o Ⅳ「危機先にて男と出逢い」
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「燃えてますね。リィンの屋敷」
純潔宮廷の一室から、騒ぎを高みの見物で眺める二人の幹部女性騎士。
「デイルナがコレ見たらどう思いますかね?」
一人は銀髪の少女騎士。ツインテールを靡かせ、それといった反応を見せることもなく”元仲間の居場所”が消えゆく様を見守っている。
「さぁ?『私の友達の家をよくも!』って喚き散らすんじゃないの? たぶん」
もう一人は長身の女性だった。口紅で口元を整え、アイラインもズレていないのかを手鏡で確認している。燃え盛るリィンの館には特に興味はないようだ。
「……死にましたかね、リィン」
「さぁ、どうでしょうね~?」
手鏡をしまい、火の手が収まりつつある遠くの屋敷にようやく目を向ける。
「あの子、話によればゴキブリ以上にしつこいって言うけど~?」
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画面いっぱいに広がる黒い間抜け面。それがピッタリと離れない。
「ぎゃァアアアーーーッ!?」
B級ホラー映画並みの不意打ち。怖いかどうかと言われたら全くそうではないメイクではあるものの……ビックリ系はあまり得意ではないリィンは涙目に叫び散らす。
「何か出たんだけどぉおーーッ!?」
「あわわわわわ……!」
ぬいぐるみ代わり抱き着かれたマレナは勢いからか操作が雑になり始める。街中を直進中の人型兵器はこれでもかと体を揺らし始めた。酔っぱらいの運転みたいだ。
「うおわぁあっ!? コラ! 雑に動かすなっての! こっちは怪我人なんだからもうちょい手心を……おっとととととと!?」
これだけ大振るいな運転になろうが黒こげの男はそこから剥がれようとしない。モニターのカメラにしっかりと顔面を擦り付け、自身の存在をアピールし続けている。
「何よ何なのよコイツぅ!? 幽霊!? 幽霊なのね!?」
「あぁ、なるほど……アレだ、あの“何か分からない奴”だ」
マレナは黒焦げ男の正体に気づいたのか冷静になり始めた。
「リィンさま、落ち着いてください。幽霊なんて非現実的なこと、この世には存在しませんから」
「じゃあゾンビね!? 或いは炎の妖精!?」
「妖精はこんな汚くないし、野蛮じゃありません」
今も従者のマレナに抱き着いたまま、大泣きに発狂を続けるリィン。この先思いやられると言わんばかりの呆れ顔でマレナはモニターを眺め続けている。
「あの炎の中、無事でしたか」
屋根裏部屋。最も火の手が回りやすいものばかりが置かれていた場所に放り込まれた“刺客”。あのまま火だるまになったのではと思っていたが、どうやら生きていたようである。
「危うくトーストになるとこだったぜ……丈夫な体に感謝だなチクショウ!!」
___それは屋根裏部屋に吹っ飛ばされて直ぐの事。
この男はすぐさま反対方向の壁を突き破って外へ大脱出。そのまま館の裏庭にあった水道を全開にし、火の手が回っていた自分自身を鎮火したらしい。
「……しかし随分と豪快な脱出だな。お嬢ちゃん方ァ」
モニター越し。会話が成立している。
「一体のコックピットを無理やりこじ開けて、乗り込んだ後にコントロールを奪うとはねぇ」
ちなみにだが、今地点で男女は“会話”をしているわけではない。
たまたま成立しているだけだ。二人とも一方的に喋っているにすぎない。
「よう、マイク越しに伝えているはずだから、聞こえているだろ……今すぐにコイツを止めな。さもなくば実力行使だぜ」
今、ようやく二人へ交渉を持ちかけたところだ。真っ黒こげの男は今すぐに人型兵器を止めるようにと脅迫をかける。
「はっ、実力行使がなんですと?」
コンピューターを操作。まだかろうじて動かせる兵器の左腕を振りかぶる。
「おおっと!?」
これだけのサイズの人型兵器だ。人間一人でどうにか出来るはずもない。殴られかけた茶髪の男はすぐさま人型兵器から離れる。
「……ああそうかい。止まらないかい」
直線上。止まる気配など一切ない人型兵器の前方数メートル先へ。
向こう側は停止するつもりはない。そこをどかないのなら撥ね殺すつもりでもいるようだ。突然切りかかった乙女に情けがあるはずがない。
「じゃあお兄さん。乱暴になっちゃうよ」
___止まらないのなら、止める。
その表情、その立ち振る舞い。お互いに退こうという気配は一切見せない。
「何よ、やるっての……!?」
“止めようというのか”?
コックピット内のリィンとマレナは二人して顔を見合わせる。だが、どうであれ逃げ道はこの一直線しかない。人型兵器に急ブレーキをかけるわけにはいかない。
「言っとくけど止まらないわよ……ぶっ飛ばしてでも突っ切る」
「すぅうーーー」
茶髪の男は当然、聞こえるはずもないリィンの警告に反応する由を見せない。
「ホンットウに知らないわよ!? 覚悟出来ちゃってんの!?」
「しっかりと踏ん張ってなよ……お嬢ちゃん達!」
警告。逆に警告。
「俺には“コイツ”があるんでね……!」
男の“ふくらはぎ、太腿”が膨れ上がる。
まるで風船のように少しずつ。ジーパンの生地の編み込みがチーズのように割れ、中の筋肉が微かに露わになっていく。煙がこみあげていく。
「おんどりゃァアアーーーッ!!」
途端、男はバッタのように飛び上がった。
「飛んだ!?」
さっきまで男がいた地点。アスファルトの地面にはヒビが入っている。ポッカリと開いたスニーカーの跡まで、クレーターとして残っている。
「あの脚! あの蒸気……ッ、あの無謀っぷり!」
突っ込んでくる。人型兵器に。そのまま正面衝突してしまえば即死は免れない。
「まさか、あの男も
だが、男は突っ込みをやめない。足の指先を伸ばし、ボウガンの矢のように突っ込んでくる。
「ぶっ放せぇえええッ!!」
___蹴り込む。
膨れ上がった右足を人型兵器の胴体へとぶち込んだ。
「……っ?」
その瞬間だった。
「えっ」
コックピット内の二人の体が浮きあがった。
「「そんな……ッ!?」」
それだけじゃない。
“人型兵器が進んでいる方向とは逆方向に吹っ飛んでいる”。
「そんなバカな……何がッ!?」
急停止。乱暴な実力行使。負けた。パワー差で。
「“鉄でスニーカーが出来ているのッ”!?」
人型兵器は進路方向とは逆方向に転倒。転がる。
___完全停止。
人型兵器は一人の男の全力キックにより押し負けぶっ倒れたのである。
「いっつつ……」
「リィン様、お怪我は!?」
コックピット内は転倒によって揉みくちゃ。まるで洗濯機のようにかき混ぜられた二人は脳震盪を必死に堪えながらも立ち上がろうとする。
「私はいい! あの真っ黒は!?」
朦朧としながらも意識を取り戻そうとする。あの男は何処へ行ったのか、状況を探らなくては。
「はい、お疲れちゃん」
しかし、視界が定まった頃には時すでに遅し。
「おとなしくしてような、小猫ちゃん達」
二十代行くか行かないかの青年だろうか。
カッコつけたいお年頃。ダンディなのかキザなのか。それっぽいセリフを吐き、男は拳銃を向けてニヤついていた。
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