10-8

 一瞬にして、館前の庭は騒然となった。


「どけ!」


 呆然と立ち尽くす客や侍者を押しのけ、ワンの前に跪いたニコラスは息をのんだ。


 出血量が尋常ではない。

 しかも左腹部への被弾だ。肝臓を撃ち抜かれている。致命傷だ。


「くそっ」


 すぐさまワンのスカートを裂き、傷口に詰め込む。その上からさらに裂いた布で圧迫して止血する。


 すでに意識がないのか、ワンは顔面蒼白に虚ろな目のままピクリともしない。


「き、君っ、私がやろう。私は医者だ」


 ワン以上に顔面蒼白な老人が駆け寄ってきた。手には携帯電話が握られていた。


「病院はすでに手配した。特区の近くにある同期の大病院だ。状態は……」


「黄疸の症状はまだ出てないが、呼吸がもうほとんどない。血の色的に静脈性出血だが、この出血量だと肝動脈も――」


 着弾。火花が散り、甲高い音が尾を引く。


 砕けた花壇の煉瓦が散弾となって四散し、老人が首を竦める。それでも手は止めない。

 なかなか肝の据わった医者だ。周囲に飛ばす指示も的確で、処置も早い。


 だが狙撃は止まない。

 狙いは――。


――ツーか……!


