第22話 鉄の女出陣

 「あなたたち、竹ノ島に観光にでも行ったの?手土産の一つも持たずに帰ってくるなんて、どいつもこいつも図体がデカいだけの能無しぞろいね」

黒川麻衣香は持ち前の毒舌で、戻ってきた受刑者たちをののしった。

「あんたこそ、李が裏切る可能性を考えていたくせに何の手も打たなかったんだから、落ち度はあったんじゃねえか」

鉄心が反論する。

「手は打ってあるわ。ただ、あなたたちに事前に知らせると、敵に漏らしてしまうをやりかねないから黙っていただけ。いい、一筋縄でいかない相手には二枚腰を使うものよ。ひとつの作戦がダメならもう一つの作戦で攻める。そのもう一つのほうを準備するためには少々時間が必要だから、あなたたちには時間稼ぎをしてもらったわけ。いわゆる捨て石よ」

「おれたちは死ぬ覚悟で向かって行ったってのに、捨て石とは何だ。バカにするのもいい加減にしろ、このアマが」

「言葉に気をつけなさい。場合によっては横っつらをひっぱたく程度では済まないわよ。あなたたちは重罪人なの。命の一つくらい既になくなってると思いなさい」

「立場を利用して言いたい放題だな。まあいい、その二枚腰とやらをお聞かせ願おうじゃねえか」

「武力行使よ。本来なら禁じ手だけど、そうはならないようにする」

「そんなことしたら小韓と戦争になるんじゃねえのか?」

「ならないわ。なぜなら、武力行使するのはアメリカだからよ」

「なんでアメリカが出てくるんだ?」

「まあ、見てなさい。小韓の猿どもを一匹残らず島から駆除してやるから。そして、二度と侵入させないようにしてやるわ」


 初秋の風に星条旗をたなびかせている大型軍艦が、竹ノ島のわずか数メートルのところに停泊している。その船首に近い甲板上には、迷彩服に身を包んだ黒川麻衣香と、スーツ姿の初老のアメリカ人が立っている。上空にはこれもアメリカ国旗を機体にデザインした2機の戦闘機がゆっくり旋回している。小韓人たちの注目が十分集まるのを確認すると、麻衣香は手にもった拡声器を口元に寄せ声を発した。

李信成りのぶなり、これから島にいる小韓民国の皆さんにとって極めて重要なお知らせをしますから、ハングル語に訳して伝えなさい」

麻衣香は声を張り、できるだけ丁重に伝える。

「そんなデカい軍艦や戦闘機をもってきてコケ脅しのつもりか。さっさと帰れ!」

李が大声で応じる。

「コケ脅ではありません。本日より竹ノ島は米国の領土となりました。財政難に苦しむ日本政府がこの島を米国に売り払ったのです。したがって、現在、あなた方は米国政府の許可なしに米国領に居座っていることになります。速やかに退去しなければ武力行使も辞さないと、ここにおられる駐日アメリカ大使はおっしゃっています。大使、一言お願いします」

麻衣香は李を通して小韓人によどみなく告げると、大使に拡声器を渡した。

「小韓民国の皆さん、本日よりここは我々米国の領土となりました。ここを去るか銃で撃たれるか選択してください」

大使は日本語が話せる。

「今から10数えるからその間に銃を海に捨てて、島にいる全員桟橋に集まりなさい。この軍艦で小韓民国までお送りします。さもなくば攻撃を開始します」

麻衣香がカウントダウンを始めても誰一人動こうとしない。小韓民国もアメリカと同盟関係にある。どうせ撃ってこないと高をくくっているのだろう。麻衣香が「ゼロ」と言った瞬間に、軍艦及び戦闘機からおびただしい数の弾丸が島に向けて発射された。銃弾は小韓人たちを直接狙ったものではなく、頭上をかすめていったが、それで十分だった。小韓人たちは銃を捨て、衛兵も囚人も看守も、先を競うようにして桟橋に集まってきた。軍艦が桟橋に近づく。が、速度を緩める気配はない。このままだと軍艦に押しつぶされると思った小韓人たちは海に飛び込んだ。軍艦は桟橋を破壊し、そこでやっと停止した。

「小韓の皆さんは泳いで帰りたいみたいね」

麻衣香はひとりごちた。そして、右腕を頭上に高々と振り上げたかと思うと、泳いでいる小韓人たちのほうへと振り下ろす。その周辺に戦闘機が再び銃撃を始めた。ただし、誰にも当たらないようにだ。それでも彼らは必死に泳ぐ。泳いでどんどん島から遠ざかる。ついに泳ぎ疲れて沈みそうになるところで、戦闘機から浮き輪が数個落下した。

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