2話 ご両親に挨拶する人形
「だめだな」
シィラの部屋は2階だったため、1階のリビングのような広いスペースまで連れられていくと既にシィラのご両親と思われる2人がテーブルについており、向かい合う2席を空けてマリスが腕を組んで立って待っていた。
ご両親とも初めて私を見てやはり驚いた様子で、声も出ず目を丸くしている父親と、あらあらと驚きと喜色の入り混じった表情の母親だった。
足早にテーブルまで近づいていき、お互いに簡単な挨拶をする。シィラやマリスのような若者よりは、どちらかというと定型的な挨拶でも受け入れてくれる大人の方が前世での生活を思い出し、やりやすい。
父親はグスター、母親はスノーというらしい。
グスターは筋骨隆々、という程ではないがしっかりした体つきをしていることが服の上からでも伺える。目つきは鋭く、厳格そうというのと凛々しいというのが第一印象。座っているから分かりずらいが、マリスと同じくらいには背が高い。前世が日本人の私には馴染み深い黒髪だが、ずぼらなのか割とボサボサしている。30代後半ぐらいだろうか。
対してスノーだが、こちらはグスターとは真逆の印象を受けた。最初こそ驚いていたものの、そのあとから笑みを絶やしていない。にこにことして、出るとこはでて引っ込むところは引っ込んでいるグラマラスな女性。顔も整っており肩口まで伸びたプラチナブロンドが良く似合っている。さぞモテた、或いは既婚とはいえまだモテているかもしれない。この人の年齢は推測することが難しいが、女性の年齢について触れるなという教えに基づき、深く考えないことにした。
ちなみに、シィラもマリスもスノーに似ているのだろう。シィラはスノーと比べれば髪色も近しいし、顔も整っている。マリスも、あの優しそうな顔つきはスノーの並んで同じように笑っていると瓜二つなのだろうと思う。
あれ? 妙齢の女性が両親に意味ありげに同じ年齢くらいの人間を連れてきて挨拶というと、それはそういう挨拶なのでは? と思いもしたが、出会って間もないし、何より私は人間ではないらしいということを理解している。
そんなことを考えるくらいに余裕ができたのかと思えば少しは落ち着く。余裕ができ、余裕ができたことを認識する余裕があるという流れだ。
私がそんなことを考えていることを余所に、シィラは事の経緯を説明していた。私を拾った流れや運び込むに至った経緯、また私が魔人形であるということが分かっているという点。そして、私が暫く身を置かせてほしいと2人に頼み、シィラが了承し契約に至ってしまっていることなど説明し、要所要所で私も頷く。
その説明を聞いたグスターは、深くため息を吐き腕を組んで暫く熟考している様子で黙り込んでしまった。少しして、顔を上げて発した言葉が「だめだな」だった。
シィラは行動で、私は内心でがっくりしたところでグスターがまた口を開く。
「ただ、条件次第では俺は構わない。もう契約も勝手にしてしまっていることだしな、まったく……。スノーはどうだ」
「ええ、なんなら私は無条件で、暫くなんて言わずずっと居てくれてもいいのよ~」
「と、いうことだが、聞くか」
肩を落としていたシィラと目を合わせると、私は一度だけしっかりと、シィラは二度三度と頷く。
それを確認したグスターは鋭かった目つきを少し柔らかくして私の方を見る。わかり辛いが、威圧しない様に努めているのだろう。
「その前に、シィやマリスも恐らく察していることの確認だ。アイリスちゃん、君自身のことに関わることでね」
「……禁忌に触れている可能性、ですよね」
「シィから聞いていたようだね。そう、君は魔人形ながら、あまりに居振る舞いが人間らしすぎる。それに、外見もだ。禁忌の中身については聞いているかな?」
「はい。えっと、魔人形に人の魂を入れてはならない、と。魂が定着する成功率が極めて低く、また定着してもほぼ廃人のようになってしまい魔人形としての機能すら十全に果たせなくなってしまう。更に壊れてしまってから元の肉体に戻しても元に戻らない場合がほとんどで、非人道的行為も横行したため、魔人形に魂を定着させる実験自体凍結されて、数百年前に禁忌となっている、と聞きました」
マリスのいない間にシィラに教えてもらって諳んじたことをそのまま言葉にする。あまり時間がなかったから、話し合いの際にどういう話をするか、おおよその予測もはさんだ上で自分の状況についてかいつまんで教えてもらっている。
そもそも魔人形と人形の違いすら分かってはいないが、それは後でと一蹴されてしまった。
「そうだ。更にもう1つの禁忌を犯している可能性があると私は思っている」
? まだあるのだろうか? 禁忌を犯すなんて言葉から1回でもやらかしてはいけないことだろうが、それを2回なんて正直御免被るものだ。
シィラと目を合わせると、シィラも分かっていない様で、さらにマリスを見やっても同様だった。スノーは変わらず笑顔だが、分かっているのだろうなと私には伝わった。
「私はおかしな点として2点あげたな。居振る舞いと、そして外見だ」
「居振る舞いというか、中身はさっきの通りとして……外見、ですか?」
確かに見目麗しいにも程がある容姿だが、人形として作られているとの事だし、作り手がこだわり抜いて精巧に作っただけなのだろうと思っていた。
「「あっ」」
シィラとマリスは口をそろえて声を上げる。思い当たるところがあったようで、分かっていないのは私だけのようだ。
頭にクエスチョンマークを浮かべる私に、グスターはまた口を開く。
「魔人形とは言え、ここまで人と遜色ない作りになるっていうのは難しいんだ。どこか人形らしい要素が必ずどこかにはあるものでね。ただそれが君には見当たらず、首元に製造者……と言っていいものか。名前の頭文字が彫ってあることを確認してようやく魔人形であると分かったくらいでね」
まぁ気付いたのはシィなのだがね、と付け加える。
それでもこの世界の事に疎い私にはいまだに何も分からない。
「まぁ、そうだな、回りくどいのはやめにしよう」
と、一息ついて咳ばらいをしてから、
「結論から言って、君の肉体は作られたものではなく、元は人だった、ということだ」
またアイリスが頭を悩ませる問題が放り込まれたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます