第23話 カレー
「アレス殿どうだ?」
「大丈夫、いつもと同じ」
「これで多分最後だと思う」
アレスはロイの研究所に来ていた。石と自分の契約を切るためだ。研究もだいぶ進み、石の波長を割りだす事はできた。波長をぶつけた所完全に遮断する事はできなかったが、次の打開策として、アレスの波長を調べ、アレス自身にも波長をぶつけ、完全に遮断することにしたのだ。
「よし、測定できた。ご苦労様その装置切っていいよ」
「ふう、これでできればいいんだけど」
アレスは自分に取り付けられている吸盤のようなものを外した。
「それは分からない。でも、今回ばかりは自信があるよ」
ロイはそういうと、アレスと機械に繋がってる装置を切った。
「そういえば教師の仕事をしてるんだって、なかなかの評判らしいじゃないか」
アレスは照れたように頬を書く。最初は教師をする事を嫌がってはいたが、今では満更でもないといった様子だ。彼の自信ありげな顔がそう物語っていた。
「ええまあ、最初は不慣れた所もありましたが、今ではだいぶ慣れてきましたね。生徒さん達もあまり聞いてない人もいますが、中には熱心に聞いてくれる人もいてやりがいを感じます」
「そうか、アレスは案外教師の仕事あってるのかもな。確か元商人だって?どうだ石が解決したらうちで働かないか?試験もあるが、それさえクリアすれば学長もそう邪険にはせぬだろう」
ロイは先程アレスと繋がっていた機械をいじりなら聞く。さらっと思いついたようには言っているようだが、ロイは半分くらいは本気だった。商人だったアレスは口がうまく生徒人気が高いのだ。
「……いえ、魅力的な相談ではありますが、私は商人。教師になる事はできません」
ロイはそれを聞いて少し残念そうな顔をしながら
「そうか」と呟いた。
「よし、もういってたいいぞ。完璧にアレスの魔力派を割り出すことできた。後はもう一つの装置にアレスようにコンバートすれば終わりだ」
アレスは割烹着から私服にきがえ、そのポケットに入っていた赤い石を触る。ドクンと波打つっていた。長いことこの石と触れていたせいで、少しの愛着みたいなのを覚えてはいたが、ようやくこの石との繋がりをたつことができる事にアレスは安堵を覚えた。
「数日中までには、装置をセッティングできると思う。それまでは、教師としての仕事をやり残しがあったら終わらせておくんだ」
「そうだね。何から何までありがとう」
アレスは深々とお礼をする。それを見たロイは慌ててそっぽを向いた。ごまかしてはいるが、彼の落ち着きのない手が照れているのがよくわかる。
「い、いや。あくまで自分の研究のためだ。俺はそれを利用したにすぎないさ」
「それでもね」
「ふん」とロイは後ろを向くと剣を取り出した
「それは?」
立派な剣だ。するどく輝く刃は、達人の職人がこれを作ったのだと証明する。塚には蒼い、稲妻が走り、剣全体に、異様な雰囲気を醸し出していた。
「本物のイーグルの剣さ」
ロイはそういうとひょいっとアレスに剣をよこす。アレスは慌ててその剣を掴むと、その剣は羽のように軽く、アレスは驚く。
「凄い、鉄でできた剣がここまで軽くなるなんて」
「どうやって作ってるのかはわからん、イーグルだ。何やら特殊な製法があるのだろう」
武器は重い方が強いと思われがちだ。しかし、実際は違う。軽ければ軽い方がいい。強く早く降った方が重くて遅い攻撃より威力がでるのだ。
アレスは不思議に思う。何故、ロイがこの剣を自分に渡したのか。
「何故という顔だな。それは今回アレスが石との契約が切れたさいにいれる依代だ。アレスも、原書の石と契約する前はその石は何か依代に入っていただろう」
アレスはそういえば、イーグルの贋作の剣にこの石も入っていたの思い出す。
「確かに入っていました」
