第15話 店
後ろを歩くシャルを見つめる。
「シャル」
「なんじゃ?」
「助けてくれて、ありがとう」
アレスは改めて、シャルに感謝した。
シャルは体をピクッと震わせる
「……あらたまってなんじゃ」
「いや、まだ言ってなかったな、って思って」
アレスがそういうと、シャルは何故かこちらを伺うような、怒られるのではないか恐れているようにおどおどしていた。
「どうした?」
「あー。……その。店。すまんかったのじゃ……」
「……」
「アレスが襲われたのは妾のせいじゃった」
アレスは店と言われて、砕け散ってバラバラになった商品たちを思い浮かべる。人生をかけて、頑張ってきた自分の店が破壊された光景を思い出しアレスは目頭が熱くなるのを感じた。
「妾がアレスの店に行きたいなどと言わなければ、こんなことも起きなかった。すまんのじゃ」
シャルはぐるっと振り返るとただの平民であるアレスに向かって深々と礼をした。
それを見たアレスは流石に慌てる。
「顔をあげて。シャルのせいじゃないよ。そもそもあの石が入った剣を買ったのは俺。そんな曰く付きの品を買い取った自分自身が悪いんだ。シャルが謝ることじゃない」
「じゃがのう……」
「質屋をしているとそういう事もあるんだ。盗品が持ち運ばれたりね。それにシャルのおかげでこうして生きていられる。もう一度いうよ、ありがとう」
アレスは胸ほどの高さにあるシャルの頭をポンと手を置いた。
「うぅぅ」
アレスはグズグズ泣いてるシャルを慰める。
「今度……」
「?」
「今度、またポッポ焼き食べに行くのじゃ」
「ああ、わかったよ」
シャルといったん離れてアレスは別館に戻ってきた。
ベットに転がる。
仰向けになって天上を見上げながら、手の甲を見る。先程ガロンとの対話で現れた模様は今そこにはない。いつも見慣れた自分の腕があるだけだ。
「原初の石ね……」
力というものにはアレスは興味はない。自分は兵士ではないのだ。
そんな石のことより。シャルにはああは言ったがやはり自分の店をどうするかで頭がいっぱいだった。
質入れしていた商品もある。この後にくる多額の賠償金を考えると気分が憂鬱になる。
アレスはガロンから手元に戻された赤い石を取り出した。鈍く怪しげに光る石はアレスの顔を照らす。
「力じゃなくて、今はお金がほしいよ」
そう呟くと石は反発するかのように光をさらに発光したように見えた。
いっその事、この石をお金に変えてしまいたい。でもガロンは、所有権がアレスにあると言っていた。どうにかして譲渡できないもの何だろうか?
自分ではどうしようもない現状に、ため息をつくとアレスは赤い石をしまった。
シャルの屋敷で幾日か世話になって数日がたった。
「邪魔するのうアレス」
扉をノックしてシャルが入ってきた。
「ちょっと今大丈夫かのう?」
「ああ大丈夫だよ」
「アレスを襲った銀髪のエルフなのじゃが、どうやら目覚めたらしいのじゃ」
「本当か!?」
襲撃事件から拘束されたレイは、いつにたっても目が覚めないでいた。
それがようやく今日目覚めたと言うのだ。
ただシャルは何やら歯切れの悪い顔をしている。
「ただ、ちっとばかし厄介な事になっておってのう。口で説明しづらいから直接来てくれぬか?」
「ああ、わかった」
シャルの微妙な表情にアレスは気になったが、見れば分かるというので、レイに直接会いにいく事にした。
アレスはシャルの後ろをついていく。本館の地下室の階段を降り、少し進むと硬い扉が現れた。
「あのエルフはここにおる」
そうシャルが言うと扉を開ける。
アレスは牢屋のようなものを想像していたが、室内は思ってたより普通だ。質素なベットと小さなイス。銀髪の少女レイは右手首を鎖につながれベットに座っていた。
「……」
シャルとアレスが部屋に入ってきてもレイは、ぼんやりと宙を見つめる。
「レイさっきほどぶりじゃのう」
シャルがレイに向かってそう喋ると、レイはアレス達にようやく気づいたのか笑みを浮かべた。
「あ、シャルまた来てくれたんだね!そちらの人は?」
レイはコテンと頭を傾げた。
「アレスと言う。妾の大切な友人じゃ」
