって相当粘られたからな」


 そう言って、ヌアザは尋問室を出た。

 こちらが落ちぬのであれば、先にこちらを落とすまで。


 エレベーターで地下三階から地下一階へ出る。


 プライベートスキー場に山二つを備えた、敷地380エーカーからなるこの邸宅は、『双頭の雄鹿』所属メンバーの一人が所有するものだ。


 なお超高級物件として登録されており、見取り図があるのは地下一階まで。

 通常の住宅としての設備はもちろん、バーにボーリング場、バスケットコート、スパ、屋内プール、何でもある。


 無論、整った通信設備に銃火器と戦闘車両の格納庫も。そして個人の私有地ゆえに、警察の目も届きにくい。


 ゆえにヌアザはキーウィノー半島の銅山跡坑道に前線基地を、ここを司令部としていた。


 パタゴニアクォーツァイトの廊下を抜け、三つあるゲストルームの内、一番広い部屋へ向かう。


「いい加減、説明しなさいよ! あんたたち何者!? ここはどこなのよ!?」


 女の金切り声が聞こえる。

 パメラ・バンデラスだったか。捕獲直後から一番反抗的だった遺族だ。


 両脇を固める護衛を制し、重厚なオーク材の扉を無遠慮に押し開ける。


「問い詰めても無意味だぞ。お前たちの問いには答えぬよう命じてある」


 女、パメラは突如現れたこちらに驚いたものの、すぐにギッと睨みつけてきた。


「誰よ、あんた」


「答える必要性を感じない」


 鼻白む女をよそに、他の面子を見渡す。


 もう一人の遺族、マルグレーテ・セーデンは娘二人を抱えたまま、こちらの武器や装備を確認していた。

 冷静で賢い女だ。だが娘という弱みがある時点で脅威にもならない。


「例の男二人と女はどうした」


「日系人と黒人の女は監禁中、ヴァレーリ一家一味の男は尋問中です」


「吐いたか?」


「ボスから突然解雇されたと……」


「そんなはずはない。ヴァレーリ一家は一番に標的と接触した五大だ。必ず意図がある。残り二人の尋問も始めろ。時間が惜しい」


「ちょっと待ちなさいよ! 何なのあんたたち、いきなり追っかけてきて捕まえて、挙句に尋問だなんて……! 何様のつもりよ、まさか拷問なんてしてないでしょうね!?」


 なお噛みついてくる女に眉をひそめつつ、ヌアザは部下に合図してプロジェクタ―を起動させた。

 無視された女はさらに激高した。


「あんた――」


「答える必要性がないと言っただろう。俺からはな。代わりにこのお方から、お前たちへ直々に話がある。それが答えだ」


 起動から数秒で通信は繋がった。


 スクリーンに映し出された姿を見るなり、遺族たちは息をのんだ。

 一般人の彼女たちでも、テレビ新聞等で多少目にしたことはあるだろう。


『ベルナルド・バンデラス曹長と、トゥーレヴァルド・セーデン一等軍曹のご遺族の方々ですね。USSA長官の、アーサー・フォレスターと申します』


 遺族らが唖然とする中、長官は言葉を続けた。


『混乱しておられるようですね。無理もない。単刀直入に申し上げましょう。以前からあなた方はテロリストに狙われていました。我が国が指定する最重要排除対象のテロリストです。それがここ数日、急に動きが活発になった。ゆえに我々が極秘裏に動くこととなりました。多少の強引は許していただきたい。あなた方をテロリストから保護するためだ』


「保護ですって? だったらなんで三人を尋問してるの。一人はマフィアの一員だけど、もう二人は無関係よ」


『ですが彼らは特区出身者です。嘆かわしいことに、あの区域の人間は犯罪組織との繋がりが深い。あなた方の身の安全のためにも、確認が必要と判断しました。むろん彼らの無実が証明され次第、解放します』


「へえ、身の安全を保障しようって連中が、民間人相手にドカドカ撃ってくるわけ? ていうか、あんたの言ってるテロリストってハウンドって女の子のこと? だったらお生憎様。あの子はテロリストじゃないわ。それにあの子は私の夫の遺品を返してくれたわ」


