第8話 回復薬
「いらっしゃい」
カランコロンと軽快なベルの音が鳴った。
「アレスいるかー」
腰にレイピアのような細い剣をベルトにくくらせたインチキくさい男が入ってきた。
「やあローチェ久しぶりだね」
「お、いたいた。昨日店に寄ったんだけどいなくてな。今日は、いるかと思って覗いてみたんだ」
「すまない。昨日は少し用事があって、店を閉めていたんだ」
「今日は回復薬とトーチの補充をしておこうと思ってな。ギルドでも補充できるんだが、やっぱアレスの店の回復薬の方が効果がいいんだ。……それに味もうまい!」
「それはありがたい。ただ回復薬の在庫を切らしていてね。材料ならあるんだが。ちょっと待ってもらう事になるけど、必要数は用意するよ。それでもいいかい?」
「おお、大丈夫だぜ。今日はそんなに急ぎの用はないからな」
「了解。いくつ必要なんだ?」
「とりあえず5本ほしい。いくつかクエスト依頼を受けるつもりなんだ。そこまでの高難易度ではないが、備えあれば憂いなしってね」
「5本ね。わかった。じゃあできるまで、そこら辺の商品を見ているか、街でも散策していてくれ」
「回復薬を作ってるのはアレスなんだっけ?」
「そうだね」
「それは凄い!どこで覚えたんだ。調合なんて商人が覚える時ないだろう」
「昔の杵柄でね。ちょっとした回復薬の調合や回復魔法くらいなら使えるんだ」
「凄いな。……冒険者にならないか?アレスは素質あると思うんだが」
「ありがとう、でも俺はこの雑貨屋という仕事を気に入ってるんだ」
「そっか。いや今言った事は忘れてくれ、回復薬頼むな。ギルドに寄ってからまた来る。昼ごろには戻れると思う」
「わかった。昼ごろまでには用意しておくよ」
ローチェはそういうとカランコロンとベルを鳴らして店から出て行った。
アレスは店の裏側に引っ込むと、調合部屋に入った。棚には瓶が種類ごとに並べられており、瓶の中にはいくつかの薬草や、香辛料などの見知ったモノから、枝のようなよくわからない物まで所狭し並んでいた。
「えっと回復薬に必要な材料はと……」
何度も作っている商品だけあって、アレスは慣れた手つきでいくつかの材料を取り出した。
黄色の柑橘の実を輪切りにしたもの、細い枝のような丸い棒の香辛料を二本、活力の種数粒と黒いスタミナ剤、魔法の効果を増幅させる液体が入った小瓶、先日買ってきた薬草をすり潰して粉状にした緑の粉と店の裏の井戸から取ってきた水入りの容器一つだ。
アレスは銀色の鍋を文字の書かれた石の上に置くと呪文を唱える。髪の毛がふわっと上がり、手に力を集中させた。
するとアレスの腕から石へ魔力が伝わり、熱を帯び始めた。手をかざすと鍋にしっかりと熱が伝わっているの感じたアレスは、先日買って粉状にした緑の粉を鍋の中に入れた。次にどぷどぷと水を入れ、柑橘の実、香辛料の丸い棒、活力の種、スタミナ剤も同時にいれる。魔法増幅の液体も軽く降り、15滴ほど入れた。
それだけの物を入れると鍋の中はごちゃ混ぜになって、見た目はあまりよろしくないが、欲しいのはエキスだけそれ以外は後で捨てるから大丈夫だ。
活力の種が柑橘の実に重ならないように軽くおたまでぐるっと混ぜると、鍋の容器の上に蓋を置き、密閉する。
その状態で沸騰まで待つ。
しばらくして程よい感じに沸騰してきたらアレスは蓋を開けた。柑橘の香りがただよっていい感じだ。
30秒ほど煮出たせてから、スペルが書かれた石に魔力を送り、熱を止める。再度蓋をして粗熱をとった。
「この次の工程は一晩寝かせるのが一番なんだけど、仕方ない冷却で一気に冷やそう」
納品はお昼だ。今回は仕方ない。アレスはそう考え、アクセサリーをガサゴソと胸ポケットからとりだす。細い紐に勾玉のような石が縛られている。アレスはその石を手でぶら下げると沸騰された鍋に向けて、魔力を送った。
すると鍋の蓋に水滴が溜まり始め、あっという間に鍋から熱が引いていくのがわかった。この道具は対象物の熱を奪う道具だが、対象物は鍋のほどサイズしか効果を発揮することができない。使い道が限られ、普段ではあまり使い道がない魔道具だがアレスはもっぱら料理や調合に重宝していた。
勾玉をしまい、鍋の蓋を開けてみる。緑色の粉の色と柑橘の薄い黄色が混じった、何とも言えない見た目にはなっているが、香辛料と柑橘の爽やかな香りがいい感じだ。
調理用の網を取り出す。柑橘、香辛料や活力剤の種などの不要になった抜け殻や沈殿物を網で取り除きエキスだけの状態にした。
アルコールで消毒した瓶を用意し、スパイスなどの粉を網で濾しながら回復薬の原液を瓶に移し替える。
「よし、原液ができた」
アレスは、ペロっと原液を舐めた。急造にしては良い出来栄えに満足そうな顔をする。
注文があった5つの瓶を用意して、小さなカップ一杯分、原液の瓶からとりだし、それぞれ入れていく。原液を入れ終わったら魔力効率の良い聖水を瓶いっぱいにいれ、魔力が抜けないようゆっくりと混ぜると出来上がり。
「完成。昼までには、間に合ったかな」
完成した回復薬の小瓶をギュッと蓋を閉め、紙を被せ紐でしばり、保存用の台に回復薬をしまった。昼までローチェがくるまでに調理器具と調合薬をしまい後片付けをする。
カランコロンとドアのベルがなった。
「やあ、アレス回復薬できてるかい」
回復薬を注文したローチェがきたのだ。
「できてるよ」
アレスはつい先程できたばかりの回復薬を店の棚の中から取り出した。
「おお、ありがとう!」
ローチェはアレスから回復薬を手に持つと蓋を開け回復薬の香りをかぐ。その出来栄えに満足したのかアレスに向かって親指を立てるとうんうんと頷く。
「んんーこれこれ。やっぱアレスの回復薬じゃないと、もうダメなんだ。ギルド産の回復薬は不味くてしかたない。いったいどうやって作ってるんだい?」
「それは、企業秘密」
「くぅー、やっぱ教えてくれないか。いつか絶対レシピを聞き出してやるぜ!一つ120ダットだったかな?」
「そうだね。5本だから600ダット」
「600ダットね。了解」
ローチェは懐から銀貨6枚を取り出した。
「まいどあり」
「さんきゅー。助かったよ。また頼むぜ」
そう言うとローチェはアレス産の回復薬を手にとり、ほくほく顔でアレスのお店を出て行くのだった。
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