4話 慰める人形
口論の末、完全勝利を収めたグスターとそれに拍手するスノー、そしてシィラが机に突っ伏していたのが十数分前のこと。解散する間際に、マリスが淹れてくれていた紅茶のような飲み物に口をつけてみてとても美味しかったことを覚えている。
美味しいと思わず口に出していたようで、突っ伏したシィラ以外から暖かい目で見られて少し恥ずかしかった。
美味しいものは美味しいと伝えてこそだと思うし、結果的にはよかったと思うことにする。
そのあと少しグスターやスノーと話をして、改めてよろしくお願いしますと伝えた。2人ともあっさり受け入れていたことにも驚きだが、この思い切りの良さというか割り切りの速さというのは、シィラやマリスにもなんとなく共通していて、グスターたちの子だなと思った。
あまりにあっさりしていたので、理由を聞いてみたが
「禁忌を犯している可能性があると言ったが、犯していない可能性もまだ残っているんだよね」
と言われてまた首をかしげたが、その直後少し目つきが険しくなったグスターに頭をわしゃわしゃと撫でられた。
撫でられることから解放されたら、次はスノーに優しく抱きしめられドギマギしながらも、2人とも安心しろと言ってくれているようで嬉しかった。
その後突っ伏したままのシィラを、マリスと協力して部屋へと引きずるように連れて帰ってきた。その後マリスは去っていったが、変わらずいじけており私の胸に突っ伏したため、よしよしと背中を擦っていたが、やがて唸り声すら上げだしたシィラが大丈夫か不安になってきた。
「ぐっぞぉー……、ぐやじいぃー……」
「すごい声出てますよ……よしよし」
自分のせいで進路を捻じ曲げてしまったと思うと申し訳なさが凄まじくされるがままでいようと思いつつ、子供や孫もこんな風に撫でたことがあったなと懐かしみながら撫でる。
「なんか、凄い落ち着いた……そしてなんか、凄い慣れてる手付き……もう少しこのままでも良い?」
「ふふ、こんなことで良ければいくらでも」
既に返し切れないほどの恩を作った相手の要望ということで断れようはずもなかったが、この時はただ子供に甘えられた時のような純粋な嬉しさのようなものが勝っていた。見た目はこんなに変わっているというのに、中身は変わらないものだ。前世で甘えられるというか、頼られることに喜びを感じていた身としては、こういう些細なことでも頼ってくれたらいいと思う。
もう少しの間撫でていると、「もうそろそろ、大丈夫、です」とシィラが身体を離した。少し名残惜しく思ったが、大人しく解放する。
「これは人をダメにする包容力だ……」
身体を離した後もぶつぶつと何か呟いているシィラだったが、気持ちを切り替えるように「ふぅー……」と長く息を吐いた。
「……よし! ありがとうね。あと、先んじて言っておくけれど、謝んなくていいからね。ちょっと前に父さんと喧嘩になって、意地になって魔工学行くって言ってたけど、ここまで圧し折られていっそ折れるいい建前ができたって思ってるくらいなんだから。それに、魔法学は魔法学で楽しみにしてるの。それより父さんとの喧嘩に負けた方が……ぎぎぎ」
初めは気を使って言ってくれていると思った。まだ出会って数時間足らずだが、シィラという子のことを少しは知れたつもりだ。
その結果なのかは分からないが、彼女の目を見て、彼女の声を聞いて、嘘偽りのない本心なのだと伝わった。だからこそ、謝罪は内心でのみにしてこちらも本心で返す。
「……ではこちらも、ありがとうございます、と言わせてください。この短い間にたくさん助けてくださって……。まだまだ力になれる日も遠いとは思いますが、シィラさんと学校に行く日までに私も魔法とか、知らないことをたくさん知って、理解して、必ずこのご恩に報いてみせます」
「んふふ、期待しちゃうよ~? ?」
「が、頑張ります」
「よーし、じゃあ更に恩を売るべく、色々教えてしんぜよーう。というわけで、出かけよー」
「はい」
あっさりではあったが、1つ大きな問題が解決した。そのことにほっと胸を撫でおろし、私はシィラの後を追いかけた。
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