第10話 雑貨屋と少女 戦闘1
ナイフが迫る。
鋭利の軌道をかいて確実にアレスの命を刈り取ろうとする死神の鎌。
アレスはとっさに回避しようとするがもう遅かった。
アレスの胸にナイフが突き刺さる。衣服を切り裂き柔らかい肌にナイフが届こうとした時、銀髪の少女のナイフは、石の硬い衝撃をうけ弾かれた。
「ぐぅ……」
ぼたぼた服の隙間から血が溢れ滲む。アレスはあまりの激痛に意識が飛びそうになるがグッと歯を食いしばりたえた。
服の切れ目を見ると、傷はそこまで深くない。よく見ると先日、回復薬を作る際に胸ポケットに入れていた勾玉が粉々に砕けていた。
「ローチェさんには……後で感謝しないとな」
「ごめんなさい、ごめんなさい。……うぅでも怒られちゃうの。だからね、だから殺さなきゃ」
少女は泣きそうな顔をしながら、ナイフを構える。
はぁ……。最近は厄介ごとばかり起きる。ただただ俺は雑貨屋で商売をしたいだけなのに。一体何なのだ。俺が何をしたって言うんだ。訳のわからない理不尽に怒りばかりが募る。
胸に手を当てた。じわっと滲む刺すような痛みが熱くなったアレスの思考を冷静にさせた。
自分を襲った襲撃者を見た。耳から見るに多分エルフだろう。何故こんな場所にエルフが?そして何故俺を殺そうとする?わからない。わからない事だらけだ。ただ一つ言える事は逃げなきゃ死ぬ。ただそれ一つだけだ。
「っつ!」
アレスは混乱した思考をなんとか冷静を保たせながら逃げる算段を考えていたが、しかし彼女の行動に思考を止める。そんな時間を銀髪の少女、レイは与えてくれなかったからだ。
レイは少女とは思えない脚力でアレスに近づくと、今度は胸ではなく首を狙ってナイフを向ける。
「くっそ!」
あまりの速さに、とっさに回避しようとしてアレスは石畳のレンガに躓いた。アレスは一瞬頭が真っ白になるが、しかし今回ばかりはそれが項を奏した。
躓いた拍子で尻もちをつき、そのアレスの頭の上をナイフが通り過ぎたのだ。
「は、話し合おう。君は何が目的なんだい?」
「石……」
「石?」
「石を渡して」
銀髪の少女はアレスに向かってナイフを向ける。
「宝石か?それとも何かの鉱石か?うちは買取もしているんだ!石なんていくらでもある!」
「硬いやつ?」
銀髪の少女は可愛らしく頭を傾ける。
「硬いじゃ分からない!もっと具体的に教えてくれ!」
「うぅぅ、わかんない」
頭を抱えてしばらく悩むが、すぐに銀髪の少女は頭をふり、考える事を放棄した。
「……。いい。あなたを殺して自分で探す」
「なんでだよ!なんでそう極端なんだ!頑張って考えろよ!」
アレスは思わず突っ込むが、銀髪の少女の目つきはマジだ。
石?石ってなんだ?考えろ!考えるんだ!
「2度も同じ、こと、ない」
「ああ、もう!」
銀髪の少女、レイが走りだす。同じタイミングでアレスはいつも腰につけているポーチから魔道具を取り出した。
すぐさま魔道具を構えるが、時すでに遅し。すでにレイのナイフは眼前まで迫っていた。
アレスにはこのナイフが来る事はわかっていたが、避けることはできない事もよく分かっていた。無情にもナイフは深々とアレスの首に突き刺さる。致命傷だ。
「ん?」
しかしレイは首に刺したナイフのあまりの手応えのなさに疑問を覚える。
横からの気配に気づく。
レイはとっさに回避しようとするが、アレスの方が一瞬早かった。
レイの顔面に光弾が炸裂する。光のスペルを圧縮して詰めたものだ。魔力を込めて投げると光が一気に炸裂して、相手の視界を塞ぐ。並の人間なら至近距離でくらえばたちまち気絶してしまうだろう。
「ぐぅ……」
至近距離で光弾をくらいよろめいた所をアレスはレイを突き飛ばした。
レイは真横から衝撃を受け、ナイフを落とし転がる。
「うぐぅ……どうして?」
「魔道具さ……。光は曲がるんだ。光魔法で屈折させれば、自分の幻惑を見せる事もできる」
アレスはナイフを拾い上げる。
「……ナイフ」
アレスはレイにナイフを突きつけた。
「何故俺を襲うんだ。ただの雑貨屋だぞ!」
「……して」
「ん?」
「ナイフ返して!!!!!」
レイは金切り声を上げると、目を閉じたまま、アレスに近づき思いっきり蹴り上げた。あまりの速さに魔道具を使う暇もなくアレスはボールのように吹き飛ばされる。
店の壁に激突し商品を巻き込んで、いつも店で使用しているお気に入りの台で止まる。肋骨が何本か折れたようだ。息ができない。
「……もうなんなんだよ」
砕けて折れ曲がった扉を見る。整然と並んでいた商品はバラバラに砕けちり、昨日作ったばかりの回復薬の原液も床に落ち緑色の液体が床に流れていた。
「明日から臨時休業かな……」
わずかに残った気力で回復魔法を使いながら、店の外にいる、大事そうにナイフを抱える銀髪の少女を見る。
レイはゆらっと立ち上がると、店の壁に寄りかかっている瀕死のアレス近づいてきた。
「君が何を目的にここに来ているか分からないが……商品が欲しいなら店があいてる時間に来てくれ……」
「……終わり」
銀髪の少女レイがそう呟くと、ナイフを振り上げた。
アレスはやってくる痛みに思わず目を閉じる。
……。
じっと待つ。だが、いつまでも痛みがこない。
恐る恐る目を開ける。
「つい先日ぶりじゃのうアレス?」
目を開けるとそこには、ふてぶてしい態度をしたフードの少女シャルと、ナイフを盾で止めたリリアンの姿があった。
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