第14話 原初の石

「ランウォールってあのランウォール?」



 ランウォール。



 この国でランウォールとつくものは一つしかない。建国を築いた至高四家の一角。公爵家であり、炎を司る龍族が代々引き継、皇国を何世代も渡り守護している。



 それがシャル?いきなりすぎて、正直戸惑う。確かにシャルは龍族だ。その可能性はある。しかし、公爵家の令嬢があんな一人で街中を歩いているものなのだろうか?のじゃーと走り待っていたシャルを見る。



「どうじゃ、偉いんじゃぞ!」



 シャルは腰に手を当てると偉そうに踏ん反り帰る。



 見えない……。



 その姿を見て、どうしても信じられないが、自信満々のシャルの笑顔を見ると多分、本当のことなんだろう。



「身分が高そうだなとは、感じてはいたけどまさか公爵様だと思わなかった」



「まぁ、正確には父上がそうなだけで、妾はまだ何もないんじゃがな」



「でも、いずれそうなる可能性はあるんだろう?」



「それは、そうじゃな」



「……やっぱ敬語を使ったほうがいいかな?」



 アレスがそう呟くと、シャルがまた同じ問答をするつもりかとジト目を送る。



「シャルはいいかもしれないけど、周りの目があるからね」



「うーむ。仕方ないのう。じゃあ二人だけの時は無しにするんじゃぞ」



「わかった。わかった」



 ぐぬぬと頬を膨らませて、唸るシャルを見てアレスは降参とばかり手のひらをひらひらとふった。



「シャルがランウォール家の者という事はわかった。その父上という事だから、今から会いにいくのは?」



「そうじゃ、ガロン・オブ・ランウォール。アルディア皇国ランウォール公爵家の現当主じゃ」





 アレスとシャルは、休養していた別館を抜け、公爵がいる本館の書斎の前までやってきた。



 普段は商談取引する事も多いアレスだがここまでの大物は始めてだ。街の商人たちとは、格が違う。



 そもそもアレスはごく普通の少し魔道具が使える程度の一般市民だ。貴族なんて雲の上の存在。その中の公爵など雲の上を通り過ぎて遥か高みの上の上そのまた上だ。



 アレスは胃のあたりを抑える。



「なんじゃアレス緊張しておるのか?」



「流石にね……」



「大丈夫じゃ!父上には妾がアレスの事を伝えておる。胸を張っていけ」



「逆に心配になってきた……」



 なんでじゃ!とシャルがアレスの横でぶーぶーと文句を言っているとガチャと書斎のドアがあきメイドが現れた。メイドのサラだ。



 アレスはパンのお礼をしようと口を開こうとしたがそれを目でせいし、サラはアレスたちを中に促した。



「お入りください」



 アレスたちを中に入ると初老の男が上質な皮の椅子の上に眼鏡をかけて座り、書類に何かを書き込んでいた。



 黒い髪を右に流すようにまとめている。獲物を狩るような鋭い眼光、顔に刻まれた縦の大きな傷が歴戦の戦士の風格を醸し出す。顔筋に入ったシワとその相貌は確かな知性を感じさせた。



「ほう、お主がシャルロッテが言っていたアレスとやらか」



 静かだが力強く、轟く声は彼の意志の強さがありありと感じる。



 その力強さにアレスは怯みそうになるが、お腹に力を入れて気合を入れる。



「はい、閣下。私は雑貨屋のアレスと申します。このたびは危ない所を救っていただきありがとうございました。シャルロッテ様におけましても、多大なご足労をおかけしました」



「ふむ。シャルロッテからだいたいの話を聞いておる。ことの顛末もな。あやつが好きにした事が

だ。気にするのではない」



「ありがとうございます」



 アレスは最初の関門は突破したことに胸を撫で下ろす。



 ガロンは、書類から目を離した。



「アレス殿、雑貨屋といったな。ただの雑貨屋である貴公が今回、何故狙われたか。わかるかな?」



 アレスは考える。その事はずっと考えていたことだった。



 ただの一商人であるはずの自分が何故か狙われたのか。銀髪のエルフ……確かレイといったか。レイの言葉を思い出す。いきなり襲ってきたが、戦っている最中に何かを言っていた。なんだったか……石。そう石だ。石で思い起こすことは、シャルが俺の店に来た時のことだ。買い取った贋作の剣から現れた赤い石。それが、今回と関係が?