『ああ、なるほど。あなた方をわけですね。申し訳ない。我々がもっとしっかりしていれば、奴の毒牙にあなた方が餌食になることはなかった』


 真摯な口調で目を伏せる長官に、女の目が僅かに揺れた。


 当然だろうとヌアザは思った。


 アーサー・フォレスターは演技をしない。

 今だって本気で申し訳ないと思っているから謝罪している。捕縛にも拷問にも本心から心を痛めている。


 一般的な感情を有したまま、正義のため全てを踏みにじることができる。そういう男なのだ。


 そのうえで彼は、。ゆえに彼が発する言葉は、常に強烈な説得力をもっていた。


「私が騙されてるって言いたいの?」


『ええ。あなた方はご存じないでしょう。彼のテロリストが、我がUSSAの局員を一家もろとも殺害したことを』


 女は言葉を失った。もう一人の女がゆっくり口を開いた。


「……マルグレーテ・セーデンと申します。長官、その件に関しての証拠は?」


『四年前のクリスマスの事件だった。地元の報道でも取り上げられている。調べてもらえれば分かるはずだ。残念なことに、あの日から彼女はのです』


 女は娘から離れ、部下から受け取った端末を操作して調べた。上げた顔は雪よりも白く、声は震えていた。


「そのハウンドという少女が、テロリストだというの……? だったらなぜ私たちに遺品を返してきたの」


『あなた方をおびき寄せるためでしょう。あのテロリストは獲物とみなした相手を絶対に逃がさない』


 女は愕然とした様子だった。ヌアザは長官の口の上手さに舌を巻いていた。


 あの、単なるでしかなかった無能を、死後になっても役立てるとは。


 もともと規定違反報告のある局員で、情報漏洩リスクを鑑みて解雇寸前だった。

 犠牲となった妻と子も、局員の日頃の振る舞いが招いたに過ぎない。


 ヌアザが女に目を戻す。

 女はその場にへたり込んでいた。もう説得は不要だろう。


 けれどもう一人の女、パメラ・バンデラスは認めなかった。認めたくないようだった。


「だったらなぜ時計を修理したの……!? 置手紙だって――」


『そうすればあなた方が心を開くと知っていたからでしょう。その証拠に、迎えに来たのがあなた方の夫と同じ軍人だったはずです。ニコラス・ウェッブ、彼もまた奴の被害者だ。奴に魅了され、今や奴だけのために動く操り人形になっている。彼も早く保護しないと――』