「そうなんだ!私レイって言うの!アレスよろしく!」
レイは鎖の繋がった腕をジャラリと言わせ、アレスに向かって屈託の無い笑顔を浮かべた。
「あ、ああ。よろしく」
アレスはそのレイのあまりの豹変ぶりにシャルに向かって戸惑った顔をする。
「これは、どういう事なんだ?シャル」
「うーむ。妾にもわからないのじゃ。目覚めたはものの、ずっとこの調子でな。最初は演技だと思ってたのじゃが、どうやら完全に記憶を失っておるようなのじゃ」
アレスは再度レイに向き直る。ふわふわとしながらニコニコしているレイを見る。邪気のない無垢な笑顔は、自分を殺そうとした自分と同一人物だと思えなかった。
アレスはレイに近づく。
「雑貨屋を知っているか?」
「雑貨屋?」
「お前に破壊された、俺の店だ」
「……」
「本当に、覚えていないのか?」
「……?」
レイは不思議そうな顔をしてアレスを見上げる。
理不尽に自分の店を壊しておいて、壊した張本人は記憶を失いその事を忘れている。
アレスはやり場のない怒りがふつふつ湧いてくるのを感じた。
「……アレス」
「すまん、少し外の空気を吸ってくる」
「わかった」
アレスは高ぶる感情を抑えると、部屋をでた。
「ふぅ……」
アレスは大きくため息をつく。
あのまま、あの場所にいたらどうにかなってしまいそうだった。まだ怒りがおさまらない。
アレスは悶々とした気持ちのまま空を眺めていると後ろから気配を感じた。
「こんな所で何をしているんです?」
アレスは後ろを振り向く。
ぶかぶかの鎧を着たリリアンの姿があった。
「リリアン……。ちょっと空を見に」
今日の空はあいにくの雲模様だ。リリアンはチラッと空を見つめ、あえてそれには触れず、アレスの横に座った。
「どうしたんですか?そんな顔をして」
「……別に」
「不貞腐れて、そんな姿アレスさんらしくないですよ」
「……」
「今アレスさんのどうしようもない気持ち、少しわかります」
アレスはリリアンのその言葉に少し血が昇る。
「俺の気持ちなんてわかるわけがない!店は俺の全てだったんだ」
「……。私は商人ではありません。ですから本当の意味でアレスさんの気持ちは確かにわからないです」
「……私今回の戦い、完全に足手まといでした」
リリアンは唐突にぽつぽつと話し出す。
「盾を破壊され、時間稼ぎすらできなかった」
「シャル様は凄かったです。私なんて足元にすら及ばなかった」
「騎士失格です」
「……シャルから」
「えっ?」
「シャルから聞いた。回復魔法の時間を稼いでくれたって。それにレイのナイフを止めたのはリリアンの盾だ」
「だから騎士失格じゃない。少なくとも俺は生きてる」
「……はぁ、ダメだなー。慰めようとしたら、逆に慰められちゃいました」
リリアンは石を拾い投げる。
「知ってますか。気分が沈んだ時は、全力で走るのがいいらしいです」
リリアンはアレスの手を掴む。
「走りますよ!」
「えっ?」
「ほら、早く!」
リリアンは強引にアレスを立たせると走り出した。
「はあ……はあ……」
「どうです?気持ちいいでしょう」
「気持ちいいを通り越して、倒れそうだよ!」
アレスは大の字で横になる。雲っていた空が晴れていた。
「……まあ、でも。多少は気分が晴れたかな」
アレスはグッと背を伸ばす。
「シャルの所行ってくる」
リリアンが頷いたのを見るとアレスは走り出した。
「あ、アレス」
シャルは、アレスが入ってきたのに気づく。
心配そうに声をかけるが、アレスはもう大丈夫だと言うとレイに近づいた。
レイはアレスに気づくと泣きそうな顔をして謝罪した。
「あ、あのゴメンなさい。私何かあなたに対して失礼な事をしたみたいで」
「……記憶がないんだって?」
「……はい。そうです」
アレスは大きく息をはいた。
「俺はアレスっていう、君の名前はレイだったかな?」
レイはコクっと頷いた。
「こっちもさっきはゴメン。俺も混乱していたんだ。許してくれ」
レイは泣きそうな顔をして、ぶんぶんと顔をふった。
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