 ニコラスはワンの処置を老人に任せ、地面にへたり込んでいるツーの元へ駆け寄った。


「いやっ、離してっ。リーリお姉さまが……」


「馬鹿野郎、死にたいのか!? 狙われてんのあんただぞ!」


 怒鳴ると「ヒッ」と短く悲鳴を上げて、ツーが縮こまる。

 侍者も荒事は経験がないのか、狼狽えて首を無意味にめぐらすばかりだ。


 仕方なく、ニコラスはツーと侍者を半ば引きずるように建物へ駆け込んだ。


 直後、騒ぎを聞きつけ部下と共に駆けつけたスリーと出くわした。


「何事ですか!?」


「狙撃だ。ワンが撃たれた。ツーも狙われてる」


 振り返ると、老人が侍者やスタッフたちと共にワンを車に乗せているところだった。

 救急車が存在しない特区では、負傷者を搬送するには自前の車を使うしかない。


 ワンへの狙撃は止んでいた。必要がないのだろう。


 スリーが矢継ぎ早に部下へ指示を飛ばす最中、ニコラスは刺客の位置の特定を急いだ。


 被弾箇所、着弾時に飛散した破片の方向と音、予想される弾の口径、周囲の景観。

 そして、事前に仕入れていたターチィ領の地図。これを脳内に広げ、これまでの情報と照合して狙撃地点を逆算する。


 そして刺客は、ツーを仕留め損なったものの、おおむね役目を果たしている。

 態勢を立て直すためにも、すでに逃げる算段をつけているはずだ。


 ならばその逃走経路は――。


「あのカジノホテルだな。屋上にある大きな看板、あそこならここを一望できるし、一番逃げやすい」


「えっ?」


「あの辺一帯を封鎖してくれ、それか関所。逃げられるぞ」


「えっ、えっ、ちょ、ウェッブ様……!?」


 戸惑うスリーを置いてニコラスは駆け出した。


 ワンは搬送され、ツーは屋内に退避した。であれば今は刺客の確保が先決だ。


 庭を突っ切り、駐車場を抜けながら、ニコラスは端末を耳に当てた。

 ターチィ領内で仕事をしながら待機中の27番地輸送班と合流し、武器を受け取るためだ。


 携行したところで、荷物チェックで銃から刃物まで根こそぎ取り上げられる。

 現在手元にあるのは、義足内に隠し持っていた自動拳銃一挺とナイフ一本だ。それでは心許ない。


 敷地内を抜け、舗道に出たその時、目の前に小型トラックが急停止した。


「ニコ!」


「ハウンド! ……って、え、なにこの状況」


 ニコラスは荷台にいるハウンドではなく、その同乗者に目を瞬いた。チコとイヤドだ。


 よくよく思い出してみれば、このトラックはイヤドのものだった。

 車内もさほど広くないため、運転席のチコは巨体が収まりきらず、みちっとなっている。


 しかしなぜ二人がハウンドと一緒にいるのか。再調査が済むまで、二人とは接触を避ける方針だったはず。


 というか。


「なんでイヤドは縛られてんだ?」


 えび反りに縛り上げられ荷台に転がされているイヤドは「やあ」といつも通りのニコニコ笑顔だ。

 いつも通り過ぎて逆に不気味である。


 そのイヤドを椅子にしたハウンドは愛用の銃剣をいじくりながらの仏頂面で、運転席のチコは苦虫を噛み潰している。


 なにこのシュールな絵面。


「オーゥ、お姉サンにお仕置きされちゃったネー」


「んもうっ! たしかにアタシも人のこと言えないけどっ、後できっちり聞かせてもらうからねイヤドちゃんっ」


「なんか色々あって一緒に行動することになった」


「えぇ……」


 どこからツッコめば、と思ってニコラスは考えるのを止めた。思えばこの手のシュールな展開は結構いつものことだった。


「で、こいつは何の騒ぎだ?」


 ニコラスは荷台に乗り込みながら、手短に状況を説明した。ハウンドはすぐさま事態を把握した。


「ワンとツーへの狙撃……なら潜伏の可能性は低いな。一般人に紛れて特区外へ逃げるのが一番リスクが低い。武器なら道中、待機組から預かってある。狙撃地点は?」


「特定した。けどもう逃げてるはずだ。予想される逃走経路はいくつかあるが……」


 ニコラスはハウンドの手元の端末上の地図を拡大して、二等区にあるカジノホテルをタップする。

 そこから指を滑らせて、北西に移動させる。


「特区35番地、ターチィで一般開放されてる三等区で、人の出入りが一番激しい。紛れるにはもってこいの場所だ。特区外に通じる関所もある」


「なるほど。チコ、35番地で一般人が多い通りはあるか?」


「三つあるわ。チェリー通りとウィルソン通りとガリー通りよ。どれから行く?」


 エンジンをかけながら叫ぶチコに、ニコラスは荷台から身を乗り出した。


「二つ目に挙げた通りに向かってくれ。あの狙撃ポイントから逃げるなら、そこに向かうはずだ」


「ウィルソン通り? なんで?」


「いちばん裏路地を通らずに済むルートだからだ」


 チャンの同僚のファンが言っていた。「表から一本裏道に入れば過激な風俗店が居並んでいる」と。


「裏路地はターチィ直轄の風俗店がひしめき合ってる。そんな道を通るなんて、刺客にとっちゃ標的の手下どもの巣窟に飛び込むようなもんだ。必ず迂回するか、最短で抜けられるルートを使う。それに刺客はツーの暗殺に失敗してる。なら痕跡を残さないことより、一刻も早くこの場から離脱することを優先するはずだ」