「そうだろう。依代をいれなきゃ、原書の石は勝手にまた契約者を選ぶ。それを防ぐための依代さ。器になるための剣も、相応の価値があるものでないといかん。いかんせん、そいつは意思があるらしい。なまくらの剣なんて入れたらヘソを曲げちまう」
ロイはアレスの懐に入っている赤い石を指差すと肩をすくめた。
「こんな貴重な剣いただいても良いのですか?」
なんと言ってもイーグル作の本物剣だ。イーグル特有の蒼い魔力派で本物かは一目瞭然だった。もし、この剣を売れば家一つ簡単に建つだろう。こんな業物の剣をロイは簡単に手放した。アレスはその理由が気になった。
「ん、それは貰い物だからな。偏屈なじーさんに、いつか求めている奴に渡してくれって言われたのだが、どうやらアレスのことかと思ってな。今がそのタイミングだろう」
アレスは剣を見る。蒼い波動を放ち、おどろおどろしげに、剣がこちらを見ているような気がした。アレスは目を逸らすと、その謎の老人に感謝する。一体全体、その謎の人物が誰なのか気にはなっていたが、今それを考えても仕方ないと思い頭を振った。
「しばらくは、アレスがその剣を持っていてくれ。石に馴染ませたくてな」
ちょうどそのタイミングで昼の鐘がなった。朝からロイの部屋で篭りっきりで測定していたのだが、もうこの時間だ。アレスは、昨日の夜から何も口に入れておらず、空腹を覚えた。
「わかったよ剣はいただいていく。午後からは、教師の仕事があるから、それまで何か飯でも食べてくるよ」
「ああ、半日拘束して悪かったね。アレス先生」
ロイはちょっとからかうような口調でそう言った。アレスは少し恥ずかしげに、手を上げロイの研究所から出たのだった。
「アレス、このカレーというものは美味しいのじゃ」
はぐはぐっと木のスプーンを使い口いっぱいに頬張る。美味しそうに食べるシャルのその姿に微笑ましさも感じるが、サラさんが見たら食事のマナー講習が始まりそうだなと思いシャルの情けな顔を思い浮かべ少し笑いそうになるがアレスはあえてそんな無粋な指摘はせずに、ただシャルたちが食べるのを見ていた。
「アレスおかわり」
レイが口いっぱいにカレーをつけて、アレスに空いた皿を渡してくる。これで何杯めだろうか。アレスは大鍋からことことと煮詰めたカレーをおたまですくうと、器にもってレイに差し出した。
レイは新たによそわれたカレーに目を輝かせる。
ここまで二人が喜んでくれるとは思わなかった。と、今日カレーを作る事になった経緯を思い出した。
アレスが授業が終わりランウォール邸に帰る支度をしていた時だ。
休憩室を通りかかると、聞き覚えのある情けない声が聞こえてきた。
「うぅぅぅぅ」
「ぁぅぅぅぅ」
アレスは休憩室を覗いてみると、金髪と銀髪のアホ毛をはやした二人が突っ伏しているのが見えた。やはりと、思った通りの二人組にあえてゆっくりと歩く。
「どうして、今日食堂やってないのじゃ」
「おかしいよぉ」
ドンドンとシャルとレイがスプーンで机を叩く。その様子は駄々を捏ねている子供のようでアレスは少し口角を上げる。
気配に気づいたのか二人が顔をあげる。
「やあ、どうしたんだい二人とも?」
「あ、アレスか……どうしたもこうしたもない。食堂がやってないいのじゃ」
シャルは力が抜けたような顔で視線を食堂に向ける。
「そりゃ、こんな時間だからね」
授業後だ。流石にこんな時間に食堂を使う人もいないだろう。
「いつもなら余りを貰えるのじゃ。今日はおばさん達が早めにあがったらしくてのう……」
「すいたあー」
アレスはそういや今日は実技の授業があったなと思い出す。よく見るとシャルたちの靴が土埃で薄汚れていた。
「ランウォール邸まで戻れば、夕飯があるじゃないか」
アレスは少し呆れた視線を送ると「我慢できないのじゃ!」「のじゃ!」と二人が体全身で抗議する。何を言っても動きそうにない、二人をみてアレスはため息をはいた。
