第20話 裏切り
「李は私と話してる間、一度も私の目を見なかったわ。念のため、そのことを頭に入れておいて。それとは関係ないけど、あなたの
「なんだよ、そのせいさい何とかっつうのは?」
「生かすも殺すもわたし次第ってこと。さんざんこき使ってからあなたの生死を決めることにするから。わかったらさっさと行きなさい」
鉄心は我に返ってヒロトに話しかけた。
「黒川が、李のことを100%信用すべきじゃないようなことを言っていた。ヒロさんはどう思う?」
「よくわからねえ。ただ、あいつ、国籍上は日本人だが、体に流れてるのは小韓人の血だ。小韓に亡命させて自由の身にしてやるとでも言われれば、寝返っても不思議じゃねえかもな」
「そうだな。それに、
鉄心を含む囚人6人と海保の乗組員3人は、下着1枚になりシュノーケルセットを装着後、海に潜った。鉄心だけ水面に顔を出していると、果せるかな、李を先頭に自動小銃を携えた小韓の衛兵たちが、桟橋を渡り漁船に向かって歩いてきた。鉄心は素早く水面下に顔を沈める。水中に潜ると、
(危なかった。あと少し海中に逃げるのが遅れていたらやられていた)
鉄心は内心胸をなでおろした。が、問題はここからである。このまま船の近くにいるのは危険だ。そう考えた鉄心は、潜っている皆に向かい島の西側を
船側にかかっていた
「だめだ。キーがないと動かせん。ここで暗くなるのを待って夜襲をかけるか?」
「そうだな。それをするにしても敵は武器を持ってる。あんたら、銃はどうした?」
鉄心は町村に問うた。
「置いてきた、どのみち水にぬれれば使い物にならなくなるからな」
「船内に武器がないかどうか探そうぜ」
鉄心はあたりを見渡した。左手の壁面に自動小銃が3丁架けてあるのが目にとまった。手を伸ばそうとすると町村が間に入って
「だめだ、おまえたちに武器を持たせることはできん。われら海保の3人が持つ」
「あんたら島に上陸してくれるのか?」
「やむをえん。こうなったら行くしかあるまい」
「夜襲をかけるのはいいが、こっちはどこに何があるかわからねえし、どこに誰がいるかもわからねえ。かえって不利じゃないか?」
「・・・・・・」
町村は沈黙した。
「どうだろう、この船をおとりに使ってみるってのは?」
「おとり?どういう意味だ」
「錨を上げて漂流させちまうのさ。小韓のやつらこの船がないと困るだろう。例の漁船で追いかけてくるんじゃねえかな。そんで、奴らがこの船に乗り移ったら銃で脅して縛り上げる。きっとエンジンを作動させるキーを持ってるだろうから船を島に向かわせる。どうだ、町村さんよ」
「よし、やってみるか」
鉄心たちは錨を引き上げ、船を沖合へと漂わせた。
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