「確証はあるの?」


「ああ。俺ならそうする」


 数分後。


 ウィルソン通りは歩行者天国と化していた。通り前の交差点脇で停車したチコが振り返る。


「この人ごみの中からどうやって刺客を探す気?」


「ニオイさえ分かれば多少辿れるんだが……」


 ハウンドがそうぼやいた瞬間、背後からズン、と音と震動が轟く。


 見れば、先ほど逆算した狙撃地点らしきカジノホテルの屋上付近から、黒煙が上がっていた。


「ブービートラップ?」


「ああ。駆けつけたスリーの部下が引っかかったのかもしれない」


「用心深い刺客ネ」


 荷台上でイヤドが縛られた身体をクネクネさせながら呟く。


 だが先ほどの震動とこの黒煙、刺客も気付いたはずだ。

 そしてこの交差点はホテルからここまでの移動で必ず通る地点でもある。


 であれば――。


 ニコラスは立ち上がり、トラック荷台の上で思い切り息を吸いこんだ。


「おい、誰か倒れてるぞっ! 撃たれたのか!?」


 突然の大声にチコとイヤドがぎょっとする。周囲の人間もまた、顔を強張らせて足を止めた。

 銃社会のアメリカにおいて、銃撃戦はわりと身近な事件だ。なによりここは特区、人々の反応も早い。


 だが大抵の人間がまず反応するのは銃声である。銃声が聞こえたらすぐにその場に身を伏せ、銃声から遠ざかるように逃げようとする。


 しかし銃声のない現状では、人々はまず銃声がどこなのか、撃たれた人間が誰なのか探ろうとする。

 立ち止まって周囲をキョロキョロ見回すか、戸惑いながらもソロソロ建物の中に引っ込もうとするかのどちらかである。


 今この瞬間、腕利きの狙撃手に狙われているかもしれないから、急いで物陰に隠れようとする者はまずいない。


 ついさっき人ひとりを狙撃したばかりの人間でない限り。


「……いた! あそこネ!」


 イヤドが身体をくねらせて叫んだ。


 ニコラスも捉えていた。


 百メートル先の映画館前、一列に並ぶ上映告知ポスターの立て看板の物陰に、一人の男が身を隠している。

 それを見た連れらしき男も慌てて後に続いた。


 すかさずニコラスは義足からM9A1自動拳銃を取り出し、天めがけて弾倉が空になるまで引金を引き絞った。


 探していた銃声の出所をようやく見つけ、人々は劇的に反応した。

 あっという間に歩行者天国は通常の車道に様変わりする。


「チコ!」


「任せなさいっ」


 ハウンドの声にチコがアクセルを吹かす。


 一方、刺客の二人もこちらに気付き、急いで走りだした。


「掴まって、飛ばすわよぉ!」


 小型トラックが刺客を追う。

 ニコラスはAR15自動小銃で狙うが、刺客二人はジグザグに走りながら逃げており、なかなか当たらない。


 だがその走り方のお陰であっという間に距離を詰められた。


 と、思った瞬間、二人は路地に入った。


「っ、このっ」


 チコが急停止する。


 小型トラックどころか、大人一人がやっと通れそうな狭い路地だ。

 しかも変なところに段差や階段があったり、室外機が道を塞いでいたりと、かなり入り組んでいる。まるで小さな九頭竜だ。


「まずいヨ、ここ三等区で一番複雑なトコ! 逃げられるヨ!」


「分かったからピョンピョンすんな! 腰痛めても知らねえぞ!」


 ただでさえトラックの動きに合わせて腹ばいにスライドする姿がシュールなのに、陸揚げされた魚の如く跳ねられては気が散って仕方がない。

 というかあれ、腹は大丈夫なのだろうか。


 そんな状態のイヤドの真上を、黒い影が飛び越えた。ハウンドだ。


 ハウンドは路地に飛び込むと、あっという間に見えなくなった。


「チコ、路地の反対側に回ってくれ」


「けどここでやり過ごされたら……」


「あいつの鼻から逃れられる奴はいない。必ず追い立てられて出てくる」


「分かったわ」


 一分と経たずに、チコは路地の反対側に回り込んだ。が、


「っ、遅かった……!」


 角を曲がるなりチコが呻いた。


 刺客二人はすでに路地を抜け、再び別の路地に入ったところだった。またも小型トラックでは通れない道幅だ。


 だがニコラスには十分だった。

 今度の路地はほぼ一直線、遮蔽物もほとんどなく、距離約80メートル。


「路地ギリギリで停まってくれ」


「ええ!?」


「路地の入口で停まってくれ、タイミングは任せる」


 チコは戸惑いながらハンドルを切った。路地めがけて真正面から突っ込んでいく。


 ニコラスは立ち上がり、トラック前部のキャブにAR-15を据えた。

 上着を丸めて銃座の下に敷き、左手をキャブ上に置き、プレートの隙間に引っかけて衝撃に備える。


 白煙と共に、タイヤが甲高い悲鳴を上げて、停止する。


 急停止した衝撃で、トラックが前につんのめった。

 銃身が下に下がった。


 引金を絞る。


 命中。


 右足を撃ち抜かれた男が地面に倒れる。先ほど真っ先に立て看板に隠れた男だった。


 もう一人の男はやや振り返ったが、足は止めなかった。


 つんのめったトラックが反動で後ろに戻る。

 銃身が上に上がった。


 発砲。


 今度は壁に着弾した。

 逃げようとしていたもう一人の真横の壁だ。


 飛び散るコンクリート片を受けて、男が「ひいッ」と顔を腕で庇う。走る速度は一瞬遅くなったが、すぐにまた駆け出した。


 けれどそれで十分だった。


 ハウンドが追いついたのだ。

 目にも止まらぬ速さで飛びかかると、男を押し倒し、あっという間に拘束してしまった。


「やった……!?」


「やったネ! さすがスナイパー、お兄サンいい腕してるネ」


「ええ、本当に……って、イヤドちゃん、そろそろ跳ねるの止めなさいな。縄緩めてあげるから。でも逃げちゃダメよ?」