「わかった。わかった。それじゃ俺がそこの食堂で何か作ってあげるからそれで我慢してくれ」
アレスがそれを言うと二人をピコンとアホ毛を立たせて目を輝かせる。その言葉を待っていたかのように二人でうなずき合うと、満面の笑みを浮かべてこちらを見てきた。
「流石アレスじゃ!」
「さすがー!」
先程の脱力感は何だったのか食事にありつけると分かると突然元気になった現金な二人を見て、アレスは苦笑いを浮かべると、腹ペコの野獣二人のために食堂へむかった。
アレスが食堂を今回が初めてではない。腹ペコの二人は食堂の職員たちにもよくお世話になっていた、その縁もあってか職員がいない時はアレスが調理しても良いと許可を貰っていたのだ。
「お邪魔します」
キッチンに向かうと綺麗に整理されている。しっかり掃除もしてあるのか、床も綺麗だ。冷蔵庫をあけるとアレスが見たことのない食材から定番の食材まで各種いろんな食材所せましに敷き詰めてあった。アレスはいくつかの食材を取り出すと、まな板を取り出し、食材を並べる。
「使った食材は補充しないとな」
少しの申し訳を感じつつも、食堂から感じる二つの視線に急かされて料理を始めた。
今回は時間がないので玉ねぎを横に切る。本来なら繊維に沿って縦に切るのが普通だがあえて横に切って細胞を壊すことによって短時間で火を通りやすくするためだ。
ジャガイモやにんじんを一口大のサイズに切る。シャルとレイは小柄ということもあり少し小さめだ。次はお肉だ。アレスは冷蔵庫を覗く、牛肉や豚肉もあったが、魔物のポッポを取り出した。アレスはポッポを見てシャルと食べた屋台を思い出しせっかくだからと思いポッポを使おうと思った。
ハサミで余分な油をカットし、ポッポを手頃のサイズに切っていく。
ちょっとて手間だがポッポに軽く塩とこしょうを振り小麦粉を薄くまぶした。サラダ油とバターを熱してポッポを入れこんがり焼き色をつけたいったん取り出す。
「いい匂いじゃのう。この匂いはポッポかな?」
流石シャルだ鼻が良い。
「正解」
「懐かしいのう。またあの屋台のポッポが食べたくなってきたのじゃ」
「また戻ったら食べれるさ」
「そうじゃのう」
アレスは食材を炒め、水をいれアクをとっていく。にんじんを箸で指す。うん柔らかい。火をメインのルウを入れる。ことこと音をたてカレーの良い匂いが漂ってきた。
「アレス!もう我慢できない!」
「妾も限界じゃ!!」
腹ペコ二人組が、いつの間にか席を離れ、厨房の前まで来ていた。もう空腹の限界のようで、よだれを垂らしている。
「まだ、ダメ。煮込まなきゃ」
「くう、なんとう拷問!!お主は鬼か!!」
「鬼!はやくー!」
二人はアレスのシャツを引っ張る。
「もう少しだから待ちなさい」
アレスは二人に向かってチョップを入れた。
二人は頭を押さえてうずくまる。やっと静かになった二人を見て安心するが、涙目でこちらを見てくる二人に罪悪感がわく。
「まあ、ちょっと早いけどこんなもんでいいかな」
アレスはおたまを置く。それを見た二人は飛び跳ねて喜んだ。
「本当か!」
「やったー!」
思ったより元気そうだと思いつつ二人のためにカレーをよそった。
「もうお腹いっぱいなのじゃ」
「お腹いっぱい、幸せ」
二人はアレスの作ったカレーを全て食べきり満足そうに顔をつっぷしている。アレスは片付けをしながら、その様子を食堂から覗き見て、今日の夕飯は食べきれず二人ともサラさんに怒られるだろうなと、くるべき未来を予想する。
無論食事を提供したアレスも怒られるだろう。少し気が重たくなるが、幸せそうな二人を見てまあ、怒られるのも悪くないと思うアレスだった。
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