3話 元人間の人形
自分が人ではない、と聞いた時はそれは大層驚いたものだが、人間を元に作られた人形、という事実は聞いてすぐはピンと来なかった。魔法なんてよく分かっていない事象には、そんなことも可能にする力はあるのかもしれないとは思うが、道徳的にはどうだろうと考える。自分の意志で自分の肉体の寿命を引き延ばす、ということになるのだろうか。
それ以前に、自分の前に入っていた人の魂はどこへ行ったのだろうか、という方が気がかりだった。前の人の魂が入っているところに私の魂が入ってきて、今は鳴りを潜めている、ということなら少し申し訳ないがまだ安心する。
では、1人分しか入ることができず、私が入ってきた際に追い出した、とするとどうだろうか。広義に解釈すれば私は人を殺したということになるのではないだろうか。
そこまで一瞬の間に頭を回して冷や汗、は人形だからか掻かないが内心で冷や汗を垂らしたところで、グスターが説明を続ける。
「未確定ではあるが、高い確率でありそうだ。魔人形として1人で生きていくことはできない、というか考慮されていない。必ず主人の付き添いとしているものだから、1人で独断行動したところで受け付けてはもらえないだろう。そして人として生きていくこともできないだろう。必ず1度は身体含めた諸々の検査が行われ、その人個人の情報が発行される。年に一度はその個人情報が更新されていくが、きちんと調べられるとすぐに人ではないとバレてしまうからできない。で、だ」
いつの間にかマリスが4人分の飲み物を用意していたようで、4人の前にそれぞれカップを置いていく。それぞれが礼を告げ、ちょうど話を切ったタイミングでグスターが口をつける。喉を潤したところで、話を続ける。
「そこでさっきいった条件の話だ。繰り返すが、魔人形として1人で生きていくことはできない。また人として生きていくこともできない。だから、魔人形として人と生きていく、よくいる魔人形と同じように扱おう、という話を踏まえて、だ。シィラ、アイリスのことを考えて魔法学部と魔工学部どっちに進むのが良いと思う?」
突然話を振られたシィラは、ぴくりと肩を揺らすと数秒の後、察したように項垂れた。
「……簡単な検査しかせず、しかも1体は同行が認められている 魔法学部だと、思いますぅー……」
「そうだな、魔工学の方は自作の物であればいくらでも持ち込み可能だし、周りへのアピールにも宣伝にもなる代わりに、しっかりとその製作物の検査もして安全性等を確かめる必要がある。アイリスちゃんとの契約はあるが自作証明もできないし、連れて行ったところで検査の末混乱を招くことになるし、最悪の場合は処分されるな」
「いやーでも! 禁忌に触れてる可能性があるなら、いっそ家においておいた方が安心だし、家においておくなら魔工学でも関係ないのでは――」
「ほう、お前が学校に行っている間はアイリスちゃんは一歩も家から出さなくていいと? 実質人間と同じな彼女の世界をこの家だけに狭めてしまうのか、なるほどなるほど」
「ぐっ…むむ……」
「あの、私はそれでも」
こんな地雷のような私を匿ってもらえるだけでも十二分に助かるというのに、一人の人生の進路に関わっているらしい話題に自分のせいで曲げられるのは流石に忍びなさ過ぎる。そう思って口を開いたが、スノーが人差し指を口元に持っていき、静かに、と言葉にはせず伝えてきた。内心穏やかではないが、閉口し事態を見守ることにする。
暫く何とかグスターを説得しようとするシィラと、すべての逃げ道を1つずつ塞いでいくように反論していくグスターの口論は続いた。時々スノーとマリスが諫めたり、たまに話を振られた私が何とも言えない返事をしていたが、最終的に私はシィラの魔法学部の進学に同行するという結末に落ち着いたのだった。
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