「逃げないヨ。あとなんか慣れてきたネ、ちょっと気持ちいいカモ……」


「今すぐ解くわ。それ以上はダメ。イヤドちゃんにはまだ早いわ」


「う、うん……?」


 食い気味に縄を解きにかかるチコに、イヤドは戸惑いながらも大人しく解かれるのを待った。

 どうもイケナイ扉を開きかけてしまったらしい。


 ニコラスは刺客を手早く拘束すると、急いでイヤドの縄を解きに戻った。

 相棒がうっかり施した緊縛で、知人の性癖を開拓したというのは流石に忍びない。




 ***




「スリーから連絡だ」


「ワンは?」


 ハウンドこちらにだけ見えるように、黙って目を伏せた。


 駄目だったということだ。ワンの暗殺は成功してしまったのだ。


「ただワンを撃った弾の確認は取れた。.338ラプア・マグナム弾、こいつが持ってるのと同じだ。カジノホテル上のブービートラップ現場後から指紋も採取されたそうだ」


「なら後は確認するだけだな。じゃあこいつは置いておくとして――」


 ニコラスは先ほど足を撃ち抜いた男から、もう一人に目を向けた。


 ひたすら無表情に押し黙っている男と違い、怯えた目でキョロキョロ周囲を見回している。


「こいつは?」


「こっちは情報班の方で特定できた。情報屋だ。しかも被害者のアニメが盗まれた当日、被害者の自宅周辺をうろついていたらしい。目撃情報が残っていた」


「なら二人ともターチィに引き渡しだな。事情はこちらでも聞くとして――」


 背後を振り返る。


「なんでこの二人と一緒にいるんだ。できれば自分から説明してくれると嬉しんだが」


「言われなくてもそうするつもりよ。黙っていて悪かったわ」


「ごめんネー」


 真剣な面持ちのチコに対し、イヤドは解かれた手首を撫でながらのんびり笑った。気が抜ける返答である。


 ハウンドが苦虫を噛み潰した顔でイヤドを指差した。


「こいつ、カラス女の情報屋の一人だったんだよ」


「……はあ!?」


 ニコラスが目を剥いて振り返ると、イヤドはてへっと拳を頭にあて小首を傾げた。そんなあざとい仕草どこで覚えてきたのか。


 って、そうじゃない。


「じゃあお前、“銘あり”の顔を――」


「銘あり?」


 イヤドがきょとんとする。それが演技かどうか勘繰るより早く、ハウンドが答えてくれた。


「いや、こいつは“銘あり”の顔を見てない。『双頭の雄鹿』も、こちらの事情は何も知らない。ただカラス女の部下の指示通りに仕事しただけだ。うちの情報班とロバーチからの提供で裏も取れてる」


 ニコラスは再び目を向けた。咎めるような目になったのは不可抗力だ。


「なんで黙ってた」


「だってお兄サンもお姉サン、何も聞かなかったネ。聞かれなかったら答えないヨ。情報屋は沈黙が命ネ。そっちの事情はよく知らないけど、ワタシ早死にしたくない」


「ってな感じで、ナンバー持ち妓女と接触したことも黙ってたそうだ。だから拘束させてもらった」


「オー、お姉サンそれひどいネー。ワタシ雇い主のこと何も知らない。それ情報屋のルール」


「けど仕事したことあるぐらい話してくれたっていいじゃない」


 思わずといったふうにチコが割り込むが、イヤドはちっちっと指を振った。


「分かってないネ。仕事以外のことに首突っ込まない、基本中の基本ヨ。そもそもあの仕事、ワタシ以外にもたくさん情報屋いたヨ。ワタシ別に特別じゃない。情報屋の仕事だって小遣い稼ぎヨ、副業ネ。いきなり押し倒して縛り上げるなんて乱暴ネー。それにワタシがやった仕事と、今回の依頼、なにも関係ないヨ」


 悪びれる様子もなく語るイヤドに、「だから縛り上げる程度で済ませたんだろうが」とハウンドが腕を組んだ。


「……ひとまず、イヤドが情報屋だったことは置いておくとして。チコ、あんたも何か話すことがあるんじゃないのか?」


 ニコラスが視線を向けるとチコは「ええ」と項垂れた。


「そうね。アタシはただ、あの娘を、アネモネフォーを守りたかった。その結果、あなたたちに遠回りさせてしまった」


「ああ、やっぱりそうなのか」


「え?」


 チコが顔を上げる。ニコラスは肩を竦めた。


「あんたがフォーの関係者なのは大体予想がついてたよ。というか、被害者のチャンとフォー、昔から知り合いだったんだろ。もっと言えば、フォーがあんたの昔の店で働いてたポールダンサーで、チャンはその頃からの馴染客だったんじゃないか?」


「なんでそれを……」


 やはり当たりか。


 呆然とするチコに、ニコラスはこれまでの情報から推理した内容を説明した。あくまで憶測でしかないが。


「違和感なら最初からあった。俺が着せ替えでうんざりするくらいには、あんたの店は品ぞろえがよかったからな。それにあんた、一等区に出入りすることもあるって言ってたよな? 一等区にも出入りするような美容師が、貧民街の三等区に店構えるかよ。なにかしらの事情があると考えるのが自然だ」


 考えられるパターンは二つある、とニコラスは指をたてた。


「一つはチコ自身に問題があるパターン。昔ターチィなにか揉めたことがあり、距離をとった可能性。もう一つは、妓女がチコを気に入っているパターンだ。位の高い妓女がバックについてんなら、一等区への出入りも店の品ぞろえも説明がつく。――バックについてたのはフォーだろ? チャンがフォーの元に通っていたことも知っていて、俺たちに黙っていた。それがあんたのついた嘘だ」


 そう言い放つと、チコは観念したように目を伏せた。


「ええ、そうよ。それで、どうしてあの娘が私の従業員だったって分かったの?」


「消去法からのカマかけだ。遺体の発見現場はあんたの店だった。見せしめに殺した遺体を、わざわざ無関係の店に侵入して置いていくとは思えない。あんたの反応からすると事実だったみたいだな」


