第28話 鉄槌

 麻衣香は赤田国土交通大臣に呼ばれ、その執務室を訪れると、すぐに室内に招じ入れられた。相向かいに席に座るなり、赤田が切りだす。

「早速だが、例の支那人による土地の買いあさりの件だ。ただ土地を貸すだけで農産物の売上金をまるまる手にすることができると知った彼らが、新たな土地を求める動きをしているらしい。安い物件の問い合わせが不動産屋に殺到しているそうだ。このままじゃ資金力にものを言わせる支那の富裕層に大量に買われちまうぞ。対抗策は考えてあるのかね?」

黒川麻衣香としたことが、そこまで頭が回らなかった己のうかつさに忸怩じくじたる思いを禁じえず唇をかんだ。

「うぅー、支那のアカどもめ、強欲にもほどがあるっての。あたしを怒らせたらどんな目にあうか思い知らせてやる。覚悟しときなさい!」

大臣の前であることも忘れ、思わず感情的になった。

「大臣、支那人に買われる前に、国がすべて買い取って国有地にしてください」

「いったい幾らかかるか知らんが、そんな金あるわけないだろう」

「なければ財務大臣に頭を下げて借りればいいでしょう。支那の野望から日本を守りたくないんですか?大臣はただのお飾りですか?」

怒りにまかせて言ってはならないことを口走ってしまった。

「言わせておけば、この小娘が。いいだろう、おれも男だ。頭を地べたにこすりつけて、土下座でも何でもして金を調達してやろうじゃないか。だが、黒川君よ、借りた金を返すあてはあるんだろうな」

「はい、こうなったら東京だけでなく、日本全国の受刑者を総動員して、国有地にした土地で無農薬野菜を作らせます。その売上金を毎月国庫に納めれば、時間はかかりますが、必ず返済できます」

そう言って麻衣香はポケットからスマートフォンを取り出し、「支那 農産物 品目別輸出額」の3つ単語を検索アプリに入力した。

「支那から世界各国への輸出品で多いのは、たまねぎ、とうもろこし、にんにく、にんじん及びきゃべつの5品目です。現存する囚人農場とこれから作る農場においては、これら5種の野菜を集中的に栽培します。」

「なぜその5種類なんだ?意図がよくわからんが」

「日本全国の受刑者全員が広大な土地で育てるそれらの野菜の量は、支那の農家の総生産量にも劣らない規模になるでしょう。それを支那が輸出している国々に日本からも輸出するんです。しかも、売値は支那の野菜の3分の2程度の安さに設定します。我々は人件費を払う必要がないのですから、いくらでも安くできます。今や世界的ブランドのメイド・イン・ジャパン。その無農薬野菜が安く買える。誰もがこぞって買うでしょう。支那の野菜は売れ残って腐るばかりです。」

「なるほど。習遠平の苦り切った顔が目に浮かぶな」

「支那は農業大国でもありますから少なからずダメージがあるでしょう。また、支那の友好国でまだ農産物を輸出していない国々にも唾をつけておき、輸出を開始する動きがあれば、即調べ上げて競合させます。いかがでしょうか」

「鉄の女、鉄槌を振るう、か。よかろう。支那のやり方には少なからず腹に据えるものがある。思う存分やりたまえ」

「はい、少しは痛い目にあわせないと、やりたい放題やられますから。目には目を、という意地をわれわれ日本人も持っていることを教えてあげます」

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