第24話 図書館

 アレスは図書館に来ていた。この国一を誇る蔵書達は叡智の結晶だ。丸いドーム型の天井にぐるっと回り込む用に本が所狭しに並んでいる。アレスはいくつかの文献と授業で使う資料を探しに図書館に来ていた。



「凄い量だな」



 ジャンルだけでも数えきれないほどの量がある。あらかじめ入り口にある地図で確認はしてはいたが、正直迷子になっていた。



 学生にでも聞こうかと周りを見渡すが、めぼしい人はいない。自分で探すしかないか。



 アレスはいくつかの本棚を確認して見ると、古い古文書から最近発行したばかり物なのだろう背びれが比較的に新しいものまである。



「ま……まま、魔道具あったここかな」



 魔法関連の書物は星の数ほどあるが、魔道具関係の文献はあまりない。基本的な使い方は魔力を入れる、止めるのみだからだ。無論、技術的な話になると別だ。魔道具制作には確かな知識と技術が必要になる。ただ、魔法書に比べると圧倒的にその数が少ないのも事実だった。



 実践的な事はだいぶ教えられたからな。多分生徒達も魔道具の面白さについて多少なりともわかってくれたと思う。次はニッチな分野になるけど、もう少しステップアップして専門的な魔道具の構造について教えられたら。



 魔道具を使う事のできるアレスだったが、魔道具の構造的な話になると、多少なりとも知見はあったが、授業で講義できるほどの詳しくはなかった。



 だからアレスは今図書館に来て勉強しようと思いきたのだがあまりの魔道具の文献の少なさに渋い顔を浮かべてしまった。



「んーあまりないな」



「こっち」



「ん?」アレスは突然後ろから声がかかり振り向いた。いない。でも確かに後ろから声が聞こえたはずだが……。



「こっち、来て」



 右からだ。アレスは広い図書館を見渡すが誰もいなかった。不思議な声だ。透き通っているような、綺麗な声でも。でも不思議と頭にするすると抜けていって特徴を捉えずらい声でもあった。



「こっち」



 まただ。流石にアレスは、今持ってる本を本棚にしまうと、声をする方に歩き出した。声がした方向はアレスから見て右手の本棚の角から。ゆっくりと進み、角を曲がる。図書館の壁があり、その壁沿いにずらっと本棚があるのみだ。



「確かここから声が聞こえた気が」



「ここだよ」



 アレスは至近距離からの声にぎょっとして振り返る。女子学生だ。魔法学園の制服をきた少女が立っていた。黒髪に長い髪を揺らし、服はサイズがあってないのか、どことなくチグハグだ。その少女は儚げで、触れたら消えてしまい、そうなそんな危うい存在だった。



「君は……?」



「それ」



「え?」



「魔道具の本。探しているんでしょ?」



 アレスは少女の指を指した方向を見る。確かに魔道具の書物がずらっと並んでいた。やっと見つけた本達に嬉しく思うが、何故少女はアレスが魔道士の本を探しにこの図書館に来ていたことを知っているのだろうかと疑問に思った。



「ふふふ、不思議そうな顔をしてる」



「何故、俺が魔道具の本を探しているって分かったんだい?」



「簡単だよ。ま行の棚でたくさんある魔法書を手に取らず渋い顔をしながら唸ってるのを見れば、魔道具の本を探しているんだろうなってわかるわ」



「なるほど」



 確かに言われてみると納得はする。けど、そうなるともう一つ疑問が、この少女はいったいいつから自分のことを眺めていたのだろか?



「この、図書館の事はなんでもわかるわ、あなたが唸ってる所面白かった」



 少女はくるっと周り、サイズのあってない学生服をはためかせる。



「何にしても助かったよ。ありがとう」



「ふふふ、いいわ。私は図書館の事ならなんでも知ってるの」



 アレスはいくつかの魔道具の本を手にとる。表紙を見、著者を見たがあまり聞いた事のない人物だ。これは面白い内容になりそうだなと思っていると。少女がアレスに話しかけてきた。



「ねえ」



「なんだい」



「私ね。私が気に入った人には呪いをかけるの」



「まじない?」



「そう。私はあなたを気に入ったわ。だから一つ助言」



 そう少女は呟くと、するするとアレスの前に立ち両手で顔を挟む。アレスは何故かその行動を拒否することができなかった。少女の白い細い指で顔を挟まれる。手のひらから伝わるヒンヤリとしてた冷たさは、まるで死んだ人の手のようだった。



「あなたこれから、いくつかの選択肢が現れる。迷うと思う。でもあなたの選択肢は正しいわ。あなたの思うがままに進みなさい」



 要領の得ない内容だったが、その話はアレスの頭にするすると入り込んだ。



「それだけ、じゃあね」



 少女はアレスの頭から手を話すと怪しい笑みを浮かべて離れた。



「お、おい」



 思わず、アレスはその少女に対して呼び止めるが、少女は図書館の本棚の影に隠れるとあっという間に見えなくなってしまった。



「これは、サービスよ。アレス。今日の夜、学務室に行きなさい」



 少女の声が頭を反響する。アレスはあたりを見渡すが誰もいない。こんな魔法聞いたこともない。魔法とは基本的から内からでるモノのみで対象者に直接作用させるものはないのだ。



「一体なんなんだ……」



 その超常現象に混乱するが、ただその少女の声がはっきりと頭にこびりついて、離れなかった。

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