「……ポールダンサーの件は? まさかひと目見ただけで分かったのかしら」


「いや。ハウンドがツーに抱き着かれて倒れかかった時、フォーが支えたんだ。それで分かった」


「支えた? それだけで……?」


「フォーはあの時ピンヒール履いてたんだよ。あと、ハウンドは見た目のわりに結構重い」


「え」


「え」


 視界の端でハウンドが硬直するが、ニコラスは気付かなかった。


「小柄で細っこいからよく勘違いされるが、ハウンドは見た目のわりに筋肉量がかなり多いんだ。俺も持ち上げるまで気づかなかった。体重からして体脂肪率も15パーセント切ってと思う。相当鍛えてんだよ、こいつ」


 ニコラスはハウンドを寝かしつけるために寝室へよく運ぶが、だいたい62キロぐらいはある。

 そんなのが倒れかかれば、普通の女性なら巻き込まれて一緒に倒れてしまうだろう。小柄な成人男性並みの体重があるのだから。


「ともかく見た目はこんなだが、女性でも難なく受け止められるほど軽くはないんだ。しかもツーが抱き着いた状態を受けとめたから、実質男女二人分を受けとめたようなもんだ」


 しかし、フォーはよろめきもせず難なく受け止めていた。それも、ピンヒールを履いた状態でだ。


「あのバランス感覚と体幹は並大抵のもんじゃない。スポーツかなにかか……けどチャンの同僚の話を聞いて確信した」


――『どの子も綺麗だから一度行ってみると言いよって言われて、一緒にストリップショー見にいったこともありますね』――


「夜遊び経験があまりない会社の同僚を、しかも女性を行ったこともない新しい店に連れていくのは不自然だ。馴染の店に連れていくのが自然な流れだろう。親しくなったダンサーがいるならもっといい。そして同僚が最も印象に残っていたのはポールダンサーだった」


 ストリップショーに初めていった人間なら、まずストリップのダンサーの裸体が目に焼き付く。


 ニコラスの母が働いていた店に来る客もそうだった。

 店に出てくるなりどのダンサーがよかったかを興奮した様子で語り合うのだ。


 女性だから視点が違った可能性も無きにしも非ずだが……。


「けど同僚の印象に残っていたのはストリップではなくポールダンスの方だった。恐らくだが、チャンが同僚に熱心に解説したんじゃないか? 一緒にいった知人の解説で、解像度が一気に上がって好きになるのは映画でも美術館でもよくあることだ。そして同僚の感想は綺麗だった、だ。チャンが妓女と会うたびに口にしていた感想と同じだ」


 土産の件もそうだ、とニコラスはチコの店に置かれていたブランデーを思い出しながら語る。


「チャンはときどき土産を持って帰ってきてたって言ってたろ? 客から貰った物の消費に困って押し付けられたって。黒服かスタッフ相手ならまだしも、客にあんな真似はまずしない。普通に失礼だからな。ってことはフォーにとって、チャンはそこまで非礼を働いても大丈夫な気心の知れた相手だったってことだ」


 『今日も綺麗だった』と喜びながら、フォーの元へ通っていたチャン。

 チャンの死後もなお顧客情報を出し惜しんだフォー。


 なによりフォーはツーの上客だった映画監督を奪っている。国内のクリエイター事情を憂いている監督をだ。

 そしてチャンの死後、彼が心血を注いだアニメデータが盗まれた。


「恐らくフォーはずっと昔から馴染だったチャンをそれとなく特別扱いしてたんだろう。ターチィにバレない程度に注文内容を誤魔化して。そしてチャンに昔のようにポールダンスを披露してたんだと思う。だからあの感想になった。そのうえ彼のためにパイプ役を担い、ツーから客を奪った。だがここでターチィ一家が気付いた」


 一家からしてみれば、借金まみれの売れないアニメーターにフォーがお熱なのは困っただろう。

 なにせ彼女は一家で四番目のナンバー持ち妓女なのだから。


 フォーを説得しようとしたが聞き入れず、業を煮やしてチャンを高利貸しの仕業に見せかけて殺害した――。


「だがフォーも一家の動きに気付いた。チャンが殺害されたことを知り、せめて遺品である彼のアニメだけでも守ろうとした。だから彼の自宅からデータを盗み出した。……憶測に憶測を重ねた妄想に近い産物だが、これ以上はフォーに直接聞くしかないだろう。少なくとも、チャンは高利貸しに殺されたわけじゃない」


