第21話 ライラ


「アレス授業はどうじゃった?」



「うん、何とかこなせたよ。初めての割には良くできてたんじゃないかな」



「そうか、そうか」



「シャルとレイはどうだった?」



「うむ!魔法戦闘の授業は面白かったのじゃ!座学はちっとばかし眠くなったがの、学生生活とやらも悪くない」



「友達できたよ!嬉しい!」



 レイは手で大きく広げる。満面の笑みで、凄く嬉しそうだ。アレスはその顔を見て、頭を撫でる。



「そうか、よかったなレイ」



「えへへへ」



 それを見ていたシャルは不満そうな顔をして、少し拗ねた顔で腕を組んでいた。



「シャルもご苦労様」



 ポンとシャルの頭に手をのせる。



「う、うむ。当然じゃ」



 シャルは顔を赤らませる、照れたように少し笑った。



「あ、そういえば、面白い生徒がいたよ」



「ほう」



「最初は睨んできてビックリしたけど、でもまあ悪い子ではなさそうだったかな」



「……それは女子学生かや?」



「そうだね。ボブショートの似合う可愛らしい子だったかな」



「後は……その隣の子も熱心に聞いてくれて嬉しかったかな」



「……その熱心な子とやらも女の子なのかや?」



「ん?あー、確かそうだったかな」



 シャルとレイはゆらっと動き出し、アレスの前にたつ。



「アレス……」



「……」



「え?」



「「この浮気もの!!変態!!!」」




 シャルとレイは見事なコンビネーションで魔力を放った。



 アレスは切り揉み回転しながら吹き飛ばされる。空中で「魔法の威力が上がってる。授業の成果あったんだな」とそんな事を考えながらアレスは意識を手放すのだった。





 ネネは、あれからライラにずっと質問責めにしたが、結局ライラはサイモン先生と何を話してたのか教えてくれなかった。



 うううとネネは一人で唸りながら学校の広場に寝っ転がる。



 隠し事はなしって約束したのに。ライラの馬鹿。そんな風にネネは一人でふてくされていると。他の生徒の噂話が聞こえてきた。



「今朝の日報見た?」



「ううん、見てない。何かあったの?」



「首切りって知ってる?最近話題なの」



「ああ、皇都中、噂になってる奴でしょう。怖いね」



「どうやら、また被害者が出たらしいの」



「え!?」



「しかも今回の被害者はうちの生徒らしいの」



「ええ!!誰?」



「下級生の子が被害にあったらしいわ」



「警備の騎士たちは何をしてるのかしら。犯人の顔もわからないなんて不安だわ」



「そうね。これだけ被害が出てるのに誰も捕まってないなんて。それに、犯人の顔もわからないようじゃ対策しようが……」



「一つだけ手がかりがあるみたいだわ」



「え、教えて」



「皆、被害者には薔薇の模様が刻まれてるの。だから今までの犯行が同一犯だってわかってる」



「薔薇……私たちも気をつけなきゃ」




 ネネは横から盗み聞きして、そういえば薔薇はどこかで見たなと思い出す。



 薔薇……あ、昨日!



 昨日ライラとサイモン先生が話してた時、サイモン先生の腕に薔薇の模様が!



 ライラが、危ない!



 こうしてはいられないと、ネネはライラを探すために走り出した。



 ライラが住んでいる学生寮に行ってみたがいない。


 教室にはいない。



 休憩室もいない。



 おかしい……何か事件に巻き込まれたのではないか、先程の話が脳裏にチラついて不安ばかりがネネの頭におしかかる。



 ライラがいないなら、サイモン先生も



 職務室に行ってみたが、サイモン先生はいなかった。



やっぱりいない。ライラ……。



 席を見渡すと昨日新任したばかりのアレス先生がいた。



「アレス先生!」



「ん、どうした?」



「さ、サイモン先生見かけませんでしたか?」



「そういえば今日、一日朝から見かけてないな」



 ネネは心臓が跳ねた。ライラがいない。サイモン先生も。一体どこに



「一体どうしたんだい?」



 アレス先生は聞いてきた。正直自分でも気にしすぎだ思う、でも先ほど広場で聞こえてきた首切りという言葉が頭にべっとりこべりついて離れなかった。



「ら、ライラが!」





 アレスは教務室で次の準備をしていると、昨日自分を尾行してきた女子学生が来ていた。始終キョロキョロと辺りを見回している。



 確か、ネネだったかな。昨日の名簿表で確認して覚えておいた。



 何をしているのだろうか?と、アレスが不思議に思っているとネネがアレスの視線に気づいたのか近づいてきた。



「サイモン先生見かけませんでしたか?」



「そういえば今日一日見かけてないな」



 そういえば休みだと思っていたけど、今日は授業もあるし変だ、とアレスは考えているとネネは必死の顔をしてアレスに訴えてきた。



「ら、ライラが!」



 その慌てようはどこか鬼気迫るようでアレスもこれはただ事ではないなと感じネネの話を聞くことにした。



「とりあえず落ち着いて。ライラがどうしたんだい?」



「ライラがどこに探してもいないんです!いつもなら教室か休憩室にはいるのに!」



「どこか用事があって出かけているんじゃないかな?」



「ライラは用事があれば絶対に私にいうはずです!」



「わかった。俺も一緒に探そう。今日は午後の講習はないからね。だからとりあえず落ち着いて」



「……はい」



 アレスはネネを落ち着かせようとするが、それでも不安が止まらないようで、おろおろと目を泳がす。かなりの狼狽だ。流石のアレスもここまで不安がるのはおかしいと思いネネに理由を尋ねる。



