第18話 拿捕

 海上保安庁の船の窓から外を眺めると、小韓民国の国旗を掲げた漁船が3そう鉄心の目に入った。

「やつら日本の領海線すれすれのところまで来て魚をあさっておる。ここはいい漁場だから毎日のように現れる。小韓といい支那といい、アジやサバ、サンマなどの日本人がたくさん食してきた魚ばかりを狙って乱獲しとる。あいつらのせいでそういう魚がめっきり少なくなった」

船長の栗橋は、再び手錠をかけられた鉄心に向かって愚痴とも怒りともとれる話を聞かせた。

「ちょうどいい機会だ、思い知らせてやろう」

栗橋は無線機を手に取り、相手はわからないが、何事か指示している。

 鉄心が再び窓から船外に目を移すと、一艘の小韓漁船に海上保安庁の船舶が近づきつつある。その大型の船舶は、小韓漁船の真横にならぶと徐々に幅寄せし、漁船を日本の海域内に無理やり侵入させるよう圧力をかけていった。先ほど栗橋が無線で指示していたのはこのことだったのだろう。海保の船との接触を避けようとした小韓の漁船は、ついに領海線をまたいだ。衝突すれば沈むのは、海保の船の半分の大きさもない小韓漁船のほうだ、と判断せざるをえない状況に追い込まれた結果だ。

 「領海侵犯だ。そこの小韓民国の船、ただちに止まりなさい」

 栗橋が李信成りのぶなりに通訳するよう命じると、李はマイクに向かって船長の言葉をハングル語に訳した。漁船はそれを無視して速度を上げて前進する。海保の船はさらなる速度で漁船を追い越し、取り舵を切ってその船首の前に立ちふさがった。勢い余った漁船が海保の船に衝突する。進路をふさがれた小韓民船はやっとそこで停止した。しばらくして鉄心らを乗せた船舶も漁船に追いつき、その船尾に密着して後戻りできないよう退路をふさぐ。前後から海保の船に挟まれた小韓民船は、もはや動きが取れなくなった。

 2隻の海保船の乗組員たちは、小韓民船にすばやく渡り板を架けると、銃を手に次々と乗り移る。そしてわずか10分ほどで小韓民人たちを捕縛ほばくし、船首側の海保船に押し込めた。鮮やかなお手並みである。普段からよほど鍛錬に怠りがないと見える。この人たちが島に上陸して奴らを追い出してくれればいいのに。鉄心はそう思いながら、実際そうしてもらえるようなうまい口実はないものかと考えを巡らせたが、何も浮かばなかった。

「こいつらどうしますか?」

小韓民人たちを収容した船の船長らしき人物が栗橋に聞いた。

「必要なのは漁船だけだ。そいつらの扱いについては、ここから50キロほど北上して、適当な場所に捨てておけばいい。運がよければ祖国に泳ぎ着くだろうし、悪ければサメの餌にでもなるだろう。せめて体を縛った縄はほどいてから海に放り込め」

栗橋は、鉄心らにステーキをふるまったとき見せた柔和な笑顔がうそのように、冷酷な口調で指示した。

「さあ、受刑者諸君、オペレーションに必要な用具を受け取って漁船に乗り移るんだ。海保からは操縦士と君らを見張る者2名を同乗させる。私どもはここに留まる。竹ノ島へは漁船単独で行ってくれ」

今度は鉄心たちに命じる。

「海保の精鋭部隊とかつけてくれないんですか?」

鉄心が栗橋に問う。

「前にも話した通り、我々が参加すると事がおおやけのものとなる。同乗する3名も諸君を竹ノ島まで送り届けるだけだ。申し訳ないが、到着後は君たち囚人だけで何とかしてくれ」

「小韓のやつら武器は持ってますか?」

「衛兵だけが自動小銃を持っておる」

「撃ってこない保証は?」

「そのための小韓船だ。李信成以外の者がしゃべらねば日本人だとは思わんだろう」

「ところで、船長はもしかして小韓のやつらを憎んでます?」

「少なからずな。7年前に今我々がやってる逆の形でやられた。つまり、奴らは日本の漁船を拿捕だほして、その船で島にこぎつけ居座るようになったのだ。そのせいで、当時領海警備の責任者だった兄が降格処分を受けた。降格だけならまだしも、小韓のやつらにだまされた愚か者とのそしりも受けた。プライドの高い人だから、それに耐えられず定年前に退官した。今回の拿捕はその報復の意味もある。」

栗橋は険しい表情で言った。




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