 フォレスターはなおも遺族たちの説得を続けたが、ヌアザは不要だろうと思った。

 遺族たちの目は完全にフォレスターを信じ切っていた。


 一方でヌアザはそっと溜息をついた。


――だから早く処分しろと言ったのに。長官もお人が悪い。


 ヌアザはアーサー・フォレスターに敬服しきっていたが、一つだけ不満があった。


 彼には、自分を手こずらせた相手の遺品や遺体の一部を、戦利品として収集する悪癖があった。


 例の五人の兵士の遺品もそうだった。

 今回ばかりは遺されるとまずいと思い、五人の所持品はすべて処分した。


 だが彼らが少女『ブラックドッグ』に送った品は、他の隊員が隠し保管していたがために、発覚が遅れたのだ。

 その報告を真っ先に受けたのが、運の悪いことに長官本人だった。


――あの無能と合わせて撒き餌に使えたからよかったが……下手をすれば身を滅ぼす証拠品になりかねんというのに。


 きっと今回のも欲しがるだろう。


 ブラックドッグ。元タリバン兵と米兵双方に育てられた女。

 まだ20にも満たぬ少女でありながら、ここまで我らを翻弄し続けた。まるで我らを嘲笑うかのように、USSAが与えた呼称コードネームを使い続けた。


 これほどの難敵は『双頭の雄鹿』設立以降、一度たりとも存在しなかった。


 敬愛する人物の数少ない我儘ゆえに叶えたいのは山々だが、なにぶん本人に危険が及ぶ。

 ヌアザはどうやったらブラックドッグを毛一本残さず完全に抹消できるか考えた。


『――以上が現時点で我々が把握している全貌です。ご理解いただけましたか?』


 返答もない。反論もなかった。

 それに満足げに頷き、『ところで』と長官はさらに続けた。


『私からも一点だけ質問させていただきますが、ミセス・バンデラス、ミセス・セーデン、”手書きの絵本”をご存じないですか?』


「絵本?」


 自失呆然としていた女たちの顔に、怪訝の色が混ざった。


「いいえ、知らないわ」


「絵本なら娘たちのがいくつかあるけれど」


 長官が目線を上げたのを見て、ヌアザは首を振った。


 彼女たちは、ラルフ・コールマンが記したという絵本を所持していなかった。


『そうですか。となると、奴が所持しているのでしょうね。ご安心ください。“ブラックドッグやつがあの絵本を所持していることが罪の証となる”のです。あなた方が持っていなくてよかった』


 遺族らが困惑した様子で顔を見合わせる一方、ヌアザは鼻面にしわを寄せた。喋り過ぎだ。


 こちらの不満を察知したのか、長官が咳払いをした。


『私から聞きたいことは以上です。お付き合いいただきありがとうございます。それと、あなた方にはご負担をかけてしまうのですが……よろしければ我々に協力してはもらえませんか』


 亡くなった、あなた方の夫のためにも。


 それは魔法の言葉だった。

 ヌアザは遺族たちの目に別の色の炎が灯すのを、無感動に見ていた。




 ***




「で? 結局止めたワケ。俺ちゃんの復讐計画、全部おじゃんにして?」


 胡坐をかいて腕を組むセルゲイの前で、ニコラスとハウンド(人前ではサハルではなくハウンドと呼ぶことにした)は神妙な面持ちで座りこんでいた。


 計画をぶち壊され、リスト暴露を止められたセルゲイは大分おかんむりだった。


「お前の計画については知らんが、なんかすまん」


「……ごめんなさい」


「お前らほんっと馬鹿。マジでガチの馬鹿。ばーかばーか」


 あーあと床に両手をつき、のけぞって天井を仰ぐセルゲイに、ハウンドが尋ねた。


「私を殺さないのか。私の死と同時に、お前にもリストが送信されるようにしといたけど……」


「俺ちゃんがソロでお前を殺せると思う? そこの番犬排除してさ」


「いや全く」


「そーいうことだよ、クソが。あーあー、これからどうすっかなー……」


 頬杖をつくセルゲイは、口元を手で覆ってチラ、とこちらを見た。


「なあ、やっぱお前の首のソレ、手術で取ってネットに流そうぜ。お前も復讐できて俺ちゃんもリスト入手できる。ウィン・ウィンじゃん」


「駄目だ」


「なんでよ」


「……アメリカが滅茶苦茶になるだろ。リストの暴露は限られた、影響力のある人間だけに絞るべきだ」


「いーじゃん滅茶苦茶になって。何が悪いのよ」


「例の五人の遺族が巻き込まれる事態は避けたいんだ。だろ?」


 ニコラスが代わりに答えると、ハウンドは小さく頷いた。


「そもそもリストが本物である証拠がどこにもない。USSAが根こそぎ抹消しちゃったから。私は唯一の生き証人だが、それが本当だと証明するものが一つもないんだ。USSAからすれば、暴露されてもデマを流したテロリストだって私を殺せば、うやむやにできる。

 だから私は、反米国家の一部要人に私が自殺する様子を見せて、USSAに不審の目を向けさせ、彼らが主導する国際的な再調査を促すつもりだったんだ。焼身自殺と同じメカニズムだよ。反米国家からすれば、アメリカを攻撃する格好の口実になるわけだし。

