店にきた剣を買い取ったら、事件に巻き込まれました
賢者
第1話 イーグルの剣
「いらっしゃい」
横開きの扉を力強く開け、今日最初のお客さんがやってきた。
「やあ、アレス景気はどうだい?」
くたびれたヨレヨレのシャツに使い古されて底がすり減った厚底のブーツ。パッと見酒場で飲んだくれてるロクでなしか、街をうろつく浮浪者。唯一丁寧に磨かれてる防具とベルトに吊るしてる剣が彼を冒険者だと証明してくれる。
そんな彼だが今日は何やら細長い袋を大事そうにかかえてやってきた。
「まぁ、ぼちぼちかな。昨日たまたま大きい商談がうまくいて、しばらくはまた食いつなげそうだよ」
「へー、そりゃいい」
「今日は何のようできたんだい?回復薬かい?それとも前回のような二日酔いに効く毒消しかな?」
「あー、いやいや今日はそういういった用向きじゃないんだ。二日酔いの毒消は後で話すかもだが、今はいい。今日は大事な用事があってここに来たんだ」
「ほー大事なようって?」
「ここは雑貨屋だよな?」
「そうだな。薬草から、食料、アンティーク、玩具も売ってる。冒険者用の防具や剣まで何でもそろうぜ」
「おお、そりゃ凄い!ここなら何でも揃いそうだ!確か売るだけじゃなくて……買取もやってるんだっけ?」
「もちろん買取もやってるよ。ギルドで売るよりは色をつけて買い取ってるつもりさ。もしかして今回は買取かな?」
「そう!そうなんだ!これを見てくれ!」
アレスが話を振るとヨレヨレの男は待ってました!とばかりに声をあげて食いついてきた。
男は大事そうにかかえていた細長い袋を店の台に置く。
「開けてみても?」
「ああ、いいよ」
袋を開けてみる。細かな装飾模様があしらわれた、大ぶりな剣が現れた。刃は鋭く、装飾と刃のきらめきが合わさって芸術的な美しさを醸し出していた。
「おお、これは凄い。特にこの柄部分の装飾が見事だ。この複雑な雲模様は人間の技術では到底制作不可能。ドワーフの作品だな。それもかなりの腕の。これをどこで手に入れたか伺っても?」
「そうだろう、そうだろう。これは祖父のドワーフの友人が祖父に譲り、祖父が亡くなって、祖母から私にいただいたものだ」
「ほう」
「祖父は、暗黒戦争に出陣していた兵士だった。せまりくる魔物達、祖父と友人たちは戦った。戦いには勝ったが、祖父の友人は、惜しくもその時の傷が原因で亡くなってしまったんだ。ドワーフの友人は死ぬ間際、自分の持っている剣を祖父に譲り、祖父はその剣を持ち帰ったわけだ。んで、その祖父はつい最近亡くなり、剣は祖母に渡り、私に渡ったわけだ」
「そんな大事なものを売ってしまっても?」
「あー、その少しお金が必要でな……」
「ふむ、まあわかった。鑑定してもいいかな?」
「ああ、ああ、いいぞ頼む」
ちょっと挙動不審なところもあったがお客だ。怪しいが確認してみる。
「この特徴的なフォルムと、装飾。おそらく鉄の神と呼ばれたイーグルの作品だな。もしこの剣が本物なら7000万ダットはくだらない」
「そんなに!」
7000万と聞いた瞬間ヨレヨレの男は目を輝かせる。
「ただ、少し気になる点が。若干重いのが気になる。イーグルの剣ならもう少し軽いはずなんだが」
鞘から剣を取り出し、軽くふる。
「わずかだが、少し重い、いや重すぎる」
「そんなはずはない!柄頭の部分を見てくれ!彼の刻印があるはずだ!」
剣をひっくり返し柄頭の確認する。すると幾何学模様と文字が組み合わさった不思議な文体で書かれた刻印がそこに彫られていた。
「確かに刻印はあるな。ちょっと待ってくれ」
引き出しから薄い水晶版で湾曲したレンズようなものを取り出す。
「この魔道具を知ってるか?」
「ま、魔力を見る道具だろう。冒険者ならみな知ってる」
「そう。これは魔力の残滓を視覚的に見ることができる魔道具。普段は魔物の魔力の残滓を確認するときに使うが、このレンズを刻印にあてると」
ボンヤリと薄緑の光が浮かびあがった。
「刻印を打ち込んだ制作者の魔力の残滓が見える。……残念だがイーグルの作品ではないな。彼の作品ならいくつか見たことあるが、その時は綺麗な蒼紫色の魔力だった。これはおそらく別の誰かが作った模造品。贋作だな」
「そ、そんなぁ」
「ただ、この製作者イーグルほどではなかったとは言え、かなりの腕はあったようだ。これだけの装飾と剣なら、50万ダットの価値はあるね」
「ぐぅ……」
「売るか?」
「……金が、金が必要なんだ。売る!」
「わかった。希望価格はどうだ?」
「さっき50万と言ってただろう。……50万だ!」
「あぁ、50万はあくまでウチの店頭で並べる値段。その値段で買ったらウチは大赤字になる。さらに言うとこの剣は戦闘で使ったからだろう、刃や鞘のひび割れ、他もかなりの損傷が激しい、売るにしても一回修繕して完全な状態にしなきゃならん。出すとしても7万までだな」
「な、7万!それは、それは安すぎる!」
「どうする?」
「ぐぅ、20万ダット!」
「10万」
「15万ダット!」
「いや、10万までだ。これは、できうる限りの最高ライン。これ以上は譲れない」
「じゅ、10万じゃ、死んだ祖父に顔向けできない!12,5万ダット!」
「10,5」
「11万ダット!」
「10ま「い、いやそれでいい」わかった」
「それでは10,5万ダットで買取ろう。商談成立だ」
「はぁ、今日は負けだよアレス。いい買い物をしたな……」
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