第18話 皇都

 門を進み皇都に入った。馬車は皇都の大通りを進む。シャルは久しぶりの皇都に懐かしげに周りを見渡すが、あまり活気はなく。人の往来はまばらで寂しげな雰囲気に首を傾げる。



「なんか静か」



 レイはガッガリという顔をする。



「前回来たときはもっと華やかな雰囲気じゃったんだがな」



「多分、さっき商人たちから聞いた首切りの話が影響しているのかもね」



 これだけ往来が少ないなか、貴族の馬車が走ると皇都とはいえ流石に目立つ。



 アレスたちは早めに大通りからでて、ランウォールの持つ家に移動した。





「ヴェツィのある家も大きいと思ったけど、皇都にある家もまた大きいな。流石公爵家」



 庭付きの大きな邸宅は、皇都の中心街にある家とは思えないほどの大きさだった。



「昔はのう、この家に住んでたのじゃ」



 シャルはそういうと馬車からでて意気揚々と歩きだした。



「じいおるか」



「お帰りなさいませシャルロッテ様」



 見事な髭を蓄えた執事が現れた。



「おお、久しぶりじゃのう。相変わらずじいは昔から変わらんの」



「ほっほほ。シャルロッテ様は身長が伸びましたかな」



「お!わかるか!流石じいじゃ!」



 シャルは目一杯背伸びして喜ぶ。



「こちらはアレスとレイじゃ。レイはちっとバカ訳ありじゃがのう。まあ友人みたいなものじゃな」



「シャロン様のご友人方、私はセバスチャンと申します。気軽に、セバスや爺などとお呼びください」



「ふむ。そういえばアレスの事は聞いておるか?」



「はい。ガロン様から文で存じ上げております」



「そうかのう、明日、魔法学園の方に行こうと思っておる。しばらくは皇都に滞在しておるからよろしく頼むのじゃ」



「魔法学園についてなのですが、学園にきた際に校舎前で使いの者を送ると連絡があったのですが、了承してもよろしいでしょうか」



「うむ、大丈夫じゃ。それで頼むのじゃ」



「承知致しました」



 老執事は完璧な動作で礼をした。



「ああ、それとサラは、良くやっておるぞ。優秀な大事なメイドじゃ」



「左様ですか。サラ、シャルロッテ様のご迷惑をおかけしないように」



「はい」



 アレス達の後ろに控えてたサラが短く返事をする。



 その様子にアレスは気になってシャルに耳打ちした。



「サラさんとあの老執事はどんな関係なんだ?」



「サラはじいの孫娘じゃのう。一族みなランウォール家に使えておるのじゃ」



「なるほど」



 その後アレス一行は、老執事にランウォール邸を案内されて十分な休息をとった。





 次の日ランウォール邸を後にしてシャルとアレスは魔法学園にきていた。



「なんでレイがきておるのじゃ」



「だって……あんな大きい家で一人なんて嫌なんだもん」



「じいやサラ達がおるではないか」



「ぶー、シャル達ずるい!私も学校行きたい!」



「それが理由か!遊びに行くのじゃないのじゃぞ?」



「ずるいずるい!」



「はぁ、アレスどうするのじゃ?」



 アレスは駄々をこね続けるレイを見る。



「まあもう来てしまったからには仕方ないか。一緒に連れてこう」



「……アレスがそういうのなら仕方ないのう。レイ、静かにしておるんじゃぞ」



「はーい」



 レイは元気いっぱいに声をあげた。



「大丈夫かのう……」



 その様子にアレスも若干不安になるのだった。





 魔法学園に入る。門は大きく頑丈だ。そこを通ると木々に囲まれた通路にでる。更に進み大きな広場に出た。



 まだ朝だからか、学生たちが学生用の服に身を包み、せかせかと歩いていた。歩いている学生たちをよく見ると多種多様な種族なのわかる。



「へー、いろんな人種がいるんだね」



「皇都の魔法学園は皇国民だけじゃなく、他国の生徒からも募集しておるからのう」



「ねえ、あれは何?」



 レイが指差した方向には、髭を立派に蓄えたいかにもな魔法使い然とした銅像が建っていた。



「あれは、この魔法学園を建てたアーロンじゃな。魔界大戦の英雄じゃ」



「ふんふん」



 レイは興味深げにその銅像を見る。



 アレス達は広場を抜け魔法学園の校舎についた。



「おおきいね」



「校舎というよりこれはもう小さな城じゃな」



「確かここで待ち合わせなんだっけ?」



「じいはそう言っておったが」



 アレス一行はしばらく校舎の前で立っていると、こちらに手を振りながら近づいてくる影があった。アレス達はそちらを見る。



「すみませーん、遅れましたー」



「なんと……」



「……」



「おおきいー」



 慌ててるのか、ずり落ちる眼鏡を直しながら胸についている大きな塊をバインバインと弾ませながら走ってきた。



 アレスはついその大きな球体に目がいく。



「アレス……何をみているのじゃ」



「い、いや別に……」



「見ておったじゃろ!!」



 シャルはゲシゲシとアレスの足を蹴った。痛い……。



「アレスさんたちですかー?お待たせてしまってすみません。私は、今回案内を任されましたぁ。ルカと申しますー。普段はこの学園で教師をしております。よろしくお願いしますね」



 ルカと名乗った女性は大きな胸に手をあてて息を整えながらアレスたちに挨拶をする。



「いえ、こちらこそ、雑貨屋のアレスといいます。こちらはシャルとレイです」



「シャルじゃ!よろしく頼む!」



「レイだよー。よろしくね」



「シャルとレイさんですねー。まずは学園長にお会いしていただきますぅ。それから学園の案内をしたいと思いまーす。それではよろしいでしょうか?」



「はい、大丈夫です」



「ではー行きましょう」



 そう元気よく喋ると、くるっと周りルカがスキップする。大きな胸がぶるんと揺れた。アレスはついそれを目で追ってしまう。



「わしだって……」



 シャルは自分の平な胸を抑える。それを見たレイがぽんと肩に手を置いた。



「ん」



「お主だってそんなに変わらないじゃろ!!」



「私の方が少し大きい」



「なんじゃと!!」



 レイの勝ち誇った顔を見て、どんぐりの背比べだよなあと思ったが、触る神に祟りなしアレスはそれに触れなかった。

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