第4話 変態・結城桃太郎
「これで8人はメドが立ったわけだけど、あと一人、新入生に野球に興味が有りそうな人居ない?」
咲良が一年生3人に訊ねた。3人は思い当たる節が無いようだった。暫しの沈黙の後、菊池が口を開いた。
「そういえば桃が居たじゃん。あいつ野球部に入るんじゃない?」
それに対して、丸が直ぐにそれを打ち消した。
「馬鹿。変な事言うなよ。入って来られたら困るだろ。」
「桃君って子が居るのね。どうしてその子は駄目なの?」
「凄い悪い奴なんです。」
「不良なの?」
「いや、そういうんじゃないんですけど・・・・・。なんて言えばいいのか・・・。」
言葉に詰まる丸に菊池が助け船を出した。
「一言で言えば桃はトラブルメーカーなんです。ろくでもない鬼畜です。」
「鬼畜?」
「そう。鬼畜。」
「どういう風に鬼畜なの?」
咲良の問いに丸と菊池は顔を見合わせた。菊池が大笑いする中、丸が困ったように言った。
「桃は交際してる女の子がいるんです。」
「それが?」
「実は付き合ってるのが小学校の3年生で。」
「えっ!そんな小さい子と!」
「なんでそんな小さい子と付き合ってるか分かります?」
「ロリコンなの?」
「それも有りますが、桃が言うには「小さい子だと中出ししても妊娠しないから」って。そういう風に言うんです。」
あまりにも生々しい話に咲良は顔を赤らめた。話を聞いていた中沢も微妙な空気感を出した。この桃という男はなんという鬼畜なのだろうか?咲良はこの男を野球部に入れたら、絶対に問題ごとの種になるだろうなと漠然と考えた。菊池が言う。
「それだけ切り取って話を聞いたら、とんでもない奴に聞こえるけど、桃は鬼畜だけど良い奴だよ。小学生とも援交している訳ではないし、真剣交際だし。なによりメンバーが揃わない現状、桃の力が必要だよ。」
咲良はじっと考え込んだ。高校生が小学生に真剣交際ならば性交!しかも中出し‼して良いモノだろうか?男の子と付き合った事の無い私には分からないが、今は普通なのだろうか?
「野球の能力はどうなの?」
「率は悪いけど、飛ばす力は天性のモノが有ります。肩も強いです。」
「守備も上手いし、足も速い方だし、悪いのは頭だけだよ。」
咲良は大いに迷った。が、ここはディールである。パワーヒッターで守備が上手くて足が速い。欲しい。なにより桃という子を獲得すれば9人揃う。何年振りかで青学単体で夏の大会に出れるのだ。手塚君にも面目が保てる。手塚君と甲子園に行けるのなら悪魔とでも取引だ。咲良は決断した。
「その桃君という子を野球部に誘いましょう。丸君と菊池君で誘ってみてくれる?」
「本気で誘うんですか・・・・・・。」
「そうこなくっちゃ!」
丸と菊池は対照的な反応を見せた。
「本気も本気。大マジよ。今日の放課後出来たら連れて来て。」
「はあ・・・・。分かりました。」
丸は気の無い返事をした。
「ところでその桃って子。なんて名前?」
「結城桃太郎です。」
「結城・・・・桃太郎・・・・?あだ名?なんでそんなあだ名が付いたの?」
菊池が爆笑する。
「あだ名じゃなく、れっきとした本名で。親が昔話の桃太郎の様に逞しく育って欲しいって付けたそうです。」
丸の説明を聞いて、咲良は唖然とした。確かに逞しそうだが桃太郎って・・・・。キラキラネームみたいなモノだろうか?キラキラネームの人は、普通の名前の人よりも犯罪を犯す確率が高いという統計が出ている。こいつは大丈夫なのか?とても不安だが、とりあえず会ってみよう。今後の事はそれから決めようと咲良は決断したのであった。
そしてその日の放課後。
部員はグラウンドで練習。特に重点的に石井部長が中沢涼に外野守備を一から教え込んでいる。丸と菊池は例の桃太郎に話をしてくれたそうだ。入部するともしないとも意思表示をしなかったそう。菊池は桃は今までずっと野球をやってきたんだから、絶対野球部に入部する筈だと言う。何を迷ってるんだと、咲良はやきもきしながら部室で雑務をこなしていると何処からか歌声が。振り向くと部室の入り口から男が歌いながら部室に入ってくる所だった。
「空を飛ぶ 街が飛ぶ 雲を突き抜け星になる
火を吹いて 闇を裂き スーパースターがやって来る。」
なんだこの男は?というのが咲良の率直な感想だった。
「あの・・・何か用・・・・。」
咲良の言葉を遮って、その男は一人で歌い続ける。
「桃太郎 結城桃太郎がやってきた
青学の 4番候補だよ。」
