第30話 出馬
政府与党・自主党の実質ナンバー2である
「何をきょろきょろ見てるんだね」
「あ、その、意外と飾らない部屋だと思いまして」
「ああ、みんな売り払ってしまってね。ごちゃごちゃした部屋は好かん
質実剛健のやり手だと聞いていたが、本当らしい。
「まあ、かけたまえ。君のうわさは聞いてるよ。受刑者の無人島送り、脱獄犯の捕獲、竹ノ島の奪還、支那の野望阻止。メディアにも取り上げられてる。『スーパー女性官僚・黒川麻衣香、別名鉄の女』ってね。ここまでくると国士無双の大活躍だと言わざるを得んな」
「恐縮です」
「そこで、ここからが本題なんだが、君のような
「国政なんて若輩者の私には早すぎるかと」
「年なんて関係ないさ。かのジョン・F・ケネディは29歳の若さで連邦議員になった。君ももうすぐそのくらいの年だろう」
「まだ2年先です」
「2年なんてあっという間さ。実は野党・憲民党が神奈川3区からある大物タレントを出馬させるらしいんだ。ここを取られると一気に形勢が野党側に傾く。そこで、対抗馬としてわが党からは君を出馬させたいと考えている。どうだろう、出てみる気はないかね」
「ずいぶん急なお話ですね。少し考えさせてください」
「いいだろう。もし当選した暁には総理の側近の一人に加えるという条件も付けさせてもらうから、そのことも考慮してくれたまえ。そうなれば今よりもやりたいことがはるかに多くできるようになる。君の意見が総理に聞き入れられれば、国をも動かすことになりうるんだよ」
「それはあまりに分不相応ですので、条件から外してください」
「私の一存じゃない。総理のたっての希望だ」
「まじ、あ、すいません、本当ですか」
「もちろんだ。まあ、正直な話、若くてきれいな女性が近くにいることで、総理の仕事に対するモチベーションが上がるという下心もあると思うがね。それはともかく、黒川君、君は将来的にはケネディのように若くして国を
「そんなの買い被りです。私、裏から手を回したりして
「清濁併せ呑む、それが政治家ってもんでしょう。川合法相にそう言ったらしいじゃないか。あれは口先だけのことかい」
麻衣香は自らの発言に首を絞められ、しばし沈黙した。
「わかりました。私も今のままで終わるつもりはありません。ちょうどいい機会だと思って出馬させて頂きます」
強気な麻衣香はここで引き下がっては負けだと思い、半ばやけ気味に返答した。
「ただし、当選した折には私の後輩である南彩花を秘書につけてください」
「南彩花?ああ、プライベートで君のパートナーの。もちろんいいよ。君のことだから、公私混同はせんだろうからね」
「え、なぜ南のことをご存じなんですか?」
「立候補をお願いする人物のことを調べるのも幹事長の仕事でね。もし重大な汚点があれば見送らねばならない。勝算のない選挙はやらないということだ」
麻衣香は興奮と、半ば後悔の気持ちを引きずって苦利の執務室を後にした。
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