第2話 市場
寒い。朝早く店の前を掃除しよう起きてきたのだが、朝の肌を刺すような寒さにアレスはすでに後悔をしていた。
首に巻いたマフラーをぐいっとあげる。少しマシになる。
店の入り口は普段毎日掃除しているからか、そこまで荒れてはいない。ただ、今日はせっかくなので普段やらない部分もやってみる。
まぁ凝り性という事もあって掃除もやってみると結構面白い。自分が努力した分しっかりと反映され綺麗になってる事が視覚的にわかるからやる気もでる。
そんな朝からアレスがせっせと掃除していると、狩人のザックが通りかかった。
「おはよう、アレス。朝から掃除かい?」
「やあ、ザック。おはよう。朝早く目が覚めてしまってね。もう一度寝るのもなんだかと思って、時間潰しに掃除してるんだ」
「おー、そうなのか」
「ザックも今日は早いね?何か用事でも」
「なーに、仕事さ。昨日仕掛けた罠が気になって、見に行こうかなっと思って」
「今回は何を狙っているんだい?」
「魔猪さ。最近は繁殖しすぎて、食料に困った魔猪がローランの森から村に降りてきて、畑を食い荒らして周るからな。駆除せなならん」
「あー魔猪か。あいつらは定期的に増えるからね。ただ魔猪の皮はコートの皮に使えるし、牙の装飾、肉も食える。厄介なモンスターだが金にはなる。ザック、もしよかったら魔猪をうちに売ってくれないか?ギルドよりは高く買取るつもりだよ」
「ああ、いいぜ。狩が終わったらまたアレスの店による」
「ありがとう、魔猪の皮はこれから寒くなって需要も増えると思うんだ。助かるよ」
「じゅ、何だかわからんが、アレスには借りがたくさんあるからな。お安い御用だぜ。じゃあな」
ザックは片手をあげるとアレスから離れていった。
早起きは三文の徳。皮が手に入るなんてラッキーだ。今日は何だかいい日な気がするなぁ。
アレスは鼻歌を歌いながら開店までの間、店の前をピカピカにした。
「んー、回復薬が足りないなぁ」
薬棚を整理していると、回復薬が足りなくなっているのに気づいた。冒険者ギルドに近いこの店は、雑貨のついでに回復薬を補充していく冒険者も多い。普段なら在庫は用意してあったのだが、つい最近大量にギルドから購入依頼がきて在庫を切らしていたのだった。
「他の商品もいくつか仕入れておきたいし、今日は市に行こうかな」
そう決めると足りない用品をメモにとり、いつも愛用のななめがけのバックをかけると店を出た。
この街は綺麗な街だ。水路が張り巡らされていて主な交通手段は小舟の移動だ。大きな聖堂もいくつかあり、街の中心にある大きな鐘はお昼の時間を知らせてくれる。
露天に出ている商品を物色しながら歩いていると市場についた。今日もかなり賑わっている。大きな水路とつながっており、小舟から直接商品がおろされるとすぐに、目の前の市場に流される仕組みだ。
「やあアレク今日は何をお探しかな?」
「ダレン、今日は薬草が欲しくてね。つい最近大口客が入ってね。在庫を切らしてしまったんだ。薬士から買うと高くつくから、自分で調合しようかと思って」
「薬草かー。うーん。一応あるにはあるんだがあまり数はないね。それに最近薬草も取りづらくなっていてね。通常より少し割高になるけど買っていくかい?」
「いくらなんだい?」
「いつもなら1つ50ダットだが、今日は80ダットくらいかな」
「80ダットか。少し高くないか?」
「魔猪が増殖してるって話知っているかい?」
「ああ知ってるよ。ローランの森だろう」
「そう、それなんだが。その魔猪が薬草も食べちまうんで今、薬草不足なんだ。それに合わせて回復薬もたりてない現状、今はどこもそんな感じかね」
「他の商品も買っていくから70ダットで無理かな」
「アレンの頼みだから、値下げしたいんだがどこも今は薬草が欲しがってるからね。薬師やギルドに売ればこの値段以上で買ってくれる。これでもだいぶ下げてるんだよ」
「うーん」
80ダットか。回復薬を自分で調合して1本120ダットで売れば僅かだが利益も出る。それに回復薬はうちの売れ筋商品の一つ。回復薬のついでに別の商品を買っていくお客も多いくらいだ。在庫は切らして置きたくない。背に腹は変えられない。
「わかった1つ80ダットで買うよ」
「まいどあり!」
ゴーン
薬草の他にいくつか商品を見て周り購入すると、お昼の鐘の音が街中に鳴り響いた。
「少し小腹が空いてきたな」
市場に繋がっている道沿いにはいくつもの露天が並んでいる。小鳥のモンスターポッポの蒲焼や唐もろこしの焼ける香ばしい匂いがただよってくる。
「今日はポッポ焼きでもしようかな」
店の近くまでくると人だかりができていた。今日も繁盛しているようだ。
そんな人だかりの中、明らかに怪しい不審者がいた。
顔を隠すようにフードを顔半分まで被り、挙動不審にあたりを見回している。
顔は見えないが、服の材質を見ると滑らかな質感に上質な皮を使っているのがわかる。背丈から見て子供。どこぞの裕福な商人の子供か下級貴族が冷やかしにきたのかと思った。
普段ならこういういかにも怪しい人物とは関わらないようにしているのだが、あまりの挙動不審ぶりに思わず好奇心の方が勝ってしまい、つい声をかけてしまった。
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