それを聞いて咲良はピンときた。この男こそが鬼畜と呼ばれる例の「結城桃太郎」なのだと・・・・。なんか頭の悪そうな男である。そういえば菊池も頭が悪いと言っていたな。今は兎に角、人格よりもメンバーを揃えることが優先なのだ。桃太郎に抱いた第一印象をおくびにも出さず、咲良は作り笑顔。
「あなたが結城君?青学野球部にようこそ!歓迎します。皆グラウンドで練習中なの。早速、皆に紹介・・・・きゃっ!何?」
桃太郎は咲良の顔に顔を近づけて、まじまじと顔を覗き込む。咲良はキスをされると思い、悲鳴を上げたのだ。
「なんか田舎臭い女だけど、眼鏡外して、髪型変えればなかなか良さそうだな。」
咲良は顔をじろじろ見られ、田舎臭いと言われた事に憤慨した。この男、何様のつもりなのだ。桃太郎は咲良の感情を全く勘案しない。驚くべきことを言った。
「俺と付き合って下さい。」
「はあ~~~?」
一体全体、なんなのだ。この男は?私の事を初対面で田舎臭い呼ばわりした直ぐ後に、付きあってくれだ?一種、異常な男である。
「な、何を言ってるの?」
「今日から俺と付き合って貰います。もし断るのなら、俺は野球部には入りません。俺が入部しないと9人揃わないんですよね。丸と菊池から聞きました。どうします?」
「・・・・・・・・・。」
この桃太郎という男は初めて会って、いきなり付き合えと言う。しかも、拒否したら入部しないと脅迫するのだ。成程、菊池が桃は鬼畜と言っていたのが頷ける。咲良は答えに窮した。これから手塚君と付き合えるかもしれないというのに、こんな鬼畜と付き合えるか!しかし、そうすると9人のメンバーが揃わないのだ。幸いな事にこの桃太郎という男は頭が悪そうなので、なんとかなだめ賺してやろうと思ったのも束の間、桃太郎は咲良の尻に手を伸ばし、やらしく擦った。
「キャッ!」
「なかなか小振りな良い尻してますね。」
桃太郎は事も無げに言った。
「ちょっと何するの!」
「これぐらい良いだろ。二人きりなんだし。俺達、付き合ってるんだから。」
「誰も付き合うなんて言ってないでしょ!」
「それじゃあ、野球部に入るの止めますよ。又、今年も他校との合同チームで夏の大会出ますか?」
このヤロウ~~~。人の尻を触っておいてふざけた事を!!!。ぶん殴ってやりたい誘惑を必死に耐える咲良。桃太郎は更に続ける。
「マネージャーの様な芋臭い人が、俺と付き合えるのは光栄な事なんですよ。」
「・・・・・・・・・。」
「どうせ男と付き合った事なんてないんでしょ。見れば分かりますよ。」
「・・・・・・・・・。」
「えす・いー・ばつも教えてあげますよ。」
桃太郎は咲良の耳元で小声で囁いた。なんだ?えす・いー・ばつって?怪訝な顔をする咲良の顔色を見て、桃は笑った。
「えす・いー・ばつ、分からないんですか?」
「なに?えす・いー・ばつって?」
「えす・いー・ばつって書いて何て読みますか?」
なんだ?何の事だ?えす(S)・いー(E)・ばつ(X)そこまで来て、やっと咲良はえす・いー・ばつが何のことか理解した。SEXの隠語である。桃太郎は咲良にSEXをしようと誘っているのだ!尻は触るわ、SEXをしようと誘ってくるわ、容姿は貶すわ、とんでもないセクハラ野郎である!すぐにでも野球部から追い出すべきだろう。しかし、この鬼畜を追い出してしまうと、部員が揃わないのだ!どうするか・・・・・・・。咲良に考える暇を与えず、桃太郎は更に迫ってくる。
「いきなり、えす・いー・ばつはしないから大丈夫ですよ。入部届書いてあげますから、今日の所はパンツを下さい。いいですね。」
桃太郎は咲良の足元に跪くと、スカートの中に手を入れ、パンツを脱がそうとする。
「ちょ、ちょっと。なにするの。」
「いいから、いいから。」
などと言い、桃太郎は咲良のパンティを脱がしに掛かる。パニックになった咲良の思考はぐるぐる回る。この男はモノホンの変態である。小学生に中出しする性犯罪者だから殺しても罪にはならないだろうから殴ってやりたいが、そうするとこの男は野球部には入らないだろう。手塚君の為にこの際、パンティをくれてやろうか?しかし、そうするとこの性獣の要求に今後、際限なく答えさせられる事になる。SEXを求めてくるぐらいなので中出しもされるだろう。そんな事をさせたら手塚君に顔向けが出来ない。しかし、要求に応じなければメンバーが揃わず、やはり手塚君に顔向けが出来ない。進退窮まれり。桃太郎が強引に咲良のパンティを脱がしに掛かる中、抵抗しながら咲良は叫んだ。
「ミカエル様。助けて!」
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