第5話

 ある日、サリナは父親から着飾って客間に来るよう言われた。


 自分用にドレスが用意されていたことにまず驚きながらも、ドレスアップして客間に向かうと、見知らぬ若い男を紹介された。


「彼の名はワルイン、伯爵子息でお前の婚約者となる。失礼の無いようにしなさい」


 いつもの蔑んだ口調ではなく、普通の父親みたいな話し方をするケダモノ以下の存在に、サリナはまず吐き気を覚えた。


「お初にお目に掛かります、ワルインと申します。これはこれは! なんと麗しいご令嬢だ!」


 そう言って、サリナの頭の天辺から足の爪先まで舐めるようにジロジロと見て来るこの男にもまた吐き気を覚えた。


「彼の家はウチと違って裕福でな。お前と婚約することによって我が家に援助して下さることになっておる。くれぐれも粗相の無いようにな?」


 なるほど、そういうことか。自分は金のために売られたのか。サリナは納得した。そして同時にこのワルインという男に嫌悪感を感じた。


 その感覚は正しかった。


「じゃあ後は若いお二人でご自由に」


 そう言って父親が退席した途端、ワルインは態度を豹変させサリナに迫って来たのだ。


「いいか! 魔族である貴様を貰ってやろうと言うんだ! 大人しく言うことを聞け! この薄汚い魔族風情が!」


 あろうことか客間で事に及ぼうとサリナを押し倒した。恍惚の表情を浮かべながらサリナに覆い被さる男を、離れた所から蔑みながら見下ろしているサリナは、コイツもケダモノどもと同じ人間至上主義者であると判断して復讐対象者に加えることにした。


 サリナを抱いた幸せな夢で見ているだろう男から、しっかりと精気を吸い取ってやった。


 その後もサリナに会いに来る度に体を要求してくるこの男に、いい加減辟易して来た頃だった。


 いつもなら男がやって来ても近寄りもしない義妹が、今日はなぜか男に媚びを売るように近寄って来た。


「初めましてぇ~♪ 私ぃ~♪ お義姉様の義妹でアクーニャと言います~♪ お義姉様の婚約者の方がとおっても素敵な方だと伺ってぇ~♪ 会いに来ちゃいましたぁ~♪ キャハ♪」


 どうやらサリナの物が欲しくなったらしい。それならどうぞご自由にとばかりに、サリナは部屋を後にした。


 その後、部屋の中から聞こえるケダモノどもの嬌声を耳にしながら、そう言えば義妹には別に婚約者が居るとか以前に言ってなかったか!? そっちの方は大丈夫なのだろうか!? 


 そう思いながらも、どうでもいいか、自分には関係無いとサリナは暗く嗤った。

 

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