第19話 上陸作戦

 鉄心は竹ノ島に向かう漁船の中で、特注で作ったという小韓民国の囚人服に着替えながら、法務省の黒川に指示された竹ノ島上陸作戦を頭の中で反芻はんすうしていた。


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 「島に到着したら、衛兵が近寄って来るはずだから、李信成りのぶなりだけ船から降りて彼らと話をして。小韓漁船が日本の海上保安庁の船に攻撃されているから、助けに行ってほしいと言うの。頃合いを見計らって海保の栗橋船長の船から空砲を何発か打つことになってる。日本側は大きな船だから、囚人を除いた全員で行かないと対応できないと言って。」

黒川は李に向かって指示した。

「あいつら船は持ってるのか?」

鉄心が尋ねた。

「一隻、島の西側に停泊させてる」

「もし助けに行かない場合はどうする?」

「あなたならどうする?白兵戦でも挑む?」

「やってもいいぜ、マシンガンでも貸してもらえりゃな」

「そのマシンガンで海保の操縦士でも人質に取ってまた逃げるわけ?」

「それもいいな。小韓にでも亡命するかな」

黒川は鉄心を手招きして自分の前に立たせたかと思うと、平手でしたたか鉄心の横顔を張った。ピシッという乾いた音が室内に響く。黒川の警護のため拳銃をもって近くに立っていた警官も目を丸くした。

「く、黒川君、暴力はいかんよ、暴力は」

「課長は黙っててください。この男、反省という言葉を知らないみたいですから。西村鉄心、あなた一人いなくても作戦は実行できるのよ。畳一枚分の広さの独房に一生閉じ込めてあげましょうか。誰とも会わせず、食事は白がゆしか食べさせない。1、2年もすれば発狂するでしょう。独房に入りたければいつでも入れてあげるから言いなさい」

「ふん、小韓野郎なんか全員やるぜ。奴らを追い出しゃいいんだろ。海に放り込んでサメの餌にでもしてやるよ」

「口だけは達者ね。敵が撃ってきたら盾になるくらいの勇気はあるんでしょうね。とにかく、小韓民人は誰よりも日本人を憎んでる。だから同胞が日本人に攻撃されてるとなれば必ず助けに行くわ。それでももし行かないときは、拿捕した漁船に大量の武器があるからと言って、薄暗い船倉に誘い込んで」

「相手は銃を持ってんだ、こっちは丸腰だぜ、そんな危ねえことできるかよ」

ヒロトが口をはさんだ。

「危険を承知で脱獄をはかった人間の言葉とは思えないわね。とにかく船倉に誘い込んでしまえばこっちのものよ。やつらが船倉に入ったら、各自に一個ずつ配る催涙弾を放り込んで。そうしたら、あなたたちはガスマスクを装着して船倉に入る。敵は目がよく見えなくなるから、発砲したら味方を撃ってしまう危険性がある。まず発砲しないはずよ。そこで銃を奪って。そのために図体のデカい力自慢をメンバーに加えたのよ」

「銃を奪ったらどうする」

「両手だけ縛って海に放り込んで。それなら島に上がっていけないでしょう。どこかに流されて行方不明者扱いになるわ」

「上陸後は何をする?」

今度は李が尋ねる。

「敵の囚人とあなたたちが入れ替わるの。小韓の司法省の偽造印を押したハングル語の書類を作ったからあなたに預けるわ」

「俺たちの顔を見て日本人だと疑うだろ」

「今から髭をたくわえておきなさい」

「それでも信じないときは?」

「衛兵から奪った銃を突き付けて全員海に蹴落としてかまわないわ」

「少々乱暴すぎないかね、黒川君」

「我が国の領土を侵す者には当然の報いですよ、課長」

「やはり鉄の女だな、黒川君は」

「何とでも言ってください。竹ノ島は必ず取り返します。ここにいる囚人たちはそのための手駒です。働きのいい者ほど刑を軽くします。」

「もし衛兵が漁船の船倉に入らなかったら?」

鉄心が問う。

「やむをえないわ。その場合は、いったん作戦を中止して栗橋船長の船に戻って」


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