第13話 目覚め
「知らない、天井だ……」
アレスは目を覚ました。
銀髪の少女の激戦、シャルとリリアンの救出、自分の店の破壊と、色んな事が同時に起こりすぎてアレスは混乱する。
ただの商人になのに何故?銀髪のエルフの目的はなに?そういえば石と言っていた。石?直近だと冒険者から買い取った贋作の剣を思い起こす。まさかそのあの石が原因?分からない。アレスは頭をふる。
「ふぅ……」
体を起こすと、アレスは気怠さと倦怠感を感じた。体はシャルの回復魔法のおかげで完全に治りきってはいたが、失われた体力を戻すには、まだ時間がかかりそうだった。
「そういえば、ここは?」
体を起こした。混乱していた頭が冷えて少し冷静になったのか、辺りを見渡す余裕がアレスにできた。
豪奢なベット、というほどではないが、しっかりとした頑丈な作りに、シーツは滑らで肌触りがいい。部屋事態はこじんまりとした部屋だが機能的で落ち着きのある空間がアレスを安心させてくれる。
体を伸ばしベットの近くの窓を覗くと、木々が邪魔し、完全な外観を見ることはできないが、どこかの別館の一つだろうと言う事は推測できた。
アレスはここがどこかは分からなかったが、自分にはどうする事もできない現状、誰かがくるまで待つしかないと考えベットの中に再度入ると静かに目を閉じ安静にした。
しばらくすると、ぎ、ぎ、っと床の木材を鳴らせながらこの部屋に誰かが近づいてくるのを感じる。コンコンとノックすると、一拍おいてドアが開かれた。
ドアの向こうでは、メイドが立っていた。足まである黒いロングスカートに白いエプロンとレース。伝統と静謐さを合わせもった、典型的なメイド服姿に黒い髪を後頭部にまとめている。ギュッと閉まる口に切れ長の鋭い眼光がどことなく冷たい印象を受けるが、しかし彼女のメイド服姿は、その冷たい印象とは裏腹に自然体で似合っていた。
「おや、目覚めていたのですね」
その女性は、アレスが目覚めているのに気づくと部屋に入ってきた。
「あなたは?」
当たり前だがこの女性と面識のない、アレスは少し面をくらう。
「シャル様に仕えているサラと申します」
彼女がそう名乗るとアレスに向かって完璧なお辞儀をする。突然のメイドの来訪にアレスは若干戸惑いつつ気を取り直して質問をした。
「サラさんですね……ここは、どこか聞いても?」
「ここは、シャル様のお父様が所有している御屋敷です」
「御屋敷?」
アレスは、この家が大きな家だと予測はしていたが、驚く。窓から覗く景色をもう一度みようと体を動かすと、サラに止められる。
「まだ体力も完全に戻っていないでしょう。しばらくここで安静にしていてください」
アレスは、あの後どうなったのか、銀髪のエルフは?そして自分の店は?シャルたちは無事なのか?矢継ぎ早に質問責めにしようとするがアレスが口を開く前にサラ先に口を開いた。
「色々疑問に思う事もあると思います。混乱している事でしょう。シャル様がいらっしゃった時に、シャル様の口から教えていただけると思います。今はゆっくりお休みください」
サラはアレスにそう諭すとアレスの体を支えゆっくりとベットに横たわらせた。
ベットに横たわると、ドッと倦怠感と睡魔が同時に襲ってくる。今のわずかな問答だけであったが、それでも体力を使ったのだ。アレスはそこで自分が体力をかなり消耗している事に気づく。釈然としない気持ちもあったが睡魔に負け、アレスは意識を手放した。
鳥の囀声に促されて、アレスはこのベットではニ度目の朝を迎えた。
体を起こしてみる。
ずっとベットで眠っていたからか、凝り固まった体の筋肉の節々が痛むが、前回目覚めた時よりもだいぶ調子が良くなっているのをアレスは感じた。
大きく伸びをすると、ベットのそばにはパンとぶどう酒が置いてある事に気づいた。ぐぅとお腹がなる。昨日から何も食べていなかったのだ。誰が置いたか分からなかったが、多分眠る直前にきたサラあたりだろうと考え、あの冷たい顔をしたメイドに感謝をしつつパンを齧る。
普段街で食べているパンよりも混じりものが少なく、もちもちとした弾力があった。恐らくパン種、酵母の質が良いのだろう。焼き加減も完璧でパリパリとした食感は食欲をそそる。一口食べるたびにこのパンを焼いた者の腕の良さがはっきりとわかった。
パサパサになった口をぶどう酒でぐいっと飲み干し、アレスはそれを瞬く間に完食した。
「ふう……」
サラさんには感謝しておかないと、そう考えると。パンに夢中になって気づかなかったが綺麗に折り畳まれている服が横にある事に気づいた。アレスは服を広げてみる。
ボリュームのある胸元に、ゆったりとした服だ。繊維がきめ細かく肌触りの良い質感で、備え付けようのベルトとズボンも合わせておいてあった。いかにも貴族が着るような服装にアレスは少し苦笑いをうかべるが辺りを見渡してもこれしか着るものはない。背に腹は変えられぬ。しぶしぶながらアレスはその服に袖を通した。
服を着替え身支度を整えると、ちょうどそのタイミングでドア勢いよく開いた。
「アレスおるか!」
聴き慣れた声、シャルだ。かかっと笑い、アレスはいきなり現れたシャルに呆気に取られる。ただ、シャルのその豪放磊落の姿に不安定だった心に安心感を覚えたのも確かだった。
「おお!起きてたか!ふむふむ馬子にも衣装じゃのう」
シャルは用意された服装を着替えたアレスは見て、うんうんと頷く。
「体調はどうじゃ?」
「はい、お陰様で幾分か体調を戻す事ができました」
「そうか、そうか」
「それに食事をとらしてもらいました。服も。何から何まですみません」
「よいよい。ふむ……。お主また言葉遣いが戻っておる。敬語はいいって言っておったじゃろ。前回の時みたいに頼むのじゃ」
「しかし……」
シャルは腰に手をあてアレスを強く睨む。
「……わかったよ。シャル」
「よし!」
アレスは観念したように一つ、ため息をつくと言葉崩した。シャルはそれを聞いて満足そうな顔をする。アレスはあまりにも強引なシャルに少しばかりの苦笑いを浮かべた。
「こんな、高そうな服、俺が着てもいいのかな?」
「良い、良いのじゃ。どうせ余っておったからのう」
アレスは自分の身分とは不釣り合いな服装に恐縮そうな顔をうかべたが、シャルは何処のふく風、気にするなとばかりに笑った。
「そういえばアレスが来てた服装じゃったがのう、損傷が激しかったから、今裁縫師に修復してもらっているのじゃ。今はその服で我慢するのじゃぞ」
肌触りのよいこの服にアレスは着なれさを覚えたが、そういう理由なら仕方ないとわりきる。
「色々きになる事もあるじゃろ。まとめて説明するから、父上のとこまでとりあえず来てほしいのじゃ」
「父親のところまで?そういえばシャルって?」
アレスはふと、疑問に思う。シャルがどこぞの偉い身分か豪商の娘か何かだろうと言うことは、言葉の節々から感じとってはいた。しかし、これだけの屋敷と力をもつのだ。只者ではない事は分かってはいたがハッキリとした事は分からず、シャルとは何者なのか改めて気になった。
「おお、そういえば言ってなかったのう」
シャルはぽんと手を叩く。
「妾の名前は、シャルロッテ・オブ・ランウォール。アレスにはランウォールと言う名前の方がわかりやすいかのう?」
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