 「あとはそこの二人と今回の件の繋がりだが」と、視線をやると、二人はそろって目を逸らした。


 この様子から察するに、無関係ではないのだろう。ハウンドに頼んで彼女の嗅覚で尋問するか。


 そう思った矢先、ぬっと影がかかった。チコだった。


「ええ、だいたい当たってるわ。ターチィ一家が絡んでるかどうかは分からないけど、フォーとチャンのことも、私たちの過去も、すべて大当たり。でもね――」


 そこまで言って、チコは片足をぐっと下げると。


「ふんッ」


「いっ――!?」


 瓦わりの要領で、こちらの脳天に拳骨を落とした。あまりの威力と衝撃にニコラスは悶絶した。


「いきなり何すんだ!」


「おだまり! 推理だかなんだか知らないけど、乙女心もわきまえないデリカシー無し男はこうしてやるんだからっ」


「はい?」


「ハウンドちゃんのことよっ。本人の目の前で体重の話をするなんて……しかも重いだなんてっ。あんたどういう神経してんのよ?」


「えっ。いや、あれは褒め言葉だぞ? 昔、女教官から体重の件で女を褒める時はこうしろって……」


「相手は18のぴちぴち乙女よ!? バルクアップで体重増えてすごいねって褒められて喜ぶ女がどこにいんのよっ、海兵隊マリーンの突っ張ってる生意気女ビッチじゃないのよ!? ほら見なさいよ、あの顔!」


 ニコラスはハウンドの顔を見てヒュッと息を飲みこんだ。


 笑ってはいる。だが明らかに口元が引きつっていて、視線は左右に泳ぎまくっている。しかも目元にはうっすら涙が溜まっていた。


「いや、チコいいんだ。ニコが言葉足らずなのはいつものことだから……」


 見るからにしょんぼりしていた。そのうえ、こっちを必死にフォローしてくれようとしている。


 これなら怒られた方が遥かにマシだった。完全にやらかした。


「す、すまん。俺はただ――」


「いや、いいんだニコ。確かに身長159で体重60越えはちょっと重いかなって思ってたし……」


「ハウンドちゃん、甘やかしちゃダメよっ。こういう朴念仁はときどきガツンと言ってやらないとっ」


「いや、でも……」


「ちょっとお兄サンー? お姉サン泣いちゃったヨォー?」


 とうとうハウンドは俯いてしまい、イヤドが煽り散らかしてくる。その後方にいる刺客二名まで「あーあ」という顔を向けてきた。


 だが自分に非があるのでまったく言い返せない。


 ニコラスは慌ててハウンドの元へ駆け寄った。


「すまん。ほんとごめん。その、重いっていうのは悪口じゃなくて。俺ここに来たばっかの時ガリガリだったし、必死に筋肉戻さないとってなってて。ハウンドはすごくバランスの取れたいい筋肉の付き方してたから、目標にしてたっていうか。俺も頑張らないとって本気で思ってて、その」


 自分でもなにを言っているのか分からなくなってきた。

 そしてハウンドは顔を上げてくれない。どうしよう。


 途方に暮れていたその時、ハウンドがガバッと顔を上げ、


「ふん!」


 こちらを抱き上げた。お姫様抱っこで。


 ニコラスは思考の一切が停止した。


「チコ、タイム計って!」


「え……!?」


「タイム! 今からあそこの電柱までしばらく走って往復するから! 何分間走れるか計っといて!」


「わ、分かったわ」


「――はっ……!? ちょ、待てハウンドなに考えてんだ下ろしてくれえ!」


「うおおおおおおおおおお!!」


「うわあああああああああ!?」


 ハウンドの雄たけびとニコラスの悲鳴が空虚に響き渡った。


 数分後。


「お兄サーン、大丈夫デスカー?」


 イヤドに背中をツンツンされるが、ニコラスは体育座りのまま無視を決め込んだ。


 ちょっとしばらく話しかけないでほしい。


 まさか2分近くも、公衆の面前でお姫様抱っこされるとは。男のプライドがズタズタである。


 一方、ハウンドはというと大の字で地面にぶっ倒れていた。


「……ぜぇ、ゲホッ、2分は、越えられなかったか。くそっ……ウェッ」


「1分57秒だからセーフよ、計り始めるのも遅れたし。それに彼、どう見ても70近くありそうだし……」


「78キロだ。義足外すと66.5キロ」


「ですって。どっちにせよ、80キロ近く担いで2分も走れたら充分よ。普通に早めのジョギング並みのスピードだったし」


 そんなに早かったのか。果たして自分もそれだけ走れるだろうか。


 いずれにせよ、男としての沽券は砕け散った。いや、元を正せば自分が悪いのだけれど。


 そんな時、俯せになったハウンドが唐突に語り始めた。


「2分で、時速6キロ前後……1分で100メートルだから、ゲホッ、200メートルぐらい。平地でそれだから山岳地帯だとだいぶ短くなるけど……砲弾の危害半径が50メートル以内だから、致命傷は避けられる……」