 けど、私は……もう死ねなくなっちゃったから。誰かさんのせいで。ともかく、リストをネットに暴露しても決定打にならないんだよ」


「だったら尚更ネットで不特定多数に暴露した方がいいじゃねーか。遺族にはもうちっと我慢してもらえばいいだろ」


 セルゲイがそう言うと、ハウンドは膝に目を落とした。


「彼らの、五人の遺体は、大西洋に捨てられたんだ」


 セルゲイが真顔で身を起こした。

 ニコラスは無言で目を伏せた。やっぱりそうだったか。


「別の手を回して今も探してもらってる。けどまだ見つかってない。――遺族はずっと待ってたんだ。行方不明って嘘を信じて。それなのに遺体もなけりゃ、遺品もほとんどないんだ。これ以上、彼女たちを傷つけたくない」


 流石のセルゲイもこれには溜息をつくだけだった。


 燃え盛る薪の、ぱちりと弾けた音がよく響いて、部屋に融けていく。

 沈黙を真っ先に破ったのはニコラスだ。


「……亡命はどうだ。唯一の生き証人として、反米国家のどこかに身の安全を保障してもらうとか」


「馬鹿か、お前。こいつがリストアップした反米国家は独裁国家ばっかだぞ。独裁者が善意で身の安全を保障すると思うか。絶対にやめた方がいい」


 苦虫を噛み潰した顔で、セルゲイはぞんざいに手を振った。


「そもそも亡命したとこでUSSAは情報戦のプロだ。反米国家が企てたネガティブキャンペーンだとか、いくらでも言い訳できるぜ。USSAにとってこいつは”罪を全部擦り付ける格好の生贄スケープゴート”なんだ。この際、ハウンドこいつが生きてるってこと自体が不利だ」


「じゃあ、アメリカ国内の理解のある有識者を総動員して国を訴えるとか」


「……国は罪を認めねーよ。そういうもんだ。人権だの個人の自由だの認めても、国家の罪は国民の罪になる。だから国は絶対に過ちを認めねー。リストは合衆国の正当性を真っ向から否定するもんだからな。どれだけお偉いさんの良心が痛もうと、国民全員を罪人にするくらいなら、その五人と遺族に不幸になってもらおうってなるのがオチだぜ。連中に良心があるのかは知らんが」


 つーかさ、とセルゲイは乱雑に髪をかき乱した。


「こういうのはよ、ちょっとでも疑念を抱かれたら終わりなんだ。暴露した瞬間に『失われたリスト』が本物で、USSAが犯人だって決定づけなきゃいけねー。でなけりゃ必ずUSSAを支持する奴が現れる。そうなったら泥沼だぜ?」


 ロバーチ一家の情報戦・電子戦担当であり、元ロシア連邦保安庁FSB職員なだけあって、セルゲイの発言には一家言があった。


 ニコラスは顎に手を当て、さらなる代案を思案した。唯一、証拠品になり得そうな物に、心当たりがあった。


「絵本はどうだ? 例の、アーサー・フォレスターが犯人だと告発するものだ」


「ああ、ラルフ・コールマンが描いたっていうあれね」


 セルゲイが思い出したように指を鳴らした。


 ニコラスは頷きながら、ここまで持ってきていたナップザックを肩から下ろした。

 中にハウンドから預かった絵本を、ジップロックの中に入れてある。


「絵本に記された先住民の言葉と最後ページの謎を解けば、USSAが犯人だという証明になる。あれを証拠品として法廷に持ち込めば、何とかなるんじゃないか?」


「たしかに筆跡とか鑑定すりゃ本人が描いたっつー証明にはなるだろうが……けどそれだとコールマンとその遺族に攻撃が集中するぞ。たとえどんな事情であれ、特殊部隊員が任務内容を無断で外部に漏らすのはスパイ法違反だ。下手すりゃコールマン自身が他国に買収されたとでっち上げられかねねー」


 ニコラスとセルゲイはそろって唸った。


 ニコラスとしても遺族を何とか守りたい。だがそれゆえに選択肢がかなり狭められてしまうのも事実だ。


 やはりどうしても、遺族にもう一度傷つくことを了承してもらわねばならないのだろうか。


 その時だった。ハウンドが心底不思議そうに首を捻った。


「なあ、絵本って私がニコに渡したやつだよね。先住民の言葉って何? てかアーサー・フォレスターってUSSAの長官だよな。あいつにも関係あったの?」


「「――へ?」」

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