第17話 門

「見えてきた。皇都じゃ」



 シャルは馬車から身を乗りだした。アレスも馬車の窓から覗き込む。



 三つの青い塔が天高くそびえ立っている。塔の中心に皇帝が住む皇宮が。それを囲むようにして塔、街と連なる。よく見ると街は段階ごとに下がるように立ち並んでいるのがわかった。



「凄い大きい!」



 レイが馬車から身を乗り出し、歓声をあげる。



「こら、身を乗り出しすぎると落ちるじゃろ」



「ねーねー、アレス」



「なんだい、レイ」



「皇都の周り、崖に囲まれて入れそうにないけど、どうやって入るの?」



 レイは首を傾げる。



 皇都はもともとは龍族が住んでいた大きな島だ。それを人と龍が開発し一つの大きな集合体に変えた。皇都周辺は険しい崖と複雑な地形、潮流は早く、天然の要塞になっている。



「皇都に入るのは二つ。あそこに見えるだろう。中央の大きな橋の門の前でチェックをうけて入るんだ。後は龍車っていう特殊な飛行手段があるんだけどそっちは一般市民には使われないかな」



「まあ妾達は皇国民じゃしのう。基本的にはすんなり入れると思うのじゃ」



「そうなんだ!」



 レイは凄い!凄い!とはしゃいでいるのをシャルが落ちないように諫めながら進めていくと馬車は橋の近くまできた。



 見上げるほどの大きな鉄の門には甲冑をきた騎士達が目を光らせ、守っている。



「むむ?何やらトラブルがあったようじゃな」



 シャル達が門の前までくると馬車や人でごった返していた。地べたに座りこんで談笑をしている者もいる。商売魂たくましい者がチャンスとばかりに露店を出しているものもいた。一言でいうとカオスだ。



「俺が見てこようか?」



「んーそうじゃの。アレス頼むのじゃ」



 シャルにそう言われるとアレスは馬車を降りた。



 誰か話やすそうな人物はいないか探す。これだけ人がいるのだ、あたりを見渡すとすぐに見つかった。周辺に荷馬車を止め、焚き火周辺をぐるっと囲み、座り込んでいる集団がいた。多分服装からして商人だろう。



 近づいてみると話し声が聞こえる。



「おや、また新しい新入りがきたぞ!」



 商人の一人がそういった。周りのものもはやし立てる。周りを見るに、皆長旅を旅してきたのだろう。靴底が泥にまみれ、くたびれた様子だった。



 アレスはすぐに返事はせずに、懐から酒を取り出すと話しかけてきた商人へ渡した。



「おお、分かってるじゃねえか!こっちに座りな」



 それを見た商人達は大歓声だ。あっという間にアレスは商人たちの輪に入ることができた。



「どこからこの皇都へきたんだい?」



 先程声をあげた鼻の赤い商人が話しかけてきた。



「ヴェツィという街から来たんだ。少し皇都に用事があってね」



「ほう、水の街か。あそこは一度は行ってみたかったんだ」



「綺麗な所ですよ。近くを立ち寄るさいはぜひ」



「そうだな。今度行ってみようかね」



 しばらく鼻の赤い男と談笑していると、アレスは話の確信にはいった。



「と、そういえば何故皆こんな所で立ち往生しているんだい?」



「なーんだ知らねえのか。今皇都は閉鎖してるんだよ」



 鼻の赤い男は、まってましたとばかりに、アレスにぐいっと近寄ると小声で話だす。



「何でも、今皇都で、大騒ぎになっているらしんだ」



「ほう」



 鼻の男は勿体ぶったように話す。



「首切りさ。朝になると毎日、一人首を切られた死体が現れる。身分も種族もバラバラ。つい最近までは、平民や貧民街の連中ばかりだったんだが、ついに下級貴族の一人が犠牲になっちまった」



「貴族が?」



 アレスは驚いたように口を開ける。



「おうよ。騎士たち大慌て、だから連中は犯人を逃げ出さないように門を閉めて血眼になって探し回ってるわけだ」



 鼻の赤い男は門の前にいる騎士たちに向けて顎をしゃくる。



「なるほど……」



 これは思ってたより大ごとになってるみたいだ。




 アレスはその鼻の赤い男と幾分か話すと話を切り上げシャルの待って馬車へ戻ってきた。



「シャル戻ったよ」



「どうじゃった?」



「んー、何やら皇都の方で事件が起きてるらしい、首切りという連続殺人が出たとか」



「ふむ」



「今は犯人を逃がさない為に門を閉めているらしいけど、ただあくまで中から外にでない為だからね。公爵家と名乗れば通る事はできるんじゃないかな」



「うーむ。その首切りは少し気になるが。今は学園に行かねばならないのでな。問題ないなら行くのじゃ」



「そうだね。サラさん門の前までよろしくお願い致します」



「わかりました」



 御者にいたサラが馬車を門の近くまで進めた。





「そこの馬車止まれ!」



 門の近くまで行くと甲冑を着た騎士に止められる。



「今、門は閉鎖中だ。ここから進ませるわけにはいかん」



「何か皇都で起きたのですか?」



 アレスは知ってはいたがあえて聞いた。商人と情報がどれほど差があるか気になったのだ。



「それは教えられん。今皇都はゴタついてるのだ。ここは通すわけにはいかん」



「そうですか」



 アレスは少し考えるふりをしてから懐から指輪取り出した。



「私たちはランウォール家のものだ、通る事はできないか?」



「ランウォールだと……」



 騎士はアレスの持っていた指輪を確認する。初めは胡散臭そうにしていた騎士だったかが指輪を確認していくうちに騎士は、顔を青ざめさせ「少々お待ちを」と言うと走り出した。



「凄い効果だな」



「そうじゃろ、そうじゃろ」



 シャルはドヤ顔をする。



 しばらくすると、角ばった厳つい顔をした騎士と先ほど走って行った騎士がもどってきた。



「これは、これは公爵様。何かご用向きで」



「皇都に用事があっての。そこの者に止められたのじゃ」



 シャルは先程止められた騎士を指差す。



 角ばった騎士は、その騎士を睨むと



「バカモン!お前はこの馬車についてる紋章が見えんのか!」



「す、すみません」



「その騎士は職務を全うしただけなのじゃ。許してやってくれ。門を閉めておるみたいじゃがのう、皇都に入ることを可能かや?」



「はい。いえいえ、貴族様は別でございます。どうぞお入りください」



 角ばった騎士はぺこぺこと頭を下げると馬車一台通れるくらいの隙間をあけ、アレス達一行を通した。





「何じゃ、簡単に入れたのう」



「ランウォール家の名前は絶大ってことか」



 アレスは指輪を手のひらで転がした。

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