第5話 マスコミ
「黒川君、ちょっといいかな」
小山田課長が苦々しい顔をして訊く。
「A会議室ですかぁ?」
「たのむよ」
「了解でーす」
いかにも面倒くさいという口調で返事をした。。相変わらず感情を口に出してしまう悪い癖が直らない。が、直そうともしない。
「これ、先週発売の『週刊文秋』。もう読んだ?」
課長の問いに否と答え、受け取った雑誌を開く。ページの上半分に島の囚人たちの写真が掲載されている。上からのアングルだから、ヘリからでも撮ったのだろう。目のあたりは横長の太線で塗りつぶされているが、知っている人間が見れば、写っている囚人が誰だかわかるであろう写真だ。
「受刑者の親族だという人たちが大勢都庁に抗議の電話をかけてきて、対応に追われた職員たちが仕事にならないって、また知事に叱られたよ。少しおさまってきた人権団体もまた騒ぎ出したって。なんで撮影を禁止する法案を作らなかったんだって怒鳴られちゃってさ。どうする?」
「いいんじゃないんですかぁ。受刑者たちはそれくらいの社会的制裁を受けるに値することをしたんですから」
「でもねえ。親類や縁者たちまでも後ろ指さされる状況はちょっとマズいでしょう」
「それも含めての刑罰ですよ。親戚縁者にも累が及ぶとなれば、犯罪抑止力になって犯罪の発生率が下がると思いますが」
「そうかもしれないけど、雑誌の次はテレビ局が来るでしょう、きっと」
「大いに結構。どんどんやればいいんですよ」
「黒川君って、もしかしてドSの人?犯罪者いじめを楽しんでるみたいだ」
「モラハラ発言ですね」
「いや、そういうつもりじゃ・・・」
「私はただ犯罪を減らしたいだけです。昔は世界一治安のよかったこの国が、今や犯罪大国アメリカ並みに落ちぶれてるんですよ。そのアメリカも思い切った銃規制をして犯罪発生率を減らしてるんです。日本もこのままでいいはずないでしょう」
「君の考えも理解できるがねえ、このままメディアに好き勝手やられて抗議活動がふくらめば、デモや暴動に発展しかねないだろう」
「犯罪者のためにそこまでやる暇人がいるとは思えませんがね。まあご心配であれば、罰金制にでもして画像や映像だけでも禁止すればいいでしょう。どこまで効果があるか知りませんけどね」
麻衣香は
その罰金刑が国会で審議されている間にも、何者かがモーターボートで島に近づき、ドローンを飛ばして島内を撮影した動画をネットに上げて、広告費を稼ごうとする動きが相次いだ。自宅のテレビでそのニュースを見た麻衣香は満足げにほほ笑んだ。他人の人生を不幸に追いやった犯罪者どもに人権などない。麻衣香の犯罪者に対する憎しみは、他人のそれをはるかに凌駕している。妹のことを思うたびそれは、増幅する一方だった。
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