第7話 後輩

 島から戻った麻衣香は、パウダールームで黒縁めがねを外すと、化粧をほどこし、髪を下ろしてスーツに着替えてから職務室に戻った。書類の整理を終え帰り支度を済ませると、同じ課の後輩である南彩花みなみさやかに目配せする。彩花は無言でうなづいた。

 南は入省2年目の職員で、新人のころから麻衣香が手取り足取り仕事を教え込んだ期待の若手である。一見おとなしいが、言うべきことは言う芯のとおったところも、麻衣香が目をかけている理由の一つだ。口さがない男たちは、かげで『黒川2号』などと呼んでいるようだが、本人は意に介す様子もない。15、6歳と言われても信じてしまうような童顔だが、肝はすわっている。

 

 いつものフレンチレストランでコーヒーを飲んで待っていると、10分ほどで彩花が現れた。たいした会話もせず、そそくさと食事を済ませると、タクシーを呼んで同乗し、麻衣香のマンションへ向かった。

 部屋に入ると二人は、しばし見つめ合い、それからおもむろに唇を合わせた。脱衣し、脱ぎ捨てた服もそのままに、そろって浴室に入る。素手にボディソープをつけ、お互いがお互いの体の隅々まで洗いながら、ときおり舌を絡ませ合う。たっぷり30分ほどかけて洗い終えると、一緒に湯船につかり、ひとしきりじゃれ合った。

 入浴後、バスローブをまとい、ダブルベッドに入ってビールで乾杯する。ビールひと缶くらい麻衣香にとっては清涼飲料水のようなものだが、彩花はすでにほんのりと頬を染めている。童顔が少し色っぽくなった。やさしくバスローブを脱がせると、その色白の大きな胸の谷間に顔をうずめた。麻衣香にとって仕事を忘れられる至福の瞬間だ。

 

 最初こそ、こういう関係を拒んだ彩花だったが、麻衣香の絶妙な指使いと舌使いに昇天させられてからは、彩花のほうが積極的に求めるようになった。やがて彩花は、自分だけ快楽を与えられるのが物足りなくなり、麻衣香の指使いや舌使いをまねて、快楽を与え合うことを覚えた。いつの間にか麻衣香のツボが耳であることも知り、しきりに舌を這わせ息を吹きかける。そのたび痺れるような感覚が全身を走り抜け、鳥肌が立った。

 麻衣香は男と関係を持ったことはない。デートすらしたことのない生粋のレズビアンだ。男はがさつで汚い。利己的で浮気性で、精神年齢が低い。それが麻衣香の男性観だった。そういう男どもが持ちえない、かわいらしい顔立ちと大きな胸を持った彩花に惹かれたのは自然なことと言えた。


「私が視察に行ってる間なにかあった?」

「これといって特別なことはないです」

「そう」

「ただ、課長に頼まれてお茶をもって行ったんですけど、湯呑を渡すとき手を触られました」

「手と手が偶然触れたとかじゃなくて?」

「はい、両手で私の右手を包み込むように」

「あのくそジジイ。で、やられっぱなしだったの?」

「はい。でも私びっくりして湯呑を倒しちゃったんですよ。そしたらお茶がこぼれて課長のズボンにかかっちゃいまして、熱がって股間をおさえてました。ふふ」

「わざとやったわね」

「てへっ」

彩花はペロッと舌を出した。

「ところで、西村鉄心、どうでしたか」

「ばっちり贅肉ぜいにくがついてたわ。あの島だけ食糧を多めに送るよう頼んでおいたの。しかもカロリーの高いものばかり選んでね。」

 機嫌がよかったこの日、麻衣香は彩花を三度も絶頂に導いた。

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