第16話 竹ノ島

 黒川麻衣香は、今回の西村鉄心及び長峰博人の脱獄阻止により、警視総監賞を受賞した。それと同時に、省内でも2階級特進を果たして係長の地位を与えられた。また、受刑者無人島送りプロジェクトの推進に不可欠な人材として、警察庁長官付き特別アドバイザーも兼任するよう依頼され、名実ともにプロジェクトの中心人物となった。

 

 法務省内では立案室の職員を集めて、A会議室で麻衣香が昇進したことを祝うささやかな祝賀会が催されている。

「さすが鉄の女・黒川麻衣香。あざやかな捕り物だったようだね」

小山田課長が大げさに褒めたたえる。

「鉄の女は余計です。これでも淑女のつもりですから」

麻衣香は心にもないことを言った。

「おっと、これは失敬。ところであの二人の処分は決まったのかね」

「はい、二人には竹ノ島に行ってもらうことになりました」

「竹ノ島って、あの小韓民国が領有権を主張してる島かね?」

「ほかにありますか?」

「裁判の結果かね?」

「いいえ、司法取引です。本来なら東京拘置所の地下にある独房で、生涯孤独の中、息絶えてもらうはずでしたが、一度だけチャンスを与えることにしたんです」

「チャンスというと?」

「竹ノ島の小韓民国囚人の排除です。ご存知の通り、あの生意気な小韓民国は、我が国の猿まねをして竹ノ島に囚人7名をおいて実効支配を着実に進めています。そこで、西村と長峰に屈強な極悪犯罪人4名とハングル語が話せる囚人1名をつけて派遣することにしました。成功した暁には刑期を短縮するという条件つきで。」

「それはまずいでしょう。もろ外交問題に発展する。外務大臣や総理まで話は通してあるのかね」

「もちろんです。総理の承諾も得ています。現在、長引く景気の低迷で内閣支持率は20%を切る寸前にあります。総理は竹ノ島を取り返して支持率を上げたい考えだと聞き及びましたので、警察庁長官を通して総理に提言申し上げた次第です」

「まさかとは思うが、もし小韓民国との間で戦争にでもなったらどう責任を取るつもりだね」

「現在、外交ルートを通じてアメリカと交渉を進めてもらっています。アメリカ政府は、かねてから竹ノ島が日本の領土だとの認識を示しており、万一紛争に発展しそうになった折には、間に入って戦争を回避してくれるものと確信しています。また、そのための根回しも着々と進んでいます」

「いやあ、君もえらいことをしてくれたもんだね。これは法務省はおろか日本国全体の問題になるんだよ。わかってるんだろうね」

「ええ、わかりすぎるほど。でも楽しくてしかたありませんよ。あの悪知恵のはたらく西村鉄心が、小憎らしい小韓民人どもをどう島から追い出すか見ものですから。もし仮に失敗して西村が殺されるような場合でも、事故として処理するよう関係者全員の同意を得ていますし」

「それで、策はあるんだろうね、小韓民人どもを島から追い出す策は」

「ええ、おおよそのところは固まりました。あとは外務省と、警察庁、それと海上保安庁との打ち合わせをして最終案を総理に提案し、了承を得て実行に移すだけです」

麻衣香はにっこり微笑み、小山田は深いため息をついた。

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