童話 ニエの毒姫の物語

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 この世のありとあらゆる不浄を溜め込んだその場所をニエと呼ぶ。

 毒姫と呼ばれる女性は、長い間一人でそのニエに住んでいた。


 その者の体は、存在は全て毒でできている。

 彼女の手は、足は、触れたものを腐らせる。

 彼女の息吹は、そこにある空気を汚染する。

 彼女が見た世界は暗闇に塗りつぶされ穢れてしまう。


 人の住む世界イントディールから追放された彼女がいられるのは穢れの園、ニエだけだった。


 しかし、毒姫は一人きりの孤独に耐えられなかった。

 生き物と触れ合う事が出来たらと、彼女は機械人形を作りだした。

 しかし、生み出されたものは瞬時に穢れ、腐り落ちてしまう。


 それでも毒姫は長い年月をかけて人形を作り続けた。

 とうとう完成した人形にクロアディールと名付け、孤独な心を癒した。


 しかし、長い年月をかけて動いた人形は、次第に壊れてしまう。

 毒姫は新しい人形を作る事はせず、クロアディールを直そうとしたが上手くはいかなかった。


 完全に止まってしまったクロアディールを前に、毒姫は悲嘆にくれた。


 毒姫は仕方なく、自分以外の生命が住む世界、かつて自分がいた場所へと人形を移動させる事にした。


 毒姫がイントディールに戻る事ができない以上、再びクロアディールに会う事はできない。


 ただ一人、自分の孤独を癒してくれたクロアディール。

 たとえ二度と会う事ができなくても、傷を癒して無事でいる事を願った毒姫は、

 クロアディールをその世界へと送ることを決断した。






 ――あなたに会えてよかった つかの間のひと時だけどとても幸せでした


 ――一人(ひとり)じゃない事はこんなに嬉しくて 私は時間を忘れられた


 ――創り出した貴方 私の手から 生み出された愛しい娘


 ――たとえそれが かりそめの命だとしても


「愛しています」

「幸せでした」


 ――貴方に会えてよかった けれどこれからも一緒にはいられない


 ――たくさんの人に囲まれて幸せに生きるべきだと

 ――母親でもある私が 毒姫である孤独な私へ言うのだから


「さようなら、だけど愛しています」

「さようなら、だけど幸せになってね」


 ――貴方がどこにいても ずっとずっと想ってるから


 ――そっとつないだ手を……


 ――私は 離した



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童話 ニエの毒姫の物語 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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