0話② 感謝を大事にする人形
「いや、取り乱して申し訳ない。いや、本当に魔道具、もとい魔人形ならそれに謝るのも変なのかもしれないが……」
「いやいや兄さん。むしろ魔道具と同じ括りにするのが失礼かもしれないよ……」
正座したままの私は、それぞれの世界から戻ってきた2人と向きあっていた。各自思考に区切りをつけるまでそこそこ時間がかかっていたようだが、戻ってきたのはほぼ同時だった。
分からない単語が多く飛び出してきているが、とりあえず先に一番大事なことを伝えなくてはと、頑なに閉じていた口を開く。
「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。折角助けていただいたにも拘わらずお礼申し上げるのが遅れました。何より先にお礼を言うべきでした。見ず知らずの私を介抱してくださり誠にありがとうございました」
両の手をつき、額も床に触れるかというところまで頭を深々と下げる。あまりの未曾有の事態にかなり混乱していたということもあるが、そのせいで恩人へのお礼を忘れていた。
この数刻の間のことで判断するのはあまりに尚早だとは思う。それでも彼女らのやり取りや表情、仕草や話し方を見て、悪人だとは思えない。
まだ分からないことだらけな上に、何が許されないことなのかも分からない。それでも、彼女が助けてくれたという事実は変わらない。
頭を上げ言葉を続ける。
「私も、私自身のことで今の状況をほとんど理解できておりません。それでも私にできることであれば…………?」
恩返しをしたい、ということを伝えようと思っていたが目の前の2人が2人とも目を丸くして固まっている。先ほどまで黙っていたのに急に喋りすぎて驚かせてしまったのだろうかと心配になる。心当たりはないが何か無礼を働いているという可能性もある。
嫌な緊張をしながら、どうしたものかと思案していると、シィラが我に返る。
「あ…っと。ごめんね、話ちゃんと聞いてるから続けて続けて?」
にこりと微笑んで続きを促すシィラに、何か思うところはあるのだろうがこちらの話をちゃんと聞こうという意志も感じる。ただ純粋に驚いていただけ、のようだ。
「え、えぇ……えっと。それでも私に何か手伝えるようなことがあれば何でもやらせていただきたいと思っております。もちろん、これ以上ご迷惑をかけるようであれば…………」
不意に言葉を区切った私に、2人は不思議そうな顔を向けるが、私の頭には「やってしまった」の文字が浮かんでいた。
前世で、人に散々「困っているならもっと頼ってくれていい」と言っておきながら人に頼るということを怠り色々な人に怒られたというのに、今世でまた同じことをやろうとしていた。
心中で自分の成長の無さに情けなく感じながら、言葉を改める。
「……いえ、ご迷惑をかけると重々承知で申し上げます。どうかもう暫くここに置いていただけないでしょうか……?」
頼ることが嫌だ、情けないだとかのプライドがあるわけではない。むしろ逆だ。自分が頼ることで人の時間を消費すること、迷惑をかけてしまうことが嫌なだけだった。一時期は仕事やプライベートで抱え込みすぎてパンクしかけたことがある。
その時に叱ってくれて、助けてくれたのが前世でパートナーになった人だった。その時は同じ会社の社員という関係だったが、その出来事をきっかけに時々話すようになった。恐らくその頃は私が同じことをやらかさないかと目を光らせていてくれたのだろうなと、今更ながら思う。
いや、今は思い出に耽っている場合ではない。もう一度、頭を下げて相手の返事を待つ。
2人は目を一度合わせると、シィラが先ににこぉー、と笑うと、反対にマリスは顔を青くした。
そして勢いよくシィラがこちらの目線に合わせるようにしゃがみ込むと手を握った。ぐいと引っ張り私を立ち上がらせると、マリスの静止の声も聞かずに口を開く。
「もちろん! これからよろしくね!」
シィラの返事を聞いた直後、私とシィラとの間で何かが繋がるような感覚がはしった。
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