1-7 転生者現る①
聞けば今、この国を騒がしている一団がいるらしい。
事の始まりは、この国の中の魔術結社が大規模な召喚術を行ったらしい。なんでも異世界の強力な戦士を呼び出す術式を成功させたとか。
召喚されたのは16、7才の子供だったが、強力な魔力を有していたため、味方に引き入れようとしたところ、どこかに行ってしまったとのこと。
情報によれば、その強力な戦闘力で街の悪党を成敗したり、山奥に住む飛竜を討伐したり、まあ基本的には人間の味方のようだが、強力な戦闘力を持っているので、国で行動を把握しておきたいと願い出ると、こちらに敵意を向けてきたという。
追手を出しても捕まえられないし、具体的な危害があるわけではなかったらしいが、最近、町の代官を襲い、奪った税金を住人に分け与えているという。
義賊のつもりだろうが、行政にとっては迷惑な存在だ。目的は何なのだろうか……。
つづけてアウグストが言いにくそうに話を続けた。
「陛下、もう一つ、その一団なのですが……」
ズドォオオン
その時、外で轟音がした。建物が崩れるような音だ。すぐに肌に伝わった魔力の感覚が、強力な爆発魔法であることを物語っている。俺は思わず立ち上がった。
「何事だ! 敵か⁉︎」
すぐに衛兵が入ってきて報告する。
「城の前の勇者の大理石の像が破壊されました! 粉微塵に吹き飛んだとのこと! 」
なんだと! まさか竜でも出たのか。あれは神の眷属で、魔族である我々にも人間にもお構いなしで攻撃してくるから厄介だ。人間共は同じだと思っているようだが……。
と考えていると目の前に魔法陣が現れた。
肌が痛いほどの強力な魔力が伝わってくる。転移魔法の中でも上位の魔法か? 俺は警戒するアベリアに武器を下げさせた。まずは相手の出方を見る。
現れたのは年の頃17くらい、白髪で眼帯をした、珍妙な格好の男。それと、やたら胸のでかい魔法使い風の女、獣人族の女、小さいチンチクリンな女。
というか、やたら女を連れているな、こいつは。
こいつらが噂の異世界から来たという一団か。しばらく睨み合いをしたが、男が口を開いた。
「オレはダヴィド・キースという者だ。この世界ではない、別の世界から来た。貴様がこの国の王か、オレらを探してるってゆうからこっちから来てやった。言っとくがこいつらに手を出したらオレが許さない。オレは交渉をしに来ただけだ」
手を出そうなんてこっちも思ってないわい! そんなに女共が大切なら置いてくればよかったではないか。なんて言い合いをする余裕はない。
相手が何を考えているのかわからない。まずは情報だ。
「そうか、余はこの国の王である。あの像を破壊したのはお前らか? 」
「俺が魔法で破壊こわしたが、だったらなんだというのだ」
なんで初対面からこんなに喧嘩腰なのだ? 交渉に来たとか言ってなかったか! 俺は怒りを噛み殺し聞いた。
「目的を教えてくれぬか? 何か理由があって壊したのだと思うのだが……。」
男はしばらく考えた後
「理由……? 簡単なことだ、俺の目の前にあった。目障りだったから
……これは厄介な相手だな。頭が残念なのか、会話にならない。
賢そうに喋っていたから交渉はできると思っていたのだが、強力な魔力を有している分、これは難儀しそうだ。
「そ、そうか、ではこれからは目障りだと理由で破壊するのはやめてくれないか? 爆発が起こったら、ここに住む民も安心できないだろう。」
「民を大切にしているだと! あんな大理石の像があるから住民の税金が上がるのだろう! オレはこの近くの村で何回も視てきた。飢えている人々を! だから
壊す理由あったではないか! なぜ最初から言わぬ! しかし、怒らせると厄介そうだしたな。取り敢えず下手に出ておこう。
「わかった! ちょうど良い。これから税金の値下げをしようとしていたのだ。今税の徴収のやり方を変える改革を行なっているところでな、そのついでに勇者の像も小さいものに変えよう。それで良いだろう? な? 」
男は暫く疑いの眼差しを向けていたが、こちらに言い捨てた。
「とにかく村の税金が安くなるんだな! ————なら良い」
そう言ってダヴィドとやらは目線を外す。おそらく税金がどんなものなのかは理解していないようだが、良いだろう。俺はこいつを懐柔することにした。
「おお、そうか、分かってくれたか! ついでに聞かせてくれ、お前たちの旅の目的とはなんだ? 何か力になれることはないか? 」
貸しを作っておくに越したことはない。あとこいつらの目的がわからないことがいちばん怖いからな。
「オレは元の
お、交渉出来そうじゃないか! これは好機だ!
「すぐには分からないと思うが、我が国の宮廷魔術師に聞いてみよう。確か、召喚魔法でこちらに連れてこられたそうだな、他の世界に送る手段がないか調べさせよう。」
「本当か? それは助かる、これからこいつらを故郷に帰しに行く。また寄らせてもらう。」
そういうと激しい音と光を発して、あっという間に消えてどこかに行ってしまった。結局女どもは喋らんのかい! 本当になんで連れてきたのだ。
一団が去ったあと、アウグストが聞きにくそうに聞いてきた。
「陛下、先ほどのお話は」
アウグストが何かいいだけだな、どうしたというのか。
「先ほどの、税金下げてくださるというお話ですが、本当でございますか」
ああ、そのことか。
「本当だ、前からこの東の国は納める税金額が高いと思っていたのだ。大理石の像の維持費も少なくすれば村の税も下げられるだろう。先ほどの者に暴れられても困るからな」
なに、税金を中抜きされている分を考えれば元は取れる。するとアウグストはがばっとひざまついた。
「ありがとうございます! 実は、私、アレス殿が反乱を起こした時、陛下の敵になろうとしておりました。陛下は、この国に圧力をかけているだと、そのように思い詰めていたのです! しかし、たった今、目が覚めました! 反乱に加勢しようとした罰は受けます! 如何様なりとも! 」
あー、泣き始めた。木偶の坊の家臣はやたら泣くな。しかし、ここは度量の大きい所を見せておこう。
「わかっておる、余も悪かった。これまで通り、東の国を頼むぞ。」
「陛下―! 」
これで反王国同盟は瓦解したも同然。このまま一気に中央集権国家を目指すぞ!
——この時の俺は、これから起こる大騒動をまだ知らない。あんなことになるのなら、手を打っておくべきだった。どうすればよかったかなんて、今でも知る由もないが
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