第4話

 サリナの部屋は屋根裏の物置だった。

  

 足の踏み場も無いほど物が押し込まれていで、部屋の隅に薄汚れたベッドがあるだけという酷い環境だったが、隙間風が吹き込む離れよりは幾分マシだった。


 サリナは取り敢えず足場を確保して、ベッドの上に載っている荷物を脇に退けた。シーツと枕カバーを交換すれば、なんとか寝られるようになった。


 さすがに疲れたのですぐ休むことにした。


 深夜、屋敷中の人が眠りに就いた頃、ギシギシと音を立てながら屋根裏部屋を目指す影があった。男爵である実の父親である。


 父親はそっと部屋に入り込むとサリナの寝ているベッドに近付き、寝ているサリナの口をいきなり塞いで、耳元に口を近付けてこう言った。


「シーッ! 声を出すんじゃないぞ! 今からお前を女にしてやるからな! 光栄に思え!」


 そして怯えるサリナを見下ろしながら服を脱いで裸になった。でっぷりと太った醜い体でサリナに覆い被さりそして...


 そんな吐き気を催すケダモノ以下の行為を、サリナは離れた場所から蔑みながら見下ろしていた。今頃このケダモノは、サリナを抱いているという幸せな夢にドップリ浸っているのだろう。


 そんな情欲にまみれた精気なんて吸いたくなかったが、今日はまだ食事を取ってないことを思い出したサリナは、我慢して吸い取ることにした。


 やがて事を済ませたケダモノは、とてもスッキリした顔で部屋を出て行った。その姿をサリナは嘲笑って見送った。



◇◇◇

 


 この屋敷の使用人は、サリナのことを自分達より下の存在だと思っている。屋敷の主人である男爵がそういう態度を取っているものだから、そう勘違いしてしまうのも無理はない。


「ほらよ! 俺の仕事を分けてやるぜい!」「アタシ達の仕事も分けてあげるわ! ありがたく思いなさいな!」


 サリナも敢えてそのことを指摘したりしない。だから仕事を押し付けられても逆らったりせず、無表情に頷いて淡々と仕事を熟す。


 ただし、その対価として精気を吸わせて貰っている。だからサリナがこの屋敷に来てから、使用人を辞める者が後を絶たない。体力が持たないからだ。


 辞めて行く者は皆一様に痩せ衰え、肌はカサカサで髪は抜け落ち、急に歳を取った老人のような状態になっていた。


「あの屋敷で働くと大変な目に合う」


 いつしかそんな噂が流れ始め、使用人の募集を掛けても誰も来なくなり、屋敷は次第に薄汚れて行ったのだった。


 サリナはそんな状態を満足気に眺めていた。


 復讐は着々と進んでいる。

 


 


 


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