「その……見ちゃったんです。サイモン先生の腕に薔薇の絵が」



「薔薇?」



「皇都で今話題なってる首切りのトレードマークです。この前ライラはサイモン先生と話して、それで……」



「わかった。とりあえず、探そうか」



「はい……」



「どこか思いあたる場所はあるのかい?」



「ライラが普段行きそうな所は行きました」



「うーん」



 ライラを探そうにも、そもそもアレスはあまりこの学園の敷地を知らないことに気づく。



 どうしようか。あまり、この学園の事をしらないし。ライラさんがどこに行くのかもわからない。とりあえずサイモン先生が行きそうな所でもいってみよう。



 生徒が近寄らず教師が行きそうなとこか。サイモン先生は喫煙者だから喫煙所とかどうだろう。



「ライラの場所はわからないから、サイモン先生の場所はどう?」



 ネネは「うん」と小さく呟いた。



 アレスとネネは教務室を出ると、喫煙所に向かった。外に設置されている生徒が入れないように鍵がかかっている。



 窓からのぞいてみるとサイモン先生はいない。どうしたものかとアレスは悩んでいると、床に赤い何かがついているのに気づいた。



 これは……血!



 赤い血が点々と喫煙所の窓から外に出て、学園の裏庭続いていた。



 アレスは行かない方が良いと本能で感じてはいたが、先程のネネの言葉を思い出して、もし今いかないとライラという女子学生が危ないかもしれない、そう思い勇気を振り絞って血痕をたどった。



 裏口に行くと、一人の男性がナイフをもちながら立ち、女子生徒が座り込んでるのを見つけた。



 ここからではよく見えないが恐らくサイモンとライラと言われた生徒だろう。



「何をしている!」



「……アレス先生」



 男性が振り向いた。やはりサイモン先生だった。



「ライラ!」



 アレスが止めるまもなくネネはライラに近づく。



「ライラ!ライラ!大丈夫!」



 ネネがライラを揺さぶっても動かない。



 サイモンがそれを見てぐるっと顔をネネに向けた。アレスは視線が外れた隙を狙って飛び込む。



 サイモンはアレスの体当たりをくらうとナイフを手放し倒れ込んだ。



「ネネ、ライラを医務室へ」



「俺はこのサイモン先生を見張っておくから」



「わかりました!」



 ネネはそう言うとライラの肩を抱き、自分より身長の高いライラを必死に運んだ。



 アレスは拘束しているサイモン先生を見る。



「どう言うつもりですか先生」



「……ぁ」



 何かうめき声らしき言葉を発するがうまく聞こえない。



「なんですか?」



「……ぅぁ」



 よく聞こえず、アレスは耳を近づけると、サイモンを拘束してた体から滑っとした感触を覚えた。



「……これは?」



 赤い。赤い血だ。サイモンの体から血が流れていた。血痕はライラではなく、サイモンの血だったのだ。



「じゃあ誰が……」





 何とかしてネネはライラを医務室まで運び終えた。しかしあいにく保健室の先生はいなかった為、ネネはライラをベットに寝かせる。



「ライラ大丈夫?」



 ネネが心配そうにライラを覗いていると目を覚ました。



「……ネネ」



「ライラ!!目を覚ました!心配したんだよ!!」



 思わずネネはライラに抱きつく。ライラは泣きそうな顔をしたネネをぎゅっと抱くとおちつかせた。



「ごめんなさいね。私は大丈夫」



「うんうん」



「落ち着いた」



 ネネはライラの胸の中で小さくコクリと頷く。



「……もう少しだけ」



「もう甘えん坊なんだから」



「えへへへ……ライラの胸の中落ち着く」



「……そうね」



「……うん」



「私の可愛いネネ」



「なに?」



 ネネは少し顔を上げた。ライラは琥珀の笑みを浮かべ怪しく綺麗に笑っていた。



「好きよ」



「えっ?」



 お腹が熱い。痛い。下を見るどんどん赤い浸みが広がっていく。とっさにライラからもらったハンカチで抑えるがどんどん溢れ出して白いハンカチが真っ赤に染まる。え?なんで?



「ごめんなさいね。ネネ。今でもあなたの事が好きよ」

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