「私を襲った銀髪のエルフは、石を探していると言っておりました」



「ほう、石か」



チラッとアレスはシャルを見る。



「確証ではありませんが、石について心当たりはあります。私の店に置いてあった剣をシャルロッテ様が触れたさい赤い石が出現しました。多分その石のことではないかと。その石と今回の襲撃に何か関わりが?」



 アレスがそう言うと、ガロンは腕を組み、ふむと呟きシャルの名を呼ぶ。



「シャルロッテ」



「はいなのじゃ、父上」



 ガロンはシャルに促すと、シャルは店で見た赤い石をとり出しガロンの机に置いた。



「その、赤い石とはこれの事かな?」



 ガロンは机に置かれた石を指差す。



 赤い石は禍々しい光を放ちながら、赤く鈍く輝いている。店に置いてあった者と同じものだ。



「はいそうです。どうしてコレがここに?」



 アレスの疑問にはシャルが答えた。



「それは、妾が父上に言われてアレスの店からもってきたのじゃ」



「この石が貴公には何かわかるか?」



「いえ……わかりません」



「シャルロッテは、どうだ?」



「わかりませぬ。ただ凄まじい力を秘めていることは感じます、のじゃ」



 シャルが最後にとってつけたように、のじゃを付けたのをアレスは聞き逃さなかった。古風な喋り方をしていると思ったが、父親の前でも貫き通す姿勢にアレスは謎の関心を覚えた。



「そうか。これは純粋な力の根源。この石の名は原初の石という」



「原初の石……」



「古来からこの石の所有権を巡って幾度も争われてきた。原初の石を手にしたモノは莫大な力を得ると言われておる。この石は五つある宝玉の一つだ。今現存する石は二つ。一つは妖精の国、ルーディア。もう一つは魔法国家のガルガンティア。他3つは魔界大戦で失われたはずだった。まさかこんな所にあるとはな」



「そんな話聞いた事ありませぬのじゃ」



「これだけの力だ。悪用されたら困る。情報は秘密にされている。しかし、ある程度の力を持っているモノならば周知している事だろう」



 アレスは禍々しい光を放つ赤石を見る。



 そんな危険な物だったのかとアレスは肝を冷やす。

……書類の文鎮代わりにしてたのは、絶対言わない方がいいだろうな。



「この石の正体はわかりました。この石は私が扱うには重すぎます。もし良ければそちら側に譲渡したいのですが」



「いいのか?凄い力が手に入るみたいじゃぞ?」



 莫大な力を得ると説明を聞いて何も興味を示さないアレスにシャルとガロンは驚いた顔をする。



 凄い力と言ってもアレスはただの商人なのだ。それにうちは手に負えない商品は買い取らないって決めている。

 アレスは再度口をを開こうとするが、ガロンの言葉がそれを否定した。



「それは無理なのだ。この石は所有者を選ぶ。今現状、所有権を有しているのはおそらく貴公だ。その石に手をかざして見てくれ」



 アレスは右腕をかざした。手の甲に幾何学的な模様が浮かび上がった。



 それを見たガロンはやはりという顔をした。



「その刻印は石の所有者の証。元来この石たちには正当な継承の力を持つものしか封印が解除されないようになっているのだが、今回シャルロッテによって貴公が所有権を有したまま封印が解除されてしまったようだ」



 アレスは仕事中に光ったら邪魔そうだなと手を見た。正直言うと、もういきなりとんでも話すぎて、アレスにはついていけなくなっていた。



「急な事だろう。貴公が混乱するのはわかる」



「すみません……」



「しばらくは、ここにおるがよい。客人として扱おう。シャルロッテ」



「はい、なのじゃ」



「知らなかったとはいえお前にも、責任がある。しばらくはアレス殿の護衛を命ずる」



「無論なのじゃ!」



 ガロンの話が終わると、アレスは言われるがままシャルに引っ張られ書斎を出ていくのであった。

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