第3話 フードの少女
「どうしたんだい?こんな所で?」
アレスが声をかけるとフードを被った子供はビクッと体をハネらせた。
「な、なんじゃ!」
高い声が聞こえた。子供だからわかりにくいが多分女の子。
「いや屋台の前でキョロキョロしているから気になってね。迷子かな?」
「……っ!迷子なのではない!庶民達がどんな暮らしをしているか気になっての。今日は直接この目で見に来たのじゃ」
偉そうに踏ん反り返る。
「ほう」
声からは確かに威厳のようなカリスマのようなモノを感じるが、いかんせん身長が低いせいか、逆にそれがより子供が背伸びしているように見えてちんちくりんに見える。
「そうなんですか。お付きの人がいないようですが、今日は1人で?」
「あ、いやそれは。……」
んー何か事情がありそうだ。あまり深く関わらない方がいいだろう。
「すみません。お手を煩わせました。それでは私はこれにて」
「お主……」
「はい、何でしょうか?」
「ここに来たということは、そこの露店で串焼きを買ってくるんだろう?」
「そうですね」
「すまぬが、妾のために一本買ってきてはくれないか?」
フードの少女は物欲しそうな目で屋台を見る。
「よろしいですが、ダットはもっているのでしょうか?」
「ダット?それはなんじゃ?」
「この国の通貨です。銅貨、銀貨、金貨があります。銅貨100枚で銀貨1枚の価値。銀貨10枚で金貨1枚の価値。更にその上だと金貨1000枚で白銀1枚なんて貨幣もありますが、流石にここまでくるとただの街商人では扱う事はそうそうありませんね。1ダット=1銅貨です」
「ほうほう、それじゃあの、香ばしい匂いがする食べ物いくらするのじゃ?」
「ポッポ焼きが2本ですと、1銀貨と20銅貨ですね」
「という事は1本、60ダットという事か。なるほどなるほど」
世間知らずだが頭の回転は悪くなさそうだ。
「すまんな、今日は何ももたずに飛び出して来てしまったのじゃ。その銅貨とやらは持ち合わせておらん。困ったのう」
そういうと、フードの中をがさがさと漁り始める。
「……通貨というものは持ってはいないのじゃが、これでなんとかならないかのぅ」
少女は金のチェーンに繋がった立派なリングを取り出した。
台座は太いずっしりとしっかりと形だ。少女の指には明らかにサイズがあってないのがわかる。クリスタルのガラスに覆われ、その中にはこの国の象徴である天を見上げる鷹と獅子の紋章が刻まれている。リング中心には小ぶりのダイヤがあしらわれていて、これだけでもかなり値打ち物だと分かった。
「これは?」
「いや、父君に貰ったのじゃが、ちっとばかし妾の趣味じゃなくての。これで足りぬか?」
「足りないどころか王都で立派な家が一つ立ちますよ。こんなもの受け取りません!」
「ぬぬぬ、困ったのう。うーぬ、そうじゃ!では、こうしよう!今日一日この街を案内してくれ!」
フードの少女はこれは、名案だとばかりに仕切りにうないずいている。
家が建つほどのリングと道案内一回では、全然割に合わないと思うがフードの少女も引く雰囲気ではない。アレクは一つため息をつくと、諦めたように答えた。
「わかりました。では、雑貨屋アレスが今日一日、この街の観光案内をしましょう」
「本当か!」
アレクがそういうと目を輝かせた。フードで顔は見えないがそういう雰囲気は感じたのだ。正直言うとアレク自身もこの少し偉そうな少女の事が気になっていた。
「では、まずポッポ焼きを買ってきますね」
「うむ頼む!」
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