「ハウンド?」


「六年前、みんなが追われた時」


 ぽつりとハウンドが言葉を漏らす。

 チコとイヤドが怪訝そうな顔をしたが、ニコラスは一瞬で顔を引き締めた。


「少尉がまず撃たれちゃって。戦線から離脱するのに、私が任されて。みんなが殿つとめてくれて……あの時に限って夜戦装備が支給されなくて。みんな夜目きかないから、急いで戻らなきゃいけないのに、少尉重くって、全然引きずれなくて」


 それはそうだろう。


 ニコラスたちだって、負傷した戦友を引きずるのは二人がかりだった。大人の男二人で、だ。

 12の少女の筋力では、担ぐどころか引きずるのも無理だったろう。


 ハウンドは地面に俯せたまま、引っ掻くように両の指を地面に立てた。


「せっかくみんなが命懸けで逃がしてくれたのに、ただ非力なせいで運べないのが悔しくて。頑張って、頑張って、鍛えて、ようやくここまでこれて。これならもしニコになにかあっても運んでいけるし、大抵の味方は運べる」


「ハウンド……」


「だから――」


 ハウンドが勢いよく顔を上げた。


「だからそのっ、太ったとかそういうことでは断じてなくっ。この筋肉を維持するためにもそれなりの量を食べなきゃいけなくて、だから食事制限とかはなにとぞ勘弁を……!」


 そっちか。


 がっくり肩を落とす。

 どうやら体重を指摘されたショックではなく、太ったと勘違いされて食事を減らされることを恐れていたらしい。


 ハウンドらしいというか、なんというか。


 ニコラスは溜息を飲み込み、ハウンドの前に跪くと両脇に手を差し入れて起こしてやった。


「知ってる。お前は強い」


「うん」


「あの時とは違うんだろ?」


「うん」


「なら大丈夫だ。俺も、お前の足引っ張らないよう頑張るよ」


「……うん。私も、もっと頑張る」


 ああ、と頷きつつ。


「でも今度から運ぶときは一言いってからにしようか? あとお姫様抱っこは両手が塞がって危ないから別のにしよう? ファイヤーマンズキャリーとか、な?」


「あ、ああ、うん。そうだね」


 両肩を掴んで念押しすると、ハウンドは気圧されたようにひとまず納得してくれた。のだが。


「……待てよ、その運び方ならもう少し走れるぞ。試すか!」


「あーうん、また今度の機会な――待て待て待て。落ち着け。笑顔で両手を広げるんじゃない、こっちににじり寄ってくんなっ」


「遠慮するな。もう少しいけるぞ!」


「うんうん、そうだな。でも今は別のことがあるからな。そっちに集中しようか。なっ、なっ?」


 必死になだめすかし、なんとか話をすり替えて。


「で、あんたらからも話を聞きたいんだが」


 ニコラスたちは刺客と情報屋を見下ろした。


 二人は黙って俯いている。


 しかし覚悟を決めた顔で押し黙っている刺客と違い、情報屋の方は逃げること諦めていないらしい。

 さっきから逃げ道がないか、縄がほどけないかと、キョロキョロ見回しては上半身をもぞもぞ揺すっている。


 ハウンドも、聞き出すならまずこっちからと定めたのだろう。情報屋の真横に腰を下ろした。

 ニコラスも彼から始めることにした。


「あんた、被害者の自宅になにしに行ってたんだ? 何を見た?」


「なにも。そんなことより縄ぐらい緩めて――」


「嘘だな。嘘をついた人間特有の汗のニオイがするぞ」


 ハウンドがそういうと、情報屋は口をつぐんだ。


 彼女の嗅覚は、体臭から動きだけでなく、感情をも読み取る。

 その精度はなかなかのもので、ヴァレーリ一家やロバーチ一家は尋問する際にハウンドを呼び寄せるほどだ。拷問しなくて済むので手間が省けるのだという。


 そして仮に彼女が間違ったとしても、嘘かどうか正確に嗅ぎ分けてくるというプレッシャーを、尋問対象に与えることができる。


 ニコラスはイヤドを振り返った。


「こいつの顔に見覚えは?」


「あるネ。一緒に仕事したことないけど、お兄サンたちのいうカラス女に呼びつけられた時、館ですれ違ったことあるネ」


 ということは、こいつも“銘あり”が雇った情報屋の一人か。


「その時の雇い主の顔を見たことはあるか?」


「ない」


「はい、これも嘘。さっきより汗のニオイが強くなってる」


 すかさず情報屋はハウンドをじろっと睨んだが、その手元の銃剣を見るなりすぐ怯え顔に戻った。


 やがて観念したのだろう。意を決したように下を向いたまま、口を開いた。


「……妓女ナンバー・フォー『アネモネ』が、被害者の自宅から何かを盗み出すのを見ていた。『隠さないと』と言っていた」


 やはりアニメを盗んだのはフォーだったか。


 ハウンドが黙って頷き、真偽を保証した。本当のことを言っているということだ。


 ニコラスも黙って頷き返し、次の質問に答えるよう促した。


「『メリーナ』と名乗る女に心当たりは? 今回のチャン殺害事件と何か関連があるのか?」


「その殺害事件とやらは知らねえが……おおむねさっきあんたが語った通りだよ」


「どういうことだ」


 情報屋の顔が歪んだ。人が他者を貶める時に浮かべる歪な笑みだった。


「ターチィ一家の制裁にブチ切れたフォーが反旗を翻したのさ。俺を雇った女、『メリーナ』の正体はフォーさ。


「――は?」


 ニコラスだけでなく、ハウンドも硬直していた。


 それはつまり、フォーが“銘あり”――?


 チコが「ちょっと待って」と割って入った。


「あの娘はターチィに拾われたのよ? 義理堅い娘だし、なにより部下思いだわ。彼らの生活は、ターチィ一家所属だからこそ成り立っている。なにかの間違いよ」


「いいや、嘘じゃない。俺はこの目で『メリーナ』を見た。あれはフォーだった。ワンとツーの暗殺を依頼したのもフォーだ。あいつの部下は見栄えが悪いからな。変装したってすぐに気付くぜ」


 情報屋の言い分に、ニコラスはハウンドを見た。

 ハウンドは顔をしかめて難しそうな顔をしていた。


「嘘と本当のニオイが入り混じってるな……。おい、そこのお前。お前の雇い主は誰だ?」


 これまでずっと押し黙っていた刺客に、ハウンドが尋ねた。


 刺客はしっかりと目線を上げ、ゆっくり答えた。


「ターチィ一家所属妓女、ナンバー・フォー『アネモネ』だ」


「……嘘はついてないな」


「そんな……! それじゃあアネモネは」


 言葉を失ったチコの発言の先を、ニコラスは容易に予想できた。


 このままではフォーは、ターチィ一家の裏切者として処刑されることになる。彼女から真相もなにも聞けないまま。


「話はまだ終わってないぞ。こっちの情報が本当なら、カラス女の件は嘘ってことだ。――『メリーナ』の正体は誰だ? 本当のことを言え」


 情報屋は黙りこくった。

 脂汗を流しながらも、こちらをねめつけてくる。その眼光からは憎悪すら感じる。臆病者と、見誤ったか。


 ハウンドが両手に銃剣を握って立ち上がった。


「ターチィが来るまでに聞き出すぞ。まずは足の指から――」


 そう言いかけた瞬間、車のアクセル音が響いた。猛スピードでこちらに近づいてくる。


 ニコラスとハウンドは情報屋と刺客を守るように立ち塞がった。今ここで、口封じされるわけにはいかない。


 現れたのは、フォーの侍者ヨンハだった。


「皆さん! 刺客を生け捕りにしたと聞――」


 焦った様子で駆け寄ってきたヨンハは二人を見るなり一転、全身を硬直させた。


 そのうえ、ヨンハが凝視したのは刺客の方ではなく、情報屋だった。


「なぜあなたがここに……? まさか」


 発砲音が響いた。


 ぎょっとして振り返ると、情報屋と刺客が、頭から血を流して崩れ落ちているところだった。


「なっ……!」


 ニコラスは駆け寄ったがすぐに蘇生を諦めた。もう死んでいる。


 そして、撃った相手は――。


「スリー……!?」


「生け捕りにしてくださったのは感謝いたします。ですが、こちらに黙って尋問しようとしたことはいただけませんね」


 藍色のスーツを翻し、ナンバー・スリー『ロンダン』が拳銃を構えて歩み寄ってくる。その背後には、大勢の部下が連なっていた。


「何をしているんですか!? せっかくの証言が、」


 ヨンハが口を開いた瞬間、背後から突き飛ばされ、地面に叩きつけられた。いつぞや出会った二等区の男娼たちだ。


 猿轡を噛ませて拘束しようとする男娼たちに、ハウンドが割って入ろうとする。


 が、現れた人物を目にして動きを止めた。


 ナンバー・ツー『チュリップ』だ。


「リーリお姉さまを殺した男たちを生かしておくなんて。ヘルちゃん、覚悟はできてるんだよねぇ?」


 挟み撃ち。ニコラスたちは完全に囲まれていた。


「ご同行願えますか?」


 スリーの口から放たれたそれは、命令だった。


 ニコラスたちは、黙って